2018-06-21から1日間の記事一覧

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)にみる伝えることの「当事者性」について③   体験することだけが当事者性をもつわけではない

作品の中では,津波にのみ込まれていく人々の様子,避難所の様子,死体安置所の様子など「私」の目を通してすさまじいディテールが語られる。しかし彼女が言うように「私」の眼を通して語られるほとばしるような言葉は,北条が見たものではなく,「思考」し…

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)に見る伝えることの「当事者性」について②     3・11の中で奪われ続けた当事者性とは

「小説を書くことは罪深いことだと思っています。(略)それは被災者ではない私が震災を題材にし,それも一人称で書いたからです。/実際,私は被災地に行ったことは一度もありません。(略)あまりに大勢の被災者たちの喪失を想像することが恐ろしかったので…

小説「美しい顔」(北条裕子『群像』6月号)にみる伝えることの「当事者性」について① 大和市文化創造拠点「シリウス」で群像6月号を見つけた

夕刊に月に一度掲載される文芸時評で,「美しい顔」という作品が群像新人賞を受賞したことを知った。書き手の北条裕子は全く知らない人だが,評者佐々木敦の絶賛に近い批評に刺激され,雑誌『群像』を探してみた。 評判となっているのか6月号は店頭ではすで…