消費社会ではクラシック音楽家も「ビジュアル」で勝負する。石坂団十郎と小菅優、そしてヘルベルト・ブロムシュテット

 

f:id:keisuke42001:20180619171238p:plain

  6月16日,雨もよいだが,久しぶりにコンサートへ。大和駅至近の大和芸術文化ホール。2年前に大和市文化創造拠点シリウスの一部としてできたもの。1007席の音楽用ホール(だと思う)だが,演劇やそのほか多目的なイベントに使用されているようだ。前の座席との間が少しだけ広いかな?床も反響板もすべて木。よく響くホール。ステージの天井がかなり高い。ピアノが小さく見える。 

小菅優(P)×石坂団十郎(Vc)デュオリサイタル」。演目はアンコール以外すべてベートーベン。「ベートーベン詣(mo-de)」というシリーズを続けているようで,その一環だとか。

   小菅は1983年生まれ。よくある登竜門としての国際コンクールからプロの演奏家になっていくというのとは違って,9歳からドイツにわたりさまざまな演奏家とのコンサートを重ねて,実績を作ってきた人のようだ。ザルツブルク音楽祭でリサイタルデビューをしたというのは大変に珍しいことだとか。 

   私は,テレビで何度か演奏を聴いて,自分ではよくわからないけれど,強く引き込まれるような演奏だなと感じたのが最初。新聞のインタビュー記事でその人となりも少しだけ。最近よく出てくるモデルのようなクラシック演奏家,演奏そのものより,かわいい顔,スタイルや身のこなしなどビジュアルで勝負といったタレント系の人たちとは一線を画している。別に小菅がビジュアル的でないと言っているのではない。ビジュアル系がちょっと鼻につくと言っているだけだ。小菅からは今回,演奏家としての身のこなしなど風格のようなものをその演奏から感じ取ることができた。
曲目は
Aヘンデル《ユーダス・マカベウス》から「見よ,勇者は帰る」の主題による12の変奏 曲ト長調Wo045
Bチェロ・ソナタ第2番ト短調op.52
休憩
Cチェロ・ソナタ第1番ヘ長調op.5-1
Dモーツアルト魔笛》から「娘か女」の主題による12の変奏曲へ長調op.66
Eチェロソナタ第4番ハ長調op.102-1

   チェロの石坂団十郎という名前は初めて聞いた。初めてといっても,もともと私は日本のクラシックのことをほとんど知らないし,かといって海外の演奏家のことを知っているかというと,これまた全く知らない。コンサートに出かけるのも年に10回もない。音楽は主にCDやレコードで聴いている。だからこの長身痩躯の若者のことは何一つ知らなかった。 

   1979年生まれ。そろそろ40歳になるから若者とは言えないか。小菅とは違って,彼は数々の国際コンクールを経てよく知られる演奏家になっていったようだ。父親がドイツ人,母親が日本人のダブル。ということで,30代後半の,手練れの二人の演奏はどうだったか。聴きに来てよかった!

   Aは運動会でも大相撲でも演奏される表彰式のメロディー。授業で「あれはヘンデルの作曲なんだ」と言ったら「ウソだあ,また冗談ばっかり」と中学生に笑われたことがあるが,それぐらいよく知られたメロディー。

   ベートーベンにはこうした変奏曲がいろいろあるが,よく言われるいい方で言えば,ベートーベンのヘンデルモーツアルトへ限りないオマージュ,つまり私はあなたの音楽を心から尊敬しているので,あなたの一部を私の曲に使わせてくださいということ。Dも同様である。これとBは楽しく聴いたのだが,休憩の後のCはなんだかよくわからずついZZZとなってしまった。 

   気を取り直して聴いたDとE。これは聴いていて楽しかったし,少し興奮した。ベートーベンってこうだよねという,私でも言える程度にわかりやすく演奏していて,二人の間に流れる緊張感もよく感じ取れた。Dなど,パパゲーノの「パパパ」なんか吹っ飛んで,ベートーベンが前面に。モーツアルト顔色なしという具合だった。二人の丁々発止の演奏は,ありがちな言い方だが1+1は5でも10にでもなるということ。機会があればまた聴いてみたい二人だ。

   次の日,Eテレ夜9時からのクラシック音楽館,後半ベートーベンの交響曲7番を聴く。ヘルベルト・ブロムシュテット91歳!これまたひきこまれた。何とも色気とエネルギーが横溢する演奏。

 カーテンコールのときに,各パートへどんどん入っていって聴衆に紹介する姿に驚いた。マエストロもかくや?1時間以上も聴衆の前に立ち続け、有数の手練れの演奏家を数十人をまとめる手腕、ここまで来ても、いやここまで来たから?一回一回の演奏に全身全霊をかけているのだろう。こういう人をスーパーマンというのだろう。

   寝つきが悪くて困ってしまった。