6月の記事

『苦い銭』ひたすらディテールを積み重ねることでにじみ出てくる何か。『収容病棟』にもそれは共通している。

『苦い銭』(2016年・フランス・香港合作、163分)をみた。163分もつかなと思ったが、途中わずかにZZZZが入ったが、見終わったときの気持ちとしてはかなり充溢した感覚が残った。 タイトルがいい。いい映画の匂いがする。原題も中国語・英語・フランス語《苦…

『万引き家族』に「作品の寸評はさておくけれど」の市議の仕儀、「公」を後生大事に勘違いし続ける人たち

『万引き家族』は、まだみていない。好きな食べ物はあとに取っといてというわけではない。単に映画館が込むのが嫌なだけだ。 人込みが苦手になったのは50歳を過ぎたころからだ。つれあいと映画館に出掛け、込んでいたので仕方なく別々に坐ることにした。空い…

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)にみる伝えることの「当事者性」について③   体験することだけが当事者性をもつわけではない

作品の中では,津波にのみ込まれていく人々の様子,避難所の様子,死体安置所の様子など「私」の目を通してすさまじいディテールが語られる。しかし彼女が言うように「私」の眼を通して語られるほとばしるような言葉は,北条が見たものではなく,「思考」し…

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)に見る伝えることの「当事者性」について②     3・11の中で奪われ続けた当事者性とは

「小説を書くことは罪深いことだと思っています。(略)それは被災者ではない私が震災を題材にし,それも一人称で書いたからです。/実際,私は被災地に行ったことは一度もありません。(略)あまりに大勢の被災者たちの喪失を想像することが恐ろしかったので…

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)にみる伝えることの「当事者性」について① 大和市文化創造拠点「シリウス」で群像6月号を見つけた

夕刊に月に一度掲載される文芸時評で,「美しい顔」という作品が群像新人賞を受賞したことを知った。書き手の北条裕子は全く知らない人だが,評者佐々木敦の絶賛に近い批評に刺激され,雑誌『群像』を探してみた。 評判となっているのか6月号は店頭ではすで…

消費社会ではクラシック音楽家も「ビジュアル」で勝負する。石坂団十郎と小菅優、そしてヘルベルト・ブロムシュテット

6月16日,雨もよいだが,久しぶりにコンサートへ。大和駅至近の大和芸術文化ホール。2年前に大和市文化創造拠点シリウスの一部としてできたもの。1007席の音楽用ホール(だと思う)だが,演劇やそのほか多目的なイベントに使用されているようだ。前の座席と…

映画にみる難民問題④ みなどこかで愚かで温かい素敵な人々の・・・と言い切れないヨーロッパの現実と日本

もう一本『はじめてのおもてなし』(2016年・ドイツ・116分)も難民問題を題材とした映画だ。原題は『Willkommen bei den Hartmanns』(ハートマン家へようこそ)。ハートマン家に一人の難民の青年を受けいれるという意味で、日本の配給会社は邦題に「おもて…

映画にみる難民問題③ ガラス細工のように壊れやすい「希望」を追い求めるカウリスマキへの共感

一方,『希望のかなた』は少し趣きが違う。あらすじを少しだけ。 舞台はヘルシンキ。トルコからやってきた貨物船に身を隠していたカーリド。シリア・アレッポで家族を失い,たったひとり生き残った妹と生き別れに。彼の願いは妹を探し出し,ここヘルシンキで…

映画にみる難民問題②『ル・アーヴルの靴みがき』市井の人々と移民難民問題

『ル・アーヴルの靴みがき』(原題:Le Havre フィンランド・フランス・ドイツ・93分)は,2011年の映画である。監督はフィンランド人のアキ・カウリスマキ。日本での公開は2012年だが,昨年暮れに同じ監督の『希望のかなた』(原題:Toivon tuolla puolen<…

映画にみる難民問題①~日本にはほんとうに難民問題はないのか?

労働問題などもそうだが,日本でつくられる映画にはテーマとならないものがいくつかある。難民問題もその一つである。 今もシリアやアフリカから難民らが押し寄せ続けているヨーロッパでは,難民問題は政治課題のトップと言っていい問題である。数年前までは…

阿智村 満蒙開拓記念館 なぜ長野県出身者が多いのか 

信州のこと、少しだけ。今回は高遠と松本に1泊ずつ。高遠泊は、通い始めて7年ほどにもなる「山荘五合庵」。老齢のご夫婦で営む一日一組の宿。この日は、私の長兄夫婦と4人で。夕食はいわずもがな。これが夕食でもいい!とよく言われる朝食。写真がへたくそ…

強雨の中、平尾容疑者は漆黒の海に泳ぎだす~尾道・向島

更新されていないねとまだ数人しかいないフォロワーからのひとこと。7日からつれあいとふたりで信州へ。3日ほど不在にしていたせいである。 尾道の「棒」の話ばかりか、その前振りの本厚木の映画館で見た二本の映画の話も、終わるどころか始まっていない。こ…

映画の話なのにラーメン屋の合理性とはの話に。

先週、高校時代の友人二人としまなみ海道の旅に出かけた。帰って一週間が経つが、朝の散歩や図書館、簡単な買い物以外はほとんど外出をしていない。いくらなんでもこのまま閉門蟄居は気詰まりなので、気になっていた映画を見に行くことに。今回も本厚木の映…

記憶と格闘する老人の物語  映画『手紙は憶えている』

「記憶」をめぐる映画として,シャーロット・ランプリングの『さざなみ』に触れたが,もうひとつ『手紙は憶えている』(2015年・カナダ・ドイツ・95分・監督アトム/ エゴヤン)にも触れておきたい。 この映画,実はごく最近になって見た。つれあいがAmazonプ…

「苦い」映画 『ベロニカとの記憶』

3年前に見た映画『めぐりあわせのお弁当』(2013年印・仏・独105分・監督リテーシュ・バトラ)は、良くできた映画で、少しの破綻もなくほぼ完璧に最後まで愉しめた。ディテールはもう覚えていないが、見終わったときの満足感、快哉が今でも残っている。その…

カワセミ

今朝6時半、今日も曇っているだろうと思って外に出てみると、意外に強い日差しがさしている。帽子をとりに戻り、いつものように二人で境川河畔の遊歩道へ。 対岸は大規模開発が始まって1年、5~6mの高さの壁が200m以上にもわたってつくられてしまったので…