『ファースト カウ』など2024年2月の映画寸評⓵

年が変わってから映画館によく足を運んでいる。

2024年2月の映画寸評⓵

<自分なりのめやす>

ぜひお勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(8)『いま、ダンスをするのは誰だ?』(2022年/日本/114分/原作・監督:古新

   舜/出演:樋口了一/2023年10月7日公開 ⭐️  ジャック&ベテイ 2月1日

2009年にパーキンソン病と診断されたシンガーソングライターの樋口了一が主演を務めたドラマ。40代で若年性パーキンソン病と診断された主人公がダンスを通じて自身の生き方を見つめ直していく姿を描く。

家庭を顧みず、仕事一筋で生きてきた功⼀は、ある日若年性パーキンソン病と診断される。妻とはすれ違いが続き、娘とも仲が悪かった功一は、その事実を受け入れることができず、職場でも仲間が離れていき、ひとりで孤独を抱えてしまう。そんな中、功一はパーキンソン病のコミュニティ「PD SMILE」に通い始める。コミュニティで本音を話せる友人ができた功一は、人とのふれあいの大切さを痛感し、不仲だった娘ともダンスを通じて関係が改善されていく。

樋口が主人公・功一を演じるほか、杉本彩塩谷瞬、IZAM、渋谷哲平、吉満寛人、新井康弘らが脇を固める。監督は「あまのがわ」「ノー・ヴォイス」の古新舜。

                          (映画.com)

 

パーキンソンを患う役者樋口了一が主演を務める。映画制作までの経緯は毎日新聞に大きくとりあげられたものを読んだ。たやすい道のりでなかったことがよくわかった。しかし残念だが、完成度の低い映画となってしまった。

ストーリーに込めた想いは理解できるが、脚本をはじめ映画をつくる技量が不十分。ストーリー展開がありきたりで、設定がいかにもつくりものめいている。役者の演技にキレがないし、観衆を惹きつけるものが希薄だ。主人公の周囲の人々の病に対する理解についても掘り下げ方が浅かったと思う。病気に対する偏見は根深いものがあるし、家庭問題にあっても離婚や親子関係の描き方が浅薄。一つひとつのエピソード、シーンの必然性が感じられない。ここにしか入らないピースの選択が甘いと思った。

ただ、パーキンソン病を取り上げたことは大きな意義があるし、「I am パーキンソン病」ではなく「  I have パーキンソン病」だというメッセージは響いた。

 

(9)『朝が来るとむなしくなる』(2022年/日本/76分/脚本・監督:石橋夕歩/

   出演/唐田えりか 芋生悠/2023年12月1日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️ジャック&ベテイ

   2月1日

寝ても覚めても」の唐田えりかと「ソワレ」の芋生悠が共演し、人生に諦めを感じていた女性が、同級生との再会をきっかけに自分らしさを取り戻していく様子を描いた再生の物語。初長編作「左様なら」で注目された新鋭・石橋夕帆監督の長編第2作。

会社を辞め、コンビニでアルバイトとして働く24歳の希。バイト先でもなかなかなじめず、実家の親にも退社したことをいまだ伝えられないまま、今日もむなしい思いで朝を迎える。そんなある日、中学時代のクラスメイトだった加奈子がバイト先にやってくる。最初はぎこちなく振る舞う希だったが、何度か顔を合わせるうちに、加奈子と距離を縮めていく。加奈子との偶然の再会が、希の日常を少しずつ動かし始めて……。

石橋監督が当て書きしたという唐田えりかが主人公の希を演じ、「左様なら」に続いて石橋監督とのタッグとなる芋生悠が加奈子に扮した。(映画.com)

 

取り立てて何にも起きない若い女性の日常の微妙な生きがたさを、二人の女優を通じて伝わってくる。期待しないでみにいったが、面白かった。こういう映画・ありだなと納得。脚本を書いて演出した石橋夕歩監督のセンスのよさ、東出昌大との不倫で話題となった唐田の自然な演技、それから芋生悠という個性的な女優の絡みがが面白かった。二人の距離の近づき方の妙。セリフがよく練られていて自然、現実の若い女性がどんなふうに話しているか知らないが、すっと入ってくる。

芋生はドラマ『SHAT  UP』や映画『夜明けのすべて』にも出ているが、この映画がいちばんよかった。石橋監督のタッグの前作『左様なら』をみてみたい。

いつものことだが、男女問わず、若い役者がどんどん出て来ている。老人はなかなか追いついていけない。画像10

 

(10)『ファースト カウ』(2022年/アメリカ/122分/:First Cow監督:ケ

   リ ー・ライカート/出演:ジョン・マガロ オリオン・リー/2023年12月22

   日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ kiki 2月5日

 

「オールド・ジョイ」「ウェンディ&ルーシー」などの作品で知られ、アメリカのインディペンデント映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、西部開拓時代のアメリカで成功を夢みる2人の男の友情を、アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ。

西部開拓時代のオレゴン州アメリカンドリームを求めて未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民キング・ルーは意気投合し、ある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツをつくって一獲千金を狙うというビジネスだった。

クッキー役に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のジョン・マガロ。これまでライカート監督作の脚本を多く手がけてきたジョナサン・レイモンドが2004年に発表した小説「The Half-Life」を原作に、ライカート監督と原作者レイモンドが脚本を手がけた。2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

 

アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ」とはとても思えない深みのあるしぶい映画。くわからないが、圧倒される映画というのがあるが、これがそれだ。全く妥協の感じられない、一つひとつのシーンが丁寧に磨き込まれているといった印象。見る側は少ないセリフから想像力を膨らますしかないのだが、それが至福、映画に「包まれる」のだ。不思議な魅力の映画だ。

 

(11)『ノセボ』(2022年/アイルランド・イギリス・フィリピン・アメリカ合作/

   97分/原題Nocebo 監督:ロルカン・フィネガン/出演:エバ・グリーン マ

   ーク・ストロング/2023年12月29日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️ kiki 2月7日

ビバリウム」のロルカン・フィネガン監督が、幸せの絶頂にいた家族が恐ろしい怪異に見舞われる姿を独特の世界観で描いたホラー。

ファッションデザイナーのクリスティーンは、夫フェリックスや幼い娘ボブスと共にダブリン郊外で順風満帆な生活を送っていた。ある日の仕事中、彼女はダニに寄生された犬の幻影に襲われる。8カ月後、クリスティーンは筋肉の痙攣や記憶喪失、幻覚などを引き起こす原因不明の体調不良に悩まされていた。そんなクリスティーンの前に、彼女を助けに来たというフィリピン人の乳母ダイアナが訪ねてくる。雇った覚えのないダイアナを不審に思うクリスティーンだったが、ダイアナは伝統的な民間療法で彼女の不調を取り除き信頼を得る。クリスティーンは次第に民間療法にのめり込んでいくが、それは想像を絶する恐怖の始まりだった。

 

ホラーはあまり好んで見ないが、気になった映画。合作の国々の取り合わせの妙。一人の有能なデザイナーの身体に取り付いたノセボ(ダニ)を追い出すために、フィリピン人メイドが除霊するのだが。背景には、アジアの低賃金の労働力を駆使して成功を夢みる西欧のデザイナーと、抑圧されこども奪われたアジアの若年女性労働者の怨念のぶつかり合い。幻覚の映像が寓意に満ちていて惹きつけられる。子役もいい。エバ・グリーンの演技はみもの。

ホラーというが、心理劇といった方がいいかもしれない。

画像9

1月のあれこれ

2月も半ばを過ぎたのに1月にみた映画のことを書いている。内容はほぼ忘れているが、、思い出そうとするとよみがってくるものもある。

 

老人の日々の記録など取るに足らないものだが、生活のディテールは一日いっとき同じものはない。1月のあれこれを思い出して書いておこうと思う。

 

1月1日

次女家族がくる。今年初めての蕎麦打ち。長いこと打ってはいるが上達しない。

ただ、この日は我慢ができた。そばがまとまってくるまで分量の水で打ち切った。しっかりした蕎麦が出来た。もちろん二八だが。

 

暮れに『シャイロックの子どもたち』を福島市のホテルで酒を飲みながらみたのをきっかけに池井戸潤を読んでみる。『不祥事』『株価暴落』『銀行狐』そして『シャイロックの子どもたち』。

旧作の文庫本だが、銀行の中のことが少しわかった。

 

『デフヴォイス 法廷の手話通訳士』前後編(NHK)をみる。

いまいちかな。

 

夕方、能登で大地震。大変なことになっているのがわかったのは次の日になってから。

阪神淡路の時もそうだった。

 

1月2日 羽田で日航機と海上保安庁の飛行機が衝突。5名死亡、1名大怪我。日航機の乗客は無事。C Aの適切な誘導によるものだという。あとでわかったことだが、このCAさんたちはまだ経験の少ない人たちだったという。379人を18分間で脱出させた。機長と連絡がつかなかったCAは、自分の担当の箇所からの脱出を自分で判断したという。

 

1月4日 蒲田のKさん宅を友人4人で訪問。98歳になったというKさんの正月料理をいただく。恐縮。

 

1月5日 愉音「ニューイヤコンサート」アートフォーラムあざみ野。

曲目:A・ヴィヴァルディ「四季」より「春」

   J.Sバッハ無伴奏チェロ組曲第1番BWV1007より3曲

   C.シューマン「3つのロマンス」OP.22より2番

   E .Wコルンコルド ヴァイオリン協奏曲より第1楽章

   F.メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番より第一楽章

 

    絵本と音楽

    絵本 ”パパ、お月さまとって” エリック.カール

    音楽 C. ドビュッシー 「月の光」

                          他

 

ドミトリー・フェイギンさんのバッハ、松本親子のシューマン梯剛之ドビュッシーが印象に残る。とりわけ梯のいつも以上の音色の清澄さが印象に残る。

 

夜、卒業生と新横浜で食事会。今年40歳になる女性3人、KさんTさんMさん。27年前に1年だけ授業を持った人たち。どこか馬が合う。この年齢の仕事の話は面白い。

 

1月9日 たまには温泉にでもと、二人で出かける。熱海に1泊。梅が咲き始めている。

来宮神社。熱海を訪れたのは数え切れないが、この神社に来たのは初めて。

国指定天然記念物の大樟(おおくす)。説明板には樹齢2000年以上とある。

境内で猿回しを見る。何年か前、湯島天神で見て以来。

 

1月11日 ふた月に一度の組合の会議のあと、4人で大船のかんのん食堂。

2022年1月に全焼したあと、くるたびに再建の様子を伺っていたが、新装なって再オープン。それから2度目。相変わらず人気の居酒屋。大船観音のお膝元。

 

1月13日 卒業生KS君と長津田Sで。

川崎競馬で働く彼と会って旧交を温めたのは5月だったか。

KS君、アルバムを持って参上。「これがなければ話にならない」と。埋もれていた記憶がいくつも蘇る。

ひょんなことからKS君のひと回りしたのOU君との交流が始まる。

暮れにブログに「31年前に担任していただいたものです」という書き込みがあった。

素性を明かしてもらうと、下の名前と顔が思い浮かんだ。中学2年の時担任した。

端正な顔立ちの穏やかな少年だった。

年末年始と、やり取りが続く。住まいが意外に近いのに驚く。

息子の受験が終わったら会いに行きます、とのこと。

いつも困ったなあと思うのは、教員であった自分の言動が、卒業生の記憶の中に残っていること。自分は忘れているのに。

 

1月16日 大学の授業再開。と言ってもこの日を入れてあと2回。たった13回の付き合いなのに、3週間ぶりでも少し懐かしい。

 

1月23日 最後の授業。今年度最後というだけでなく、8年間の「おつとめ」の最後。

帰りグランベリーパークでMさんと慰労会。

初めてトラジハイレーンに。

高級焼肉店のアウトレット版。料理や飲み物はレーンに乗って運ばれてくる。しかし

ハラミ以外は取り立てて美味いものなし。価格は立派だが。

もう行かない。

 

1月22日 やさしいコーラス。今回もMさんと二人。

Ave verum corpus」(K .618)を90分全パートの譜読み、みっちりと。

レクイエムがK.626。モーツアルトが亡くなる半年前に書いた宗教曲。

 

1月25日 先般、組合を脱退したAさんと新子安「諸星」。

横浜の「市民酒場」。この店を含めて3店あったが、東神奈川のみのかんは4、5年前に閉店。残るは高島町の常盤木とこの諸星だけ。

 

来店は2回目。前回は、1982年のことだ。

就職関係の出張で近くのビクターの工場に来た時に、同行したSさんに連れられてきたことを覚えている。42年ぶり。

CDが市場に出始めた頃、先行メーカーだったビクターの工場で聴かせてもらった音は、信じられいほどクリアだった。

レコードのプチプチという埃を拾った音や、カセットのシャーっという音は当時は雑音だった。CDの音のクリアさは驚きだった。

1月31日、信州、高遠の培窯、林秋実さんの奥様から電話。窯出しをしました、と。

9月に五合庵に行った時、Mさんがワンプレート用に皿を2枚注文した。出来上がりが楽しみ。

庭のクリスマスローズ

『正欲』(朝井リョウ・2021年)

映画が先だったが、小説は圧倒的。映画は小説をうまく翻訳しているように思えた。

『自由研究に向かない殺人』(ホリージャクソン・2021年・創元社推理文庫)

久しぶりのミステリ。イギリスの若者文化がよくわかる。

『自分で考えて判断する教育を求めて』(根津公子・2023年・影書房

「民主的だった教育がどのように壊されていったのか。中学校家庭科教員による不屈の記録」(帯の文章)

教育が民主的であったことがあったろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「PERFECT DAYS」など2024年1月映画寸評②と配信寸評

みても次々に忘れていく。中身はともかく?みたことだけでも記録しておかないと、何にも残らない。よかったのか、つまらなかったのか、これを読んでくださっている方に<自分なりのめやす>をお知らせすることにした。

 

2024年1月映画寸評②

<自分なりのめやす>

ぜひお勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(5)『PERFECT DAYS』(2024年/日本/124分/脚本/ジム・ベンダース、

   高碕卓馬/監督:ジム・ベンダース/出演:役所広司 柄本時生/2024年12月22日

   公開 )⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 


東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

                       (映画.com)

 

近くのグランベリーシネマ。

もう3週間以上経つが、ふところの中でこの映画の小さな火が燃えているような心持ちがある。

ストーリーを追わない。行為の理由を問わない。ただシーンを丁寧に重ねていく。すると、平山だけでなく、何人もの人物の背景がうっすらと見えてくる。しかしストーリーのディテールは気にならない。何人もの登場人物が呼吸をくりかえすように、わずかに変化していくものを、まるで木の成長を見るような気持ちで眺めている、そんな映画。

心地よい。小津がどうとかいうことはよくわからない。平山のセリフを抑制することで、他の人物がよく見えてくる。雄弁なのは音楽だ。60年70年代のアメリカンポップスが、映画を殊更に思念的にせず、心地よさを増している。画像9

映画のピースの一つと忘れらないのは、平山が訪れるスナックのママ、石川さゆりが歌う浅川マキの「朝日のあたる家」。youtubeにも上がっているが、何度聞いてもゾクゾクする。とってつけたようなハメコミの不自然な音ではなく、スナックの中の空気が震えるように、歌に情がこもっていて響きも豊か。こちらがその場にいて聴いているような臨場感がある。録音技術の高さ。短いが音楽シーンとして秀逸。もちろん石川の演技もこれ以上ないほどの自然体。石川のすごさ、演出のすごさ。

ママの別れた夫、三浦友和と平山のやりとりもかなりいい。ここでも二人のストーリーは語られない。平山の屈託と三浦の諦念がシーンで語られる。柄本時生や、妹麻生祐未や姪っ子とのからみも同様だ。

久しぶりにいい映画をみた画像10

田中泯

 

 

(6)『枯葉』(2023年/フィンランド・ドイツ合作/81分/Kuolleet lehdet(枯

   葉)/監督:アキ・カウリスマキ/出演:アルマ・ポウスティ ユッシ・バタネン

   /2023年12月15日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

 

フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサと、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパは、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないままひかれ合う。しかし不運な偶然と過酷な現実が、2人をささやかな幸福から遠ざけてしまう。

                          (映画.com)

 

近作の『ル・アーブルの靴みがき』『希望のかなた』』しかみたことがないがこの監督は、あとをひく。この映画も同様。ダルデンヌ兄弟と双璧。

ロシア・ウクライナ戦争下のフィンランドの、若者とは言えない男女の労働者の生活をつぶさに見せてくれる。何か主張しているわけではないが、西欧諸国とも極東にいてこの戦争を見ている私たちとも、決定的に違うものがある。人が人を必要とするぎりぎりのところで、互いが手の中からスルッと抜けていってしまう空虚さ。

とことん主張を抑えて、これもまたシーンを重ねていくだけ。こういう映画はカウリスマキにしかつくれない。アキ・カウリスマキ1957年生まれ

 

(7)『市子』(2023年/日本/126分/原作・脚本・監督:戸田彬弘/出演:杉咲

   花 若葉竜也/2023年123月8日公開)⭐️⭐️

川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。(映画.com)

過酷な境遇に翻弄されて生きてきた市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を「街の上で」「愛にイナズマ」の若葉竜也が演じる。(映画.com)

予告編が良かったので見にいったが、残念。役者はいいし、演技もいいのに。脚本が問題。アナがいくつもある。考えていくいるうちに次のシーンに。だからか冗長に感じられる。つくりながら先を考えているのか?完成度低い。素人考えだが、脚本を整理し、物語の結構をしっかりつくれば100分ほどの映画になっていいものになるのにと思った。画像22

 

 

1月の配信 寸評

 

(1)『ラーゲリより愛をこめて』(2022年/日本/133分/監督:瀬々敬久・出演:

   二宮和也 松坂桃李 2022年12月19日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

期待していなかったが、面白かった。時代考証がよかった。ただ翼竜者に流れる時間と戦後の日本の流れる時間のずれが今ひとつ伝わらなかった。北川景子のリアリテイのなさもあるが・・・。

 

(2)『ハードヒット発信制限』(2021年/韓国/94分/監督:キム・チャンジュ/

   出演:チョ・ウジン/2022年2月25日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

アクションスリラー?クルマの座席下に仕掛けられた爆弾をめぐる攻防。この面白さは日本映画を超えている。

 

(3)『シャイロックの子どもたち』(2023年/日本/122分/原作:池井戸潤/監督

   :元木克英/出演:阿部サダヲ 上戸彩/2023年2月17日 500円)⭐️⭐️⭐️

原作に及ばず。もっとミステリスなものにしていいのでは。阿部サダヲがあまり生きていない。

 

(4)『網に囚われた男』(2016年/韓国/112分/監督:キム・ギドク/出演:リュ

   ・スンボム イ・ウオングン/2017年1月7日公開)⭐️⭐️⭐️

豊かな民主主義国家を標榜する韓国、貧困の独裁国家北朝鮮、一人の人間を間に置いたとき、さほど違いはない。人間らしく生きようとすれば国家と対峙、あるいは逃亡しかない。キム・ギドク監督にしては抑制した表現。

 

(5)『夜、鳥たちが啼く』(2022年/日本/115分/原作:佐藤泰志/監督:城定

   秀夫/出演:山田裕貴 松本まりか/2022年12月9日公開)⭐️⭐️

原作をなぞっただけ?完成度低い。面白くない。

 

「正欲」など2024年1月映画寸評①

 昨日は春一番境川沿いの河津桜も咲き始めた。

今朝は一転、北風。カワセミの姿も見えない。

 

2024年1月 映画寸評①

<自分なりのめやす>

ぜひお勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(1)『正欲』(2023年/日本/134分/監督:岸善幸/出演:稲垣吾郎 新垣結衣 

   磯村勇斗/2023年11月10日公開⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説を、稲垣吾郎新垣結衣の共演で映画化。「あゝ、荒野」の監督・岸善幸と脚本家・港岳彦が再タッグを組み、家庭環境、性的指向、容姿などさまざまな“選べない”背景を持つ人々の人生が、ある事件をきっかけに交差する姿を描く。

横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、不登校になった息子の教育方針をめぐり妻と衝突を繰り返している。広島のショッピングモールで契約社員として働きながら実家で代わり映えのない日々を過ごす桐生夏月は、中学の時に転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。大学のダンスサークルに所属する諸橋大也は準ミスターに選ばれるほどの容姿だが、心を誰にも開かずにいる。学園祭実行委員としてダイバーシティフェスを企画した神戸八重子は、大也のダンスサークルに出演を依頼する。

 

2024年、劇場で見た最初の映画。

ほつれなく最後まで集中してみることができた。とりわけ新垣結衣の存在感が大きかった。この女優の新しい面が見えてよかった。

一般的には理解されにくい独特の性的指向への差別的な視線を逸らさずにしっかり描いていると思う。

原作の緻密な構成と表現を、岸善幸・港岳彦の脚本が丁寧に映像に翻訳した印象。読む愉しさとみる愉しさの両方が味わえる。原作へのオマージュを感じる佳作。

                         

 

(2)『レザボアドッグス』(1991年/アメリカ/100分/原題Reservoir Dogs

   監督:クエンティン・タ ランティーノ/出演:ハーベイ・カイテル/2024年1月5

   日/公開 デジタルリマスター版) ⭐️⭐️⭐️

 

クエンティン・タランティーノの監督第1作で、宝石店強盗計画に失敗した男たちがたどる運命を、独特の語り口で緊迫感たっぷりに描いたクライムドラマ。

宝石店を襲撃するため寄せ集められた黒スーツ姿の6人の男たち。彼らは互いの素性を知らず、それぞれ「色」をコードネームにして呼び合う。計画は完璧なはずだったが、現場には何故か大勢の警官が待ち伏せており、激しい銃撃戦となってしまう。命からがら集合場所の倉庫にたどり着いた男たちは、メンバーの中に裏切り者がいると考え、互いへの不信感を募らせていく。

キャストには本作の制作にも尽力したハーベイ・カイテルをはじめ、ティム・ロススティーブ・ブシェーミマイケル・マドセンら個性豊かな顔ぶれが揃った。2024年1月、デジタルリマスター版でリバイバル公開。(映画.com)

 

ネットでの評判も良かったが、今ひとつ。凝っていることはわかるが、成功しているとは言い難い。ちょっと残念。

 

(3)『緑の夜』(2023年/中国/92分/原題Green Night 監督:ハン・シュアイ/

   出演:ファン・ビンビン イ・ジュヨン/2024年1月19日公開 ⭐️⭐️

人生を懸けた危険な冒険に挑む2人の女の運命を、「X-MEN:フューチャー&パスト」などハリウッド作品でも活躍する中国の人気俳優ファン・ビンビンの主演で描いたドラマ。

苦難に満ちた過去から逃れるために中国を離れ、韓国で抑圧された生活を送るジン・シャ。保安検査場での仕事中にミステリアスなオーラを放つ緑色の髪の女と知り合った彼女は、その出会いを本能的に危険だと感じながらも、ふとしたことから危険で非合法な闇の世界へと足を踏み入れていく。

自由のため大きな賭けに出るジン・シャをファン・ビンビン、緑色の髪の女を「ベイビー・ブローカー」のイ・ジュヨンが演じる。監督は、長編デビュー作「Summer Blur」で世界的に高く評価されたハン・シュアイ。(映画.com)

 

コマーシャルも多く、前評判も高かったので封切りを見にいく。期待はずれ。ファン・ビンビンイ・ジュヨンも輝きが感じられない。最後まで、何かあるのか?と期待したが、何もない。ストーリーが凡庸で、惰性に流れている。

 

(4)『弟は僕のヒーロー』(2019年/イタリア・スペイン合作/102分/Mio    fratello rincorre i dinosauri(私の弟は恐竜を追いかけます):原作/ジャコ

   モ・マツアリオーニ/監督:ステファノ・チパーニ/出演:アレッサンドロ・ガス

   マザベラ・ラゴネーゼ/2024年1月12日公開⭐️⭐️⭐️⭐️

 

 

イタリアで暮らす高校生ジャコモ・マッツァリオールがダウン症の弟ジョーを主人公に据えて一緒に撮影した5分間のYouTube動画「ザ・シンプル・インタビュー」から生まれたベストセラー小説を映画化。

初めての弟の誕生を喜ぶ5歳の少年ジャックは、両親から弟ジョーは「特別」な子だと聞かされる。ジョーがスーパーヒーローだと信じるジャックだったが、やがて「特別」の意味を知り、思春期になると弟の存在を隠すように。ある日、好きな子を前についた嘘が、家族や友だち、さらには町全体をも巻き込んで大騒動へと発展してしまう。

「僕らをつなぐもの」のフランチェスコ・ゲギが主人公ジャック、実際にダウン症でもあるロレンツォ・シストが弟ジョーを演じ、「盗まれたカラヴァッジョ」のアレッサンドロ・ガスマン、「パラレル・マザーズ」のロッシ・デ・パルマが共演。本作が初長編となるステファノ・チパーニが監督を務め、「人生、ここにあり!」のファビオ・ボニファッチが脚色を手がけた。(映画.com)

 

弟を通して兄の思春期が描かれる。愛情も痛みも思春期ではより突き刺さる角度が先鋭だ。大人ではなく、親友と思われる友人との気持ちのずれが、見る側をはとさせる。兄の一つの嘘が町を巻き込んだ大騒動になるが、現代的で面白い。弟役のロレンツオ・シストのやわらかい演技が見もの。親が子どもの障害を見る目、イタリアと日本とではかなり違う。周囲との関係を理念よりも合理性を全面に出して広がりのあるものにしていこうとしているのが新鮮。

 

 

 

 

 

 

 

 

友人が住む穴水町、全壊、半壊1000世帯超、死者16名。

1月はブログに気持ちが向かなかった。

能登地震、羽田の事故と続いて始まった2024年。

それまで、ジャニーズ、日大、宝塚、パレスチナが授業の初めのトピックス交換の定番だったが、能登地震がそこに加わった。

学生の中に東北で育った人も何人かいて、彼らが能登について触れる口吻は、他の学生とは少し違っていたのが印象的だった。彼らはいちように、何かを思い出すように確かめるように話す。

震災の時、彼らは小学校4年生か5年生、生々しい記憶として残っているようだ。その分、能登のことを我が事のように感じているのが伝わってくる。

 

古い友人が穴水町で被災したことを知った。横浜・港北で義捐金を募っているというので、そこへ便乗、わずかだが協力した。

もともと組合にいた方だが、3年ほどしか在籍しなかったから知っている人は少ない。

それでも呼びかけてみると、何人かが応じてくれた。ありがたいことだ。

 

その方、家は全壊、避難所で暮らしていたが、事情があって続けられず、金沢に住まいを借りて生活をしているという。HPを見ると、長年、地域での活動を続けて来られた。拠点となる建物も新築したのに、それも壊れてしまったとのこと。

町全体では、全壊、半壊が1000棟(1月10日)、死者16名。2月1日段階で水道復旧は37%だとか。3000世帯を超えるくらいの規模だから、大変な被害だ。

彼女は私より2、3歳上の方。高齢者ほど時間が経ってからのショックが大きいことは想像できる。生物学的にも環境への馴化が難しいし、気持ちの面でも「先」を考えにくい。察するに気の毒である。

 

私たちとて何ができるわけではないが、継続して支援できたらと思っている。

これ、境川に映った雲。こんなに水面が動かないのも珍しい。

 

 

 

 

「小澤征爾さん、死去」

夜明け前、いつものように玄関のドアを開けて朝刊をとった。

いつも一面のタイトルだけ見る。

小澤征爾さん 死去」。驚きはするが、すぐに「長い間ご苦労様でした」とひとりごちる。88歳。心不全。心臓が動くのをやめた。自然なことなのだと思う。

誰もが迎える時間。テレビは巷の惜しむ声を取り上げているが・・・。

ボストン交響楽団の追悼演奏が放送される。

バッハの「G線上のアリア」。なんという指揮者か知らないが、若い女性の指揮者。

 

記憶は朧ろなのだが、若い頃、何度かナマを聴きに足を運んだ。

はっきりと覚えているのは、東京カテドラル大聖堂で聴いたヴェートーヴェンの第九。

会場がコンサートホールでなかったから覚えているのだろう。

 

朝食の準備をしながらすぐに聴きたくなったのが、チャイコフスキーの「弦楽のためのセレナーデ」。 YouTubeを検索する。

食道癌から復帰してすぐにサイトウ・キネン・オーケストラを振ったものがすぐに見つかる。

すごい演奏だ。感情の爆発。力のたぎる演奏。だが、冷静。「枯れた」という印象は全くない。スケールも大きいし、なんとも艶のある演奏だと思う。

 

もう一つは、ずっと若い頃、同じサイトウ・キネン・オーケストラを振ったもの。髪の色が黒い。画質も悪い。50代だろうか。こちらももちろんスケール感もあるが、どちらかと言えば端正、だろうか。

 

どっちが好きかと聞かれれば、歳を重ね病気を克服したあとの演奏の方だ。

同じ曲でも、時期によって大きく違うことに驚かされる。

 

たくさんの音源を残してくれたことに感謝。

 

沢村貞子『老いの道づれ』(1995年 岩波書店)で、山田太一に出会った。

雪の重みで折れた近所のミモザの木、裂かれた枝が無惨だったが、今朝は片付けられていた。樹影は3分の2ほどに。

ひとり散歩。Mさん、昨日から不調。風邪のようだ。

 

出かける予定を変更。先日、本を整理中の友人K氏からもらった『老いの道づれ』(沢村貞子 1995年 岩波書店)を読む。30年前の本だが面白かった。明治生まれの男女の再婚、”赤い女優”と呼ばれた沢村の戦後の映画界での独特の位置。つい読み耽った。つれあいの大橋恭彦の話も面白かった。

映画批評からテレビ批評に転じた大橋の、雑誌『映画芸術』や通信社をめぐる奮闘、暗闘も興味深かったが、それ以上に沢村が大橋が書いた山田太一の『ふぞろいの林檎たち』や『男たちの旅路』の批評をかなり長く引用していて面白かった。

男たちの旅路」の中の斉藤とも子が車椅子の娘を演じた「車輪の一歩」に対して、

大橋が山田を絶賛。

「今日まで多くのプロデューサーたちが、タブー視し目をそらしてきた身障者の問題に、真っ向から取り組んだ優れてテレビ的な発想の意欲作であった」(テレビ注文帖)と冒頭で述べたあと、大橋は脚本をもとにこのドラマの流れを忠実に再現している。大橋が見たように主観的な再現なのだが、これが実にいい。

放送は1979年、養護学校が義務化された年だ。それまで就学免除・猶予されていた障がい者の就学が義務化された年だ。

義務化されることによって、新たな選別と排除が引き起こされることから長い反対運動が続いた。私もささやかだがその運動に関わったし、現場でも共に育つ取り組みを続けてきた。

そんな時代に山田は、主演の鶴田浩二演じる吉岡にこう語らせる。

「電車に乗るのに、誰かの手を借りなければホームにも上がれないのなら、手を貸してもらえばいいじゃないか。嫌がらせの迷惑はいけないが、ギリギリいっぱいの厄介はかけてもいいんじゃないだろうか。君は、そんな横着な気持ちで行動したら、世間の人は思い上がるな、というに違いない、と早くも取り越し苦労をしているが、世間に通用しようが、しまいが、それを通用させるのさ。そのうち世間の君たちへの対応の仕方が、きっと違ってくるとおもう。なにげなく手を貸してくれるようになるとおもう。どうだ、胸を張って堂々と他人(ひと)に迷惑をかけることをおそれない青年になろうじゃないか」

当時の青い芝の会の発想に近い。台本からの引き写しだが、大橋は長い引用をやめない。少し口を挟むだけ。

「吉岡の大胆な発言に、はじめはついていけない若者たちも、会うたびに彼の心情に打たれ、説得されてゆく。その経過が見ていて楽しかった。さわやかでもあった」。

続けて斉藤とも子演じる車椅子ユーザーの娘良子の母親のセリフを引用。

「もう世間なぞ信用していない。私にそういう決心をさせたのは世間なのだ、外へ出ないから勇気がないとか、そんな十把ひとからげな言い方をしてもらいたくない」

娘は「母の言うことには逆らえない」と口を挟む。

ここで吉岡(鶴田浩二)のセリフ。山田節だ。

「お母さんにさからえ、とは言っていない。お母さんは君が可愛いから、これ以上傷つけたくないと思っていらっしゃる。傷付けるのがこわいんだろう。

君は一歩も外へ出られないほど、ひどい身体だろうか。そのことを君は自分で判断しなければいけないんじゃないのか。このまま、お母さんの言いなりになっていたら、いつか、きっと君はお母さんを恨むようになるだろう。みんなが君を待っている。自分の大事な一生じゃないか」

特攻の生き残りとして、自分の人生を見つめてきた吉岡の言葉。山田は自分の思いを吉岡に語らせている。

 

最後のシーンで、私鉄の駅で改札口に通じる階段下、良子は周囲に

「誰か、誰か、あたしを上まであげてください」「どなたかあたしを上まであげてください」と呼びかける。近くを通りかかった人が二人がかりで駅構内まで連れて行ってくれる。

大橋は、

「駅前の自転車置き場の前で良子の母が泣いていた。無言で立ち尽くしている吉岡司令補の大写しで、ドラマは終わった」

と締めくくる。ややできすぎた感のあるラストシーンだが、大橋は感動している。

 

このドラマには、車椅子ユーザーの若者が

「おふくろにいっぺんでいいから、トルコに行ってみたいと頼んだことがある。どうせ、女の子にもてっこないし、嫁さんがくるとも思えないし。いっぺんでいいから、女の子と付き合ってみたいんだ。一生、女なんて縁がないかもしれないからね」と回想するシーンも紹介されている。

隣りの部屋で黙って聞いていた父が「四万ほどやっとけ。いいか、チップなんかケチるんじゃねェぞ」と怒鳴るような調子で言った。おふくろも「行っといで、いいから言っといで」と言ってくれた。明くる日の晩、おふくとに新しい下着を着せてもらって出かけた。

 

しかし車椅子はダメだとと言われ、彼はそのまま帰ってきた。そのことを両親には言えない。

「行ってよかった、よかったよ母さん」とニコニコしてみせた。奥にいた父に「そうか、よかった」と言われたトタン、俺は泣き出してしまった。こんなこと、なみの親子じゃないよね。オレたちは普通の人とは違う人生を歩いているんだね」

 

障がい者の社会との関わり、あたりまえに支援を乞うことはもとより、多くの人にとって避けられぬ問題である性について、今でも触れられにくい問題だが、40数年前に山田は、障がい者自身の自己決定や主体性という視点からこれらの問題に切り込んでいる。

ふぞろいの林檎たち』もそうだが、山田はマイノリティへの眼差しをいつも携えているが、その位置関係が独特だ。マイノリティの心情に深く入り込んでいるからこそ、そこから紡ぎ出されるセリフはラディカルで鋭く突き刺さってくる。

大橋はそれをしっかりと受け止め、沢村も同じ思いで長く引用する。

 

明治生まれの稀有な夫婦の人生が詰め込まれた良書である。