つがいのカワセミ

ここ数日、朝の気温は3℃〜5℃で推移している。

風があると晴れていても体感温度はかなり低く、寒い。

今朝のように、3℃を下回りそうな日でも、日が出て風がないと歩き始めてすぐに汗ばむ。

境川に出る前でに通行量の多い八王子街道、目黒の交差点を通るのだが、月曜のせいか、クルマも自転車も、こころなし慌ただしさを感じる。

一旦、境川河畔に出てしまえば、クルマの音は全くと言っていいほど聞こえなくなる。散歩の人も少なく、穏やかな平日の朝である。

今朝もカワセミを見かけた。

カワセミの産卵時期は3月〜8月というから、そろそろ求愛給餌が目撃できるかもしれない。一度しか見たことがない。

 

昨日「ほら、あそこ!」のMさんの声に振り向いた途端、1mの高さの葦に留まっていた鮮やかな青みを帯びたカワセミを目撃。

おっと思う間に、水面から4mの高さに跳び上がり、2秒ほどホバリング、そして直角に急降下。ドボンと水中に入ったかと思うと、嘴に銀鱗をばたつかせながらもとの葦に。

あの高さから翡翠には水中がどんなふうに見えているのか。カワセミの視力の凄さにはいつも驚かされる。

今朝、散歩友達の宮本さんから、つがいの写真をいただいた。下がメスとのこと。グッド ショットである。

明日、啓蟄

 

『最悪な子どもたち』『夜明けのすべて』『コット はじまりの夏』 2024年2月の映画寸評②

2024年2月の映画寸評②

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

 

(12)『宝くじの不時着 一等当選くじが飛んでいきました』(2022年/韓国/113

   分/原題:6/45/脚本・監督:パク・ギュテ/字幕監修 松尾スズキ 2023年

   12月29日公開)時間があれば ⭐️⭐️⭐️    kiki 2月7日

 

韓国の軍人が手にした1等6億円の当選くじが北朝鮮兵士のもとへ渡ったことから巻き起こる騒動を予測不能の展開で描き、韓国やベトナムでスマッシュヒットを記録したシチュエーションコメディ。

韓国軍の兵士チョヌは1等6億円が当選した宝くじを手に入れ大喜びするが、その宝くじは風に乗って軍事境界線を越え、北朝鮮の上級兵士ヨンホのもとへ飛んでいってしまう。南北の兵士たちは宝くじの所有権をめぐり、共同警備区域のJSAで会談を開くことになるが……。

「別れる決心」のコ・ギョンピョが韓国軍人チョヌ、「ヒットマン エージェント:ジュン」のイ・イギョンが北朝鮮兵士ヨンホを演じ、「パイプライン」のウム・ムンソク、「人生は、美しい」のパク・セワン、「野球少女」のクァク・ドンヨンが共演。作家・演出家・俳優の松尾スズキが日本語字幕監修を手がけた。

 

あらすじを読むだけでもわかるが、掛け値なしに面白い映画。同じ民族どころか、今や堂々と敵国と正恩をして言わしめる南北関係を、韓国ではこんなふうに笑ってしまう。すごい民族だなと思う。長くしんどい分断を抱えているからこそのブラックユーモア。見ていて思うのは、幾つものシーンに隠し絵のように何かが仕込まれていること。なんとなく「ほら、ここだぞ」と言っているのはわかるのだが、本当のところはわからない。

たぶん私は、この映画の面白さの半分くらいしかわかっていないのではないか。独特の韓国語の言い回しやギャグ、それと今までの映画のパロディもたくさん含んでいるようだ。松尾スズキの字幕は凝っているが、それでも隣で韓国人が見ていたら、笑うツボが違うような気がする。

 

(13)『ポトフ 美食家と料理人』(2023年/フランス/136分/原題::La Passion    de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)ドダン・ブファンの情熱 (ポトフ):監督:

   トラン・アン・ユン/出演:ジュリエット・ビノシュ ブノワ・マジエル/2023

   年12月15日公開) ⭐️⭐️⭐️⭐️  2月11日kiki

青いパパイヤの香り」「ノルウェイの森」などの名匠トラン・アン・ユン監督が、料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の愛と人生を描き、2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したヒューマンドラマ。

19世紀末、フランスの片田舎。「食」を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニーの評判はヨーロッパ各国に広まっていた。ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、ただ豪華なだけの退屈な料理にうんざりする。食の真髄を示すべく、最もシンプルな料理・ポトフで皇太子をもてなすことを決めるドダンだったが、そんな矢先、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンはすべて自分の手でつくる渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようとするが……。

イングリッシュ・ペイシェント」のジュリエット・ビノシュが料理人ウージェニー、「ピアニスト」のブノワ・マジメルが美食家ドダンを演じた。ミシュラン3つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を手がけ、シェフ役で劇中にも登場。(映画.com)

ひとつ一つのシーンが練りに練られていて、美しい。料理も人も風景も。

美食家ドダンが、ユーラシア皇太子(これがよくわからないが・・・)の招待を受けて、8時間に及ぶ料理でもたなされ・・・辟易したドダンはシンプルな家庭料理ポトフで返礼の席を彩るという話かと思ったら、違った。予告編はそこに焦点を当てているようだったが。最後までポトフが出来上がることはなく、従ってユーラシア皇太子を招く宴席のシーンもない。料理対決の映画ではなく、これは美食家と料理人ウージェニーの恋愛の物語。19世紀末のフランスが見事に再現され、人々の動きも料理も全て見事にこなれていてなんの破綻もない。ほとんどのシーンで聴こえる鳥の声まで素晴らしい。

見たことのない世界が味わえる贅沢な映画。

Mさんもたまにポトフをつくるが、ドダンとウージェニーの作るポトフがどんなものか見てみたかった。

いずれにしても、この映画のすごさの半分ほども捉えていないような気がする。画像6

 

(14)『最悪な子どもたち』(2022年/フランス/99分/原題Les pires最悪/監督・

    脚本:リーズ・アコカ ロマーヌ・ゲレ/出演:ヨハン・ヘルデンベルグ/20

    23年12月9日公開)  ⭐️⭐️⭐️⭐️ 2月11日kiki

 

北フランスを舞台に演技未経験の問題児たちを配役した映画撮影の行方を描き、2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した人間ドラマ。キャスティングディレクターと演技コーチの経歴を持つリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレが長編初監督・脚本を務め、オーディションで数千人の若者と接してきた実体験をもとに撮りあげた。

フランス北部の荒れた地区を舞台にした映画が企画され、地元の少年少女を集めた公開オーディションが行われた。キャストとして選ばれたのは、異性との噂が絶えないリリや怒りをコントロールできないライアン、心を閉ざしたマイリス、出所したばかりのジェシーの4人で、シナリオは彼ら自身をモデルにした物語だった。波乱に満ちた撮影が始まり、4人は映画の登場人物を演じることで自分自身と向き合っていく。

主人公4人を演じるのは、実際に北フランスの撮影地近辺で開かれたオーディションで選ばれた演技未経験の子どもたち。「アイダよ、何処へ?」のヨハン・ヘルデンベルグが劇中の映画監督役を務めた。

ピカソ地区という北フランスのいわゆる荒れた地区を舞台に「映画をつくる」、そのメイキングを撮っているという設定だが、メイキングそのものがあらかじめつくられた脚本に依っている。

見る側は、このしんどい映画づくりのドキュメンタリーを見ているような気分。難しい子どもたちの好き勝手な行動に監督はじめスタッフは何度も立ち往生するのだが、これがまさにリアルそのもの。どこまでが演技なのか、見ていてもよくわからない。

子どもたちのエネルギーは止まるところも知らない。監督の女の子に対する扱い方の不満や、主役の女子のスタッフへの恋慕。いくつかの小さなエピソードが絡み合いながらドラマが進行する。

これって素のままの、例えばライアンはライアンという実在する子どもなのか?何度も自問しながら最後まで引っ張られる。あえて書かないが、リリーとライアンの静かなラストシーンがすばらしい。

なんという映画だ、というのが正直な感想。

 

 

 

(15)『夜明けのすべて』(2024年/日本/109分/原作:瀬尾まいこ/脚本・監督:

   三宅唱/出演:上白石萌音 松村北斗/2024年2月9日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ グラ

   ンベリーシネマ2月14日

「そして、バトンは渡された」などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。

PMS月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。(映画.com)

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗上白石萌音が山添くん役と藤沢さん役でそれぞれ主演を務め、2人が働く会社の社長を光石研、藤沢さんの母をりょう、山添くんの前の職場の上司を渋川清彦が演じる。2024年・第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品。

 細部に至るまで丁寧に、ゆったりとつくられている。映画の中に流れる時間がすごい。『ケイコ』とはまた違った空気をつくり出しているのが16mmフィルム。照明を感じさせない自然光をうまく取り入れているように思えた。

テーマとしては穏やかなものとは言えないが、日々のそれぞれの生活の中にある「障がい」は、その表れかたは絶対的なものではなく、周りとの関係の中で捉えられるという、あたりまえなことが映画の中で実現されている。

ビブラフォン?の単純な音型の繰り返しが、どれほどエキセントリックな出来事があろうが、日常が続いていることを教えてくれる。

二人のもつパニック障害PMS光石研演じる社長とその弟の自殺、それと関わって語られる地球の自転と公転、プラネタリウムの映像・・・それらを文学的に絡ませながら物語が進む。

こういう会社、あるのだろうなと思わせられるシーンが随所に。中学生の職業体験のインタビューで「この会社のいいところは?」と聞かれて、「え?そんなものあるかな?」と言ってしまう古参の社員。

エンドロールのバックでは、昼休みの光景なのだろうか。日明かりの良い前庭でキャッチボールをする社員たちの姿が延々と流れる。

やや文学に流れすぎたかなとも思えるが、映像と音で繰り広げられる人と人の自然で淡い関係が描かれている。秀作。

 

(16)『コット 夏の始まり』(2022年/アイルランド/95分/原題:An Cailin    Ciuin 英原題:quiet girl/監督:コルム・バレード/出演:キャサリン・クリ

   ンチ キャリー・クロウリー アンドリュー・ベネット/2024年1月26日公開)   

                   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️      kiki  2月18日

 

1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休みを描いたヒューマンドラマ。第72回ベルリン国際映画祭で子どもが主役の映画を対象にした国際ジェネレーション部門でグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた。

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。

本作がデビュー作となるキャサリン・クリンチが主人公コットを圧倒的な透明感と存在感で繊細に演じ、IFTA賞(アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞)主演女優賞を史上最年少の12歳で受賞。アイルランドの作家クレア・キーガンの小説「Foster」を原作に、これまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を描いてきたコルム・バレードが長編劇映画初監督・脚本を手がけた。(映画.com)

ストーリーとしては奇抜なところなど全くないありきたりなものなのだが。

牧場を営むキンセラ家での生活に初めは馴染めないコットだったが、アイリンの惜しみない愛情と、不器用なショーンの愛情によって少しずつ気持ちに変化が見えてくる。ああ、これもありきたりな言い方だな。とにかく一つひとつのシーンが、私には珠玉のように感じられた。シーンそのものの美しさというより、シーンが人物の感情の揺れ動きを的確に情感豊かに表現している。心を開いていくコットは終始無表情で笑顔を見せない。なのになんというか子供っぽさが少しずつ増していくるというような変化を見せる。子どもを亡くしているショーン夫婦の方は、単にその喪失感をコットで代替しようとまでは思わないにしても、アイリンにはそんな気持ちがないわけではない。対するショーンの方は、コットをみているだけで我が子のことが思い出されてしまう。だから素直にコットに向き合えない。

80年代のアイルランドの田舎で起きた取るにたらない出来事を、これほど味わい深い作品に仕上げたことに驚かされる。別れのラストシーンも、90分静かに積み上げてきたものをそっと押し出していてグッとくる。二つ隣の中年男性の座席から、押し殺した嗚咽が聞こえてきて、なんだかそれにもグッときてしまった。

こういう映画を佳品というのだろう。

 

(17)『コンクリートユートピア』(2023年/韓国/130分/原題:Concrete

            Utopia/脚本:イ・シンジ オム・テファ/監督:オム・テファ/出演:イ・

          ビョ ンホン パク・ボヨン/2024年1月4日公開) ⭐️⭐️⭐️kiki 2月18日

大災害により荒廃した韓国・ソウルを舞台に、崩落を免れたマンションに集まった生存者たちの争いを描いたパニックスリラー。

世界を未曾有の大災害が襲い、韓国の首都ソウルも一瞬にして廃墟と化した。唯一崩落しなかったファングンアパートには生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷、放火が続発する。危機感を抱いた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放して住民のためのルールを作り“ユートピア”を築くことに。住民代表となったのは902号室に住む職業不明の冴えない男ヨンタクで、彼は権力者として君臨するうちに次第に狂気をあらわにしていく。そんなヨンタクに傾倒していくミンソンと、不信感を抱く妻ミョンファ。やがてヨンタクの支配が頂点に達した時、思いもよらない争いが幕を開ける。

「非常宣言」のイ・ビョンホンが支配者ヨンタク、「マーベルズ」のパク・ソジュンがミンソン、「君の結婚式」のパク・ボヨンがミョンファを演じた。監督・脚本は「隠された時間」のオム・テファ。

騙されたヨンタクが、加害者宅を訪れた時に大地震が発生する。気がつけば周囲はヨンタクをその加害者と思い込み、あらぬ期待を寄せ始める。初めは戸惑いながらだが、ヨンタクはいつの間にかたった一棟残されたマンションをまとめる指導者となり、助けを求める他のマンションの被災者を徹底排除し、マンションだけの「王国」をつくり始める。

イ・ビョンホンの演技が、映画を成立させるための要素の半分以上を占めている。戸惑いから確信、そして君臨に至る経緯が見もの。それに対して、恐怖の中でヨンタクに強く傾倒していくパク・ソジン演じるミンソン、最後まで良心を失わないパク・ボヨン演じるミョンファ。ヨンタクと住民、ミンソンとミョンファの夫婦の心理劇。

ただそれが、凄まじい地震があり、街が瓦礫の中にあるのに、どこかつくられた舞台劇のように見えてしまうのは、外の世界の関与が全く描かれないからだ。政府や市民の存在が描かれず救助する人々も登場しない。その分リアリティが感じられないのが残念。韓国のパニック映画ならばそうした内外の緊張感こそ見どころだと思うのだが。画像5

 

(18)『花腐り』(2023年/日本/137分/原作:松浦寿輝/脚本:荒井晴彦 中野

          太/監督:荒井晴彦/出演:綾野剛 柄本佑 さとうほなみ/2023年11月10日

          公開)    ⭐️⭐️         ジャック&ベテイ 2月19日

「火口のふたり」の荒井晴彦監督が綾野剛を主演に迎え、芥川賞を受賞した松浦寿輝の同名小説を実写映画化。原作に“ピンク映画へのレクイエム”という荒井監督ならではのモチーフを取り込んで大胆に脚色し、ふたりの男とひとりの女が織りなす切なくも純粋な愛を描く。

廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子であることに気づく。3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、それぞれの人生が交錯していく。

綾野が栩谷を演じ、「火口のふたり」にも出演した柄本佑が伊関役、「愛なのに」のさとうほなみが祥子役で共演。

 

私には冗長に感じられた。退屈な映画だった。性愛部分がかなり多いが、若い人には刺激あっていいのかもしれないが、私には不自然なカットに感じられた。『火口のふたり』の性愛シーンはかなり良かったのに、同じ監督なのに・・・。

全体につくりが古臭いし、演技、とりわけ綾野剛の演技はわざとらしく不自然。エピソードがいちいち持って回った感じがして、ついていけなかった。さとうほなみが白いドレスを着た幽霊のように出てくるラストシーンに至っては陳腐。

二人の間にあるさとうほなみへ恋情のひねりが感じられなかった。エンドロールでの綾野剛さとうほなみのカラオケも意味がわからない。あれだけひどい歌を結構な時間聞かされるのは勘弁。小説はもっと面白いのではないかという気はするが。

 

(19)『笑いのカイブツ』(2023年/日本/116分/原作:ツチヤタカユキ/滝本憲

           吾/出演:岡山天音 菅田将暉 松本穂香 仲野太賀/2024年1月5日公開)

                                                                                ⭐️⭐️⭐️   kiki2月22日

「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。

「キングダム」シリーズなどで活躍する岡山天音が主演を務め、仲野太賀、菅田将暉松本穂香が共演。井筒和幸中島哲也廣木隆一といった名監督のもとで助監督を務めてきた滝本憲吾監督が長編商業映画デビューを果たした。(映画.com)

最後まで飽きずには見た。画面に疾走感があり、みる方をぐいぐい引っ張っていく力を感じた。演出はもちろんそれに応えた主演の岡山天音の怪演。演じているというよりもツチヤタカユキってこの人かと思わせる。

松本穂香菅田将暉、仲野太賀はメリハリがあるし、片岡礼子もいい。わけても仲野と菅田将暉はかなりいい。二人とも何にでもなる、なれる。

なのに映画は笑えない。劇中のネタに笑えるものがほとんどなかった。クスッと笑ったのは2回か3回。私だけかもしれないが。ケータイ大喜利などで「伝説のはがき職人」と呼ばれたというその笑いが伝わってこない。だから”カイブツ”ツチヤタカユキが、カイブツに見えてこない。見えるのは、あちこちに頭をぶつけながら器用に生きられない対人関係不得意、破滅型の若者の物語。私が若い人のセンスについていけなかっただけかもしれない。想像していたのは、ネタの面白さとツチヤのギャップだったのだが。

原作の文庫本の紹介には「27歳、童貞、無職、全財産0円。笑いに狂った青年が、世界と正面衝突!」とある。原作で笑えるかどうか読んでみる。〝伝説のハガキ職人〟による、心臓をぶっ叩く青春私小説なのかどうか。

劇中、菅田将暉が働く居酒屋。屋号が「車屋」。東京、根津の車屋。一度だけだが入ったことがある。感度の高い居酒屋。映画ではそうは見えないが。

マガジンのカバー画像

 

 

「うらをみせ おもてをみせて ちるもみじ」信州伊奈高遠 ”山荘五合庵” 閉じる。

山荘五合庵を見つけたのは、今はもうないが「一個人」という雑誌の中だった。そこに載っていた下の写真と朝食の素敵さに惹かれた。ご夫婦二人だけの営み。

標高1200m。向こうに見えるのは入笠山。電線は全くない。一枚の絵のような風情に惚れた。

二間ある別棟の風呂の水は山から引いたもの。検査はしていないからというものの、間違いなく温泉。

一日一組の宿だから、予約が取れたのは宿泊申し込みをしてから2年半ほど経った頃。2004年ごろだろうか。それ以来、年に一度か二度、二人で通ってきた。きょうだいや友人といっしょに泊まったこともあった。

いつも夕食に3時間、朝食も2時間以上の時間をかけた。ずっと食べ、飲んでいるわけではない。食事があらかた終わったあとに、コーヒーやお茶を飲みながらのご夫婦とのおしゃべりの時間が始まる。私たちは座っているが、お二人はいつも立ったまま。

毎年のことなのに、同じ話が出ることは一度もなかった。飼っていた犬のこと、料理や酒のこと、地域のこと、旅行のこと・・・縦横無尽のユーモア、飽きることがなかった。いい時間だった。

帰る田舎がなくなってしまった私たちには、里帰りのような旅と宿になっていった。

写真が下手で鮮やかさが出ていないが。

 

昨日、遅く帰宅したら、五合庵から封書が届いていた。

例年なら、1月中には「今年のお泊まりの予定」というハガキをいただくのだが、今年はこなかった。あらかじめ宿泊可能な曜日だけ伝えてあって、葉書には例年違う季節を選んで日程が書かれていた。ここは泊まる日にちは宿が決める。たいてい春か秋だったが、時には「たまには夏もいいですよ、エアコンいらないし」と夏真っ盛りにきたこともあった。

封書は廃業のあいさつだった。

ダイニングの入り口

お二人らしい挨拶文。

「謹啓 年明けたその日に大地震に見舞われた能登や北陸の方々に思いを寄せながら、日頃ごひいきを頂戴している皆様方に御礼とお知らせを申し上げたく存じます。

 まことに突然ではありますが、山荘五合庵は令和五年をもちまして二十八年の営みを終えることといたしました。長野県伊那市高遠の山の中に庵を結んで以来、一日一組のお客さまに心を込めたもてなしを心がけてまいりましたが、私どもも齢八十まで指折り数える頃となりました。このあたりまでと見当をつけていたことでもございます。何卒、皆様方にはご理解を賜り、併せてご容赦いただけますようお願い申し上げます。

先人の至言に「かけた情けは水に流せ、受けた情けは石に刻め」とありますが、この二十八年間、私どもは「情けは石に刻み込む」思いの毎日でした。山荘五合庵を閉じるにあたり、これまでの皆様のご愛顧に改めまして心より御礼申し上げます。

「うらをみせ おもてをみせて ちるもみじ」 良寛禅師     署名 」

 

長くお付き合いしていただいて、見てきたままの掛け値なしの言葉。

見事な宿仕舞いのあいさつである。

こんなおつきあいのできた宿は他にない。寂しいが、仕方がない。

お二人のことだから、これから温かく滋味深い料理のような生活が始まるだろう。

 

長い間、ありがとうございました。おせわになりました。

 

あいさつ文の後に書かれた手書きの文章。

「この春に自分達で定年を決めました。長いおつき合いを有難うございました。たくさんの楽しい会話が残りました。思い出が残りました。これが私たちの仕事だったのかもしれません。楽しい思い出を有難うございました」。

 

 

 

村岡栄一『去年の雪』ありがとう さようなら 漫画と人生

言い古された言い方だが、二月は「逃げる」。気がつけばもう月末。いつもより1日多いが、日々の時間が飛ぶように過ぎていく。

 

ミモザ、枝は折れたが今が盛り。それに境川河畔の河津桜も満開。

土曜日にとんとご無沙汰だった蕎澤へ。

1月は全休で、2月も初めの5日間はお休み。営業日はネットで確認できないので、お店の前に掲示してあるものを見るか、店内にあるチラシ?を見るしかない。3月にAさん夫妻と訪れる予定。日にちを決めるには、つまり、出かけるしかないのだ。

この日は仕込みの時間に電話。奥さんの元気な声。「やってますよ!」。この店はご夫婦二人だけの切り盛り。

開店時間の12時過ぎに入店。すでに2組の客。すぐに2組が入って満杯。座席は全部で16席。注文をさばくお二人の動きは無駄がない。

天ぷらそばのセット、Mさんはぶっかけそばのセット。小鉢がいい。蕎麦は十割。日によって産地が違う。天ぷらは薄い衣でからっと。

そばのつけ汁にワサビはついてくるが、ネギはつかない。つけ汁をそのまま飲むとその理由がわかる。

焼酎の蕎麦湯割りもいいのだが、燗酒が飲みたい。佐賀の酒、七田。辛口。熱い湯の入れ物に徳利状のものが入っている。これがなかなか冷めない。1本だけ。

30分ほどで退散。外に出ると2組の客が待っている。

 

2月は友人のK君のつてで働き方相談がひとつ。

職場の校長とのトラブル。校長にごく普通のリテラシーがあれば起きない問題。基礎的な技量がないというか、人とのごく当たり前の対応ができない校長が少なくない。職員にはすぐにマウントをとりたがるが、保護者には必要以上にへり下る。トラブルになってもミスを認めない。人のせいにする。教委事務局も校長を指導できないし、もちろん職員のカタももたない。現場も行政も動脈硬化状態。

 

そのK君から『去年の雪』という漫画をもらった。いつもいい本をいただく。

村岡栄一という漫画家。1949年生まれ。貸本世代。永島慎二の助手を務めた人。出身は福島県会津坂下町。同郷で私より4歳上になる。

麻雀漫画などを書いてきた人のようだが、ネットで見る限り歯切れのいい筆遣いでリズ

ムを感じるが、『去年の雪』の画風はそれ  去年の雪

とは全く違う。本の中にゆったりとした時間が流れている。

病に倒れ、最後の作品集になるとあとがきにある。編集は娘さんの仕事。最終ページに手書きで「最後まで読んでくれてありがとう 村岡栄一」とあるが、字はかなり乱れている。

 

帰りの電車で読み通し、次の日にまた読んだ。

 

「還暦を過ぎて・・・近頃/これまで行き交った人たちと/もう一度逢いたいと/思うことが多くなった   しかし・・・そのほとんどが実際には会うことが叶わなくなってしまった人か/音信不通の人ばかりだ」

 

全部で6話が収録。

その1 キヨおばちゃん

その2 小さな川

その3 ベネディクト(岡田文子のこと)

その4 峠

その5 滝田ゆうさんのこと

その6 青春・漫画

 

語られる伯母や父親、母の思い出は、私の住んでいた町の記憶と重なり、小さい頃に時間が戻ったようで懐かしい。

私も行ったことのない町から離れた集落へ、一人で歩いて母親に会いにいく「峠」は、胸をつかれるような哀愁がある。発電所のあるその集落から中学へ来ていた生徒は、冬は寄宿舎で生活していた。冬は雪が深いためバスが通らなくなるからだ。そこへ歩いていく著者の心細さ、母親に会えたうれしさ・・・。

 

長嶋慎二はもとより、天才漫画家と言われたという岡田史子や、和服姿の滝田ゆうをすぐ近くで見てきた。等身大の彼らが描かれる。

漫画家がプロダクションを作って連載をいくつもこなすという時代の先駆けにあたるが、そのディテールも興味深い。

 

裏表紙に「ありがとう さようなら 漫画と人生」とあって、小さな川で釣りをしている少年の後ろ姿が描かれる。

 

もうずいぶん遠くなった若かった時代。残された時間が少なくなっているのは、作者も私も同じ。なんともしみじみとページを繰った漫画だった。

『ファースト カウ』など2024年2月の映画寸評⓵

年が変わってから映画館によく足を運んでいる。

2024年2月の映画寸評⓵

<自分なりのめやす>

ぜひお勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(8)『いま、ダンスをするのは誰だ?』(2022年/日本/114分/原作・監督:古新

   舜/出演:樋口了一/2023年10月7日公開 ⭐️  ジャック&ベテイ 2月1日

2009年にパーキンソン病と診断されたシンガーソングライターの樋口了一が主演を務めたドラマ。40代で若年性パーキンソン病と診断された主人公がダンスを通じて自身の生き方を見つめ直していく姿を描く。

家庭を顧みず、仕事一筋で生きてきた功⼀は、ある日若年性パーキンソン病と診断される。妻とはすれ違いが続き、娘とも仲が悪かった功一は、その事実を受け入れることができず、職場でも仲間が離れていき、ひとりで孤独を抱えてしまう。そんな中、功一はパーキンソン病のコミュニティ「PD SMILE」に通い始める。コミュニティで本音を話せる友人ができた功一は、人とのふれあいの大切さを痛感し、不仲だった娘ともダンスを通じて関係が改善されていく。

樋口が主人公・功一を演じるほか、杉本彩塩谷瞬、IZAM、渋谷哲平、吉満寛人、新井康弘らが脇を固める。監督は「あまのがわ」「ノー・ヴォイス」の古新舜。

                          (映画.com)

 

パーキンソンを患う役者樋口了一が主演を務める。映画制作までの経緯は毎日新聞に大きくとりあげられたものを読んだ。たやすい道のりでなかったことがよくわかった。しかし残念だが、完成度の低い映画となってしまった。

ストーリーに込めた想いは理解できるが、脚本をはじめ映画をつくる技量が不十分。ストーリー展開がありきたりで、設定がいかにもつくりものめいている。役者の演技にキレがないし、観衆を惹きつけるものが希薄だ。主人公の周囲の人々の病に対する理解についても掘り下げ方が浅かったと思う。病気に対する偏見は根深いものがあるし、家庭問題にあっても離婚や親子関係の描き方が浅薄。一つひとつのエピソード、シーンの必然性が感じられない。ここにしか入らないピースの選択が甘いと思った。

ただ、パーキンソン病を取り上げたことは大きな意義があるし、「I am パーキンソン病」ではなく「  I have パーキンソン病」だというメッセージは響いた。

 

(9)『朝が来るとむなしくなる』(2022年/日本/76分/脚本・監督:石橋夕歩/

   出演/唐田えりか 芋生悠/2023年12月1日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️ジャック&ベテイ

   2月1日

寝ても覚めても」の唐田えりかと「ソワレ」の芋生悠が共演し、人生に諦めを感じていた女性が、同級生との再会をきっかけに自分らしさを取り戻していく様子を描いた再生の物語。初長編作「左様なら」で注目された新鋭・石橋夕帆監督の長編第2作。

会社を辞め、コンビニでアルバイトとして働く24歳の希。バイト先でもなかなかなじめず、実家の親にも退社したことをいまだ伝えられないまま、今日もむなしい思いで朝を迎える。そんなある日、中学時代のクラスメイトだった加奈子がバイト先にやってくる。最初はぎこちなく振る舞う希だったが、何度か顔を合わせるうちに、加奈子と距離を縮めていく。加奈子との偶然の再会が、希の日常を少しずつ動かし始めて……。

石橋監督が当て書きしたという唐田えりかが主人公の希を演じ、「左様なら」に続いて石橋監督とのタッグとなる芋生悠が加奈子に扮した。(映画.com)

 

取り立てて何にも起きない若い女性の日常の微妙な生きがたさを、二人の女優を通じて伝わってくる。期待しないでみにいったが、面白かった。こういう映画・ありだなと納得。脚本を書いて演出した石橋夕歩監督のセンスのよさ、東出昌大との不倫で話題となった唐田の自然な演技、それから芋生悠という個性的な女優の絡みがが面白かった。二人の距離の近づき方の妙。セリフがよく練られていて自然、現実の若い女性がどんなふうに話しているか知らないが、すっと入ってくる。

芋生はドラマ『SHAT  UP』や映画『夜明けのすべて』にも出ているが、この映画がいちばんよかった。石橋監督のタッグの前作『左様なら』をみてみたい。

いつものことだが、男女問わず、若い役者がどんどん出て来ている。老人はなかなか追いついていけない。画像10

 

(10)『ファースト カウ』(2022年/アメリカ/122分/:First Cow監督:ケ

   リ ー・ライカート/出演:ジョン・マガロ オリオン・リー/2023年12月22

   日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ kiki 2月5日

 

「オールド・ジョイ」「ウェンディ&ルーシー」などの作品で知られ、アメリカのインディペンデント映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、西部開拓時代のアメリカで成功を夢みる2人の男の友情を、アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ。

西部開拓時代のオレゴン州アメリカンドリームを求めて未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民キング・ルーは意気投合し、ある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツをつくって一獲千金を狙うというビジネスだった。

クッキー役に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のジョン・マガロ。これまでライカート監督作の脚本を多く手がけてきたジョナサン・レイモンドが2004年に発表した小説「The Half-Life」を原作に、ライカート監督と原作者レイモンドが脚本を手がけた。2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

 

アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ」とはとても思えない深みのあるしぶい映画。くわからないが、圧倒される映画というのがあるが、これがそれだ。全く妥協の感じられない、一つひとつのシーンが丁寧に磨き込まれているといった印象。見る側は少ないセリフから想像力を膨らますしかないのだが、それが至福、映画に「包まれる」のだ。不思議な魅力の映画だ。

 

(11)『ノセボ』(2022年/アイルランド・イギリス・フィリピン・アメリカ合作/

   97分/原題Nocebo 監督:ロルカン・フィネガン/出演:エバ・グリーン マ

   ーク・ストロング/2023年12月29日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️ kiki 2月7日

ビバリウム」のロルカン・フィネガン監督が、幸せの絶頂にいた家族が恐ろしい怪異に見舞われる姿を独特の世界観で描いたホラー。

ファッションデザイナーのクリスティーンは、夫フェリックスや幼い娘ボブスと共にダブリン郊外で順風満帆な生活を送っていた。ある日の仕事中、彼女はダニに寄生された犬の幻影に襲われる。8カ月後、クリスティーンは筋肉の痙攣や記憶喪失、幻覚などを引き起こす原因不明の体調不良に悩まされていた。そんなクリスティーンの前に、彼女を助けに来たというフィリピン人の乳母ダイアナが訪ねてくる。雇った覚えのないダイアナを不審に思うクリスティーンだったが、ダイアナは伝統的な民間療法で彼女の不調を取り除き信頼を得る。クリスティーンは次第に民間療法にのめり込んでいくが、それは想像を絶する恐怖の始まりだった。

 

ホラーはあまり好んで見ないが、気になった映画。合作の国々の取り合わせの妙。一人の有能なデザイナーの身体に取り付いたノセボ(ダニ)を追い出すために、フィリピン人メイドが除霊するのだが。背景には、アジアの低賃金の労働力を駆使して成功を夢みる西欧のデザイナーと、抑圧されこども奪われたアジアの若年女性労働者の怨念のぶつかり合い。幻覚の映像が寓意に満ちていて惹きつけられる。子役もいい。エバ・グリーンの演技はみもの。

ホラーというが、心理劇といった方がいいかもしれない。

画像9

1月のあれこれ

2月も半ばを過ぎたのに1月にみた映画のことを書いている。内容はほぼ忘れているが、、思い出そうとするとよみがってくるものもある。

 

老人の日々の記録など取るに足らないものだが、生活のディテールは一日いっとき同じものはない。1月のあれこれを思い出して書いておこうと思う。

 

1月1日

次女家族がくる。今年初めての蕎麦打ち。長いこと打ってはいるが上達しない。

ただ、この日は我慢ができた。そばがまとまってくるまで分量の水で打ち切った。しっかりした蕎麦が出来た。もちろん二八だが。

 

暮れに『シャイロックの子どもたち』を福島市のホテルで酒を飲みながらみたのをきっかけに池井戸潤を読んでみる。『不祥事』『株価暴落』『銀行狐』そして『シャイロックの子どもたち』。

旧作の文庫本だが、銀行の中のことが少しわかった。

 

『デフヴォイス 法廷の手話通訳士』前後編(NHK)をみる。

いまいちかな。

 

夕方、能登で大地震。大変なことになっているのがわかったのは次の日になってから。

阪神淡路の時もそうだった。

 

1月2日 羽田で日航機と海上保安庁の飛行機が衝突。5名死亡、1名大怪我。日航機の乗客は無事。C Aの適切な誘導によるものだという。あとでわかったことだが、このCAさんたちはまだ経験の少ない人たちだったという。379人を18分間で脱出させた。機長と連絡がつかなかったCAは、自分の担当の箇所からの脱出を自分で判断したという。

 

1月4日 蒲田のKさん宅を友人4人で訪問。98歳になったというKさんの正月料理をいただく。恐縮。

 

1月5日 愉音「ニューイヤコンサート」アートフォーラムあざみ野。

曲目:A・ヴィヴァルディ「四季」より「春」

   J.Sバッハ無伴奏チェロ組曲第1番BWV1007より3曲

   C.シューマン「3つのロマンス」OP.22より2番

   E .Wコルンコルド ヴァイオリン協奏曲より第1楽章

   F.メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番より第一楽章

 

    絵本と音楽

    絵本 ”パパ、お月さまとって” エリック.カール

    音楽 C. ドビュッシー 「月の光」

                          他

 

ドミトリー・フェイギンさんのバッハ、松本親子のシューマン梯剛之ドビュッシーが印象に残る。とりわけ梯のいつも以上の音色の清澄さが印象に残る。

 

夜、卒業生と新横浜で食事会。今年40歳になる女性3人、KさんTさんMさん。27年前に1年だけ授業を持った人たち。どこか馬が合う。この年齢の仕事の話は面白い。

 

1月9日 たまには温泉にでもと、二人で出かける。熱海に1泊。梅が咲き始めている。

来宮神社。熱海を訪れたのは数え切れないが、この神社に来たのは初めて。

国指定天然記念物の大樟(おおくす)。説明板には樹齢2000年以上とある。

境内で猿回しを見る。何年か前、湯島天神で見て以来。

 

1月11日 ふた月に一度の組合の会議のあと、4人で大船のかんのん食堂。

2022年1月に全焼したあと、くるたびに再建の様子を伺っていたが、新装なって再オープン。それから2度目。相変わらず人気の居酒屋。大船観音のお膝元。

 

1月13日 卒業生KS君と長津田Sで。

川崎競馬で働く彼と会って旧交を温めたのは5月だったか。

KS君、アルバムを持って参上。「これがなければ話にならない」と。埋もれていた記憶がいくつも蘇る。

ひょんなことからKS君のひと回りしたのOU君との交流が始まる。

暮れにブログに「31年前に担任していただいたものです」という書き込みがあった。

素性を明かしてもらうと、下の名前と顔が思い浮かんだ。中学2年の時担任した。

端正な顔立ちの穏やかな少年だった。

年末年始と、やり取りが続く。住まいが意外に近いのに驚く。

息子の受験が終わったら会いに行きます、とのこと。

いつも困ったなあと思うのは、教員であった自分の言動が、卒業生の記憶の中に残っていること。自分は忘れているのに。

 

1月16日 大学の授業再開。と言ってもこの日を入れてあと2回。たった13回の付き合いなのに、3週間ぶりでも少し懐かしい。

 

1月23日 最後の授業。今年度最後というだけでなく、8年間の「おつとめ」の最後。

帰りグランベリーパークでMさんと慰労会。

初めてトラジハイレーンに。

高級焼肉店のアウトレット版。料理や飲み物はレーンに乗って運ばれてくる。しかし

ハラミ以外は取り立てて美味いものなし。価格は立派だが。

もう行かない。

 

1月22日 やさしいコーラス。今回もMさんと二人。

Ave verum corpus」(K .618)を90分全パートの譜読み、みっちりと。

レクイエムがK.626。モーツアルトが亡くなる半年前に書いた宗教曲。

 

1月25日 先般、組合を脱退したAさんと新子安「諸星」。

横浜の「市民酒場」。この店を含めて3店あったが、東神奈川のみのかんは4、5年前に閉店。残るは高島町の常盤木とこの諸星だけ。

 

来店は2回目。前回は、1982年のことだ。

就職関係の出張で近くのビクターの工場に来た時に、同行したSさんに連れられてきたことを覚えている。42年ぶり。

CDが市場に出始めた頃、先行メーカーだったビクターの工場で聴かせてもらった音は、信じられいほどクリアだった。

レコードのプチプチという埃を拾った音や、カセットのシャーっという音は当時は雑音だった。CDの音のクリアさは驚きだった。

1月31日、信州、高遠の培窯、林秋実さんの奥様から電話。窯出しをしました、と。

9月に五合庵に行った時、Mさんがワンプレート用に皿を2枚注文した。出来上がりが楽しみ。

庭のクリスマスローズ

『正欲』(朝井リョウ・2021年)

映画が先だったが、小説は圧倒的。映画は小説をうまく翻訳しているように思えた。

『自由研究に向かない殺人』(ホリージャクソン・2021年・創元社推理文庫)

久しぶりのミステリ。イギリスの若者文化がよくわかる。

『自分で考えて判断する教育を求めて』(根津公子・2023年・影書房

「民主的だった教育がどのように壊されていったのか。中学校家庭科教員による不屈の記録」(帯の文章)

教育が民主的であったことがあったろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「PERFECT DAYS」など2024年1月映画寸評②と配信寸評

みても次々に忘れていく。中身はともかく?みたことだけでも記録しておかないと、何にも残らない。よかったのか、つまらなかったのか、これを読んでくださっている方に<自分なりのめやす>をお知らせすることにした。

 

2024年1月映画寸評②

<自分なりのめやす>

ぜひお勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(5)『PERFECT DAYS』(2024年/日本/124分/脚本/ジム・ベンダース、

   高碕卓馬/監督:ジム・ベンダース/出演:役所広司 柄本時生/2024年12月22日

   公開 )⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 


東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

                       (映画.com)

 

近くのグランベリーシネマ。

もう3週間以上経つが、ふところの中でこの映画の小さな火が燃えているような心持ちがある。

ストーリーを追わない。行為の理由を問わない。ただシーンを丁寧に重ねていく。すると、平山だけでなく、何人もの人物の背景がうっすらと見えてくる。しかしストーリーのディテールは気にならない。何人もの登場人物が呼吸をくりかえすように、わずかに変化していくものを、まるで木の成長を見るような気持ちで眺めている、そんな映画。

心地よい。小津がどうとかいうことはよくわからない。平山のセリフを抑制することで、他の人物がよく見えてくる。雄弁なのは音楽だ。60年70年代のアメリカンポップスが、映画を殊更に思念的にせず、心地よさを増している。画像9

映画のピースの一つと忘れらないのは、平山が訪れるスナックのママ、石川さゆりが歌う浅川マキの「朝日のあたる家」。youtubeにも上がっているが、何度聞いてもゾクゾクする。とってつけたようなハメコミの不自然な音ではなく、スナックの中の空気が震えるように、歌に情がこもっていて響きも豊か。こちらがその場にいて聴いているような臨場感がある。録音技術の高さ。短いが音楽シーンとして秀逸。もちろん石川の演技もこれ以上ないほどの自然体。石川のすごさ、演出のすごさ。

ママの別れた夫、三浦友和と平山のやりとりもかなりいい。ここでも二人のストーリーは語られない。平山の屈託と三浦の諦念がシーンで語られる。柄本時生や、妹麻生祐未や姪っ子とのからみも同様だ。

久しぶりにいい映画をみた画像10

田中泯

 

 

(6)『枯葉』(2023年/フィンランド・ドイツ合作/81分/Kuolleet lehdet(枯

   葉)/監督:アキ・カウリスマキ/出演:アルマ・ポウスティ ユッシ・バタネン

   /2023年12月15日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

 

フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサと、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパは、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないままひかれ合う。しかし不運な偶然と過酷な現実が、2人をささやかな幸福から遠ざけてしまう。

                          (映画.com)

 

近作の『ル・アーブルの靴みがき』『希望のかなた』』しかみたことがないがこの監督は、あとをひく。この映画も同様。ダルデンヌ兄弟と双璧。

ロシア・ウクライナ戦争下のフィンランドの、若者とは言えない男女の労働者の生活をつぶさに見せてくれる。何か主張しているわけではないが、西欧諸国とも極東にいてこの戦争を見ている私たちとも、決定的に違うものがある。人が人を必要とするぎりぎりのところで、互いが手の中からスルッと抜けていってしまう空虚さ。

とことん主張を抑えて、これもまたシーンを重ねていくだけ。こういう映画はカウリスマキにしかつくれない。アキ・カウリスマキ1957年生まれ

 

(7)『市子』(2023年/日本/126分/原作・脚本・監督:戸田彬弘/出演:杉咲

   花 若葉竜也/2023年123月8日公開)⭐️⭐️

川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。(映画.com)

過酷な境遇に翻弄されて生きてきた市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を「街の上で」「愛にイナズマ」の若葉竜也が演じる。(映画.com)

予告編が良かったので見にいったが、残念。役者はいいし、演技もいいのに。脚本が問題。アナがいくつもある。考えていくいるうちに次のシーンに。だからか冗長に感じられる。つくりながら先を考えているのか?完成度低い。素人考えだが、脚本を整理し、物語の結構をしっかりつくれば100分ほどの映画になっていいものになるのにと思った。画像22

 

 

1月の配信 寸評

 

(1)『ラーゲリより愛をこめて』(2022年/日本/133分/監督:瀬々敬久・出演:

   二宮和也 松坂桃李 2022年12月19日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

期待していなかったが、面白かった。時代考証がよかった。ただ翼竜者に流れる時間と戦後の日本の流れる時間のずれが今ひとつ伝わらなかった。北川景子のリアリテイのなさもあるが・・・。

 

(2)『ハードヒット発信制限』(2021年/韓国/94分/監督:キム・チャンジュ/

   出演:チョ・ウジン/2022年2月25日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️

アクションスリラー?クルマの座席下に仕掛けられた爆弾をめぐる攻防。この面白さは日本映画を超えている。

 

(3)『シャイロックの子どもたち』(2023年/日本/122分/原作:池井戸潤/監督

   :元木克英/出演:阿部サダヲ 上戸彩/2023年2月17日 500円)⭐️⭐️⭐️

原作に及ばず。もっとミステリスなものにしていいのでは。阿部サダヲがあまり生きていない。

 

(4)『網に囚われた男』(2016年/韓国/112分/監督:キム・ギドク/出演:リュ

   ・スンボム イ・ウオングン/2017年1月7日公開)⭐️⭐️⭐️

豊かな民主主義国家を標榜する韓国、貧困の独裁国家北朝鮮、一人の人間を間に置いたとき、さほど違いはない。人間らしく生きようとすれば国家と対峙、あるいは逃亡しかない。キム・ギドク監督にしては抑制した表現。

 

(5)『夜、鳥たちが啼く』(2022年/日本/115分/原作:佐藤泰志/監督:城定

   秀夫/出演:山田裕貴 松本まりか/2022年12月9日公開)⭐️⭐️

原作をなぞっただけ?完成度低い。面白くない。