『最悪な子どもたち』『夜明けのすべて』『コット はじまりの夏』 2024年2月の映画寸評②

2024年2月の映画寸評②

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば   ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

 

(12)『宝くじの不時着 一等当選くじが飛んでいきました』(2022年/韓国/113

   分/原題:6/45/脚本・監督:パク・ギュテ/字幕監修 松尾スズキ 2023年

   12月29日公開)時間があれば ⭐️⭐️⭐️    kiki 2月7日

 

韓国の軍人が手にした1等6億円の当選くじが北朝鮮兵士のもとへ渡ったことから巻き起こる騒動を予測不能の展開で描き、韓国やベトナムでスマッシュヒットを記録したシチュエーションコメディ。

韓国軍の兵士チョヌは1等6億円が当選した宝くじを手に入れ大喜びするが、その宝くじは風に乗って軍事境界線を越え、北朝鮮の上級兵士ヨンホのもとへ飛んでいってしまう。南北の兵士たちは宝くじの所有権をめぐり、共同警備区域のJSAで会談を開くことになるが……。

「別れる決心」のコ・ギョンピョが韓国軍人チョヌ、「ヒットマン エージェント:ジュン」のイ・イギョンが北朝鮮兵士ヨンホを演じ、「パイプライン」のウム・ムンソク、「人生は、美しい」のパク・セワン、「野球少女」のクァク・ドンヨンが共演。作家・演出家・俳優の松尾スズキが日本語字幕監修を手がけた。

 

あらすじを読むだけでもわかるが、掛け値なしに面白い映画。同じ民族どころか、今や堂々と敵国と正恩をして言わしめる南北関係を、韓国ではこんなふうに笑ってしまう。すごい民族だなと思う。長くしんどい分断を抱えているからこそのブラックユーモア。見ていて思うのは、幾つものシーンに隠し絵のように何かが仕込まれていること。なんとなく「ほら、ここだぞ」と言っているのはわかるのだが、本当のところはわからない。

たぶん私は、この映画の面白さの半分くらいしかわかっていないのではないか。独特の韓国語の言い回しやギャグ、それと今までの映画のパロディもたくさん含んでいるようだ。松尾スズキの字幕は凝っているが、それでも隣で韓国人が見ていたら、笑うツボが違うような気がする。

 

(13)『ポトフ 美食家と料理人』(2023年/フランス/136分/原題::La Passion    de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)ドダン・ブファンの情熱 (ポトフ):監督:

   トラン・アン・ユン/出演:ジュリエット・ビノシュ ブノワ・マジエル/2023

   年12月15日公開) ⭐️⭐️⭐️⭐️  2月11日kiki

青いパパイヤの香り」「ノルウェイの森」などの名匠トラン・アン・ユン監督が、料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の愛と人生を描き、2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したヒューマンドラマ。

19世紀末、フランスの片田舎。「食」を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニーの評判はヨーロッパ各国に広まっていた。ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、ただ豪華なだけの退屈な料理にうんざりする。食の真髄を示すべく、最もシンプルな料理・ポトフで皇太子をもてなすことを決めるドダンだったが、そんな矢先、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンはすべて自分の手でつくる渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようとするが……。

イングリッシュ・ペイシェント」のジュリエット・ビノシュが料理人ウージェニー、「ピアニスト」のブノワ・マジメルが美食家ドダンを演じた。ミシュラン3つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を手がけ、シェフ役で劇中にも登場。(映画.com)

ひとつ一つのシーンが練りに練られていて、美しい。料理も人も風景も。

美食家ドダンが、ユーラシア皇太子(これがよくわからないが・・・)の招待を受けて、8時間に及ぶ料理でもたなされ・・・辟易したドダンはシンプルな家庭料理ポトフで返礼の席を彩るという話かと思ったら、違った。予告編はそこに焦点を当てているようだったが。最後までポトフが出来上がることはなく、従ってユーラシア皇太子を招く宴席のシーンもない。料理対決の映画ではなく、これは美食家と料理人ウージェニーの恋愛の物語。19世紀末のフランスが見事に再現され、人々の動きも料理も全て見事にこなれていてなんの破綻もない。ほとんどのシーンで聴こえる鳥の声まで素晴らしい。

見たことのない世界が味わえる贅沢な映画。

Mさんもたまにポトフをつくるが、ドダンとウージェニーの作るポトフがどんなものか見てみたかった。

いずれにしても、この映画のすごさの半分ほども捉えていないような気がする。画像6

 

(14)『最悪な子どもたち』(2022年/フランス/99分/原題Les pires最悪/監督・

    脚本:リーズ・アコカ ロマーヌ・ゲレ/出演:ヨハン・ヘルデンベルグ/20

    23年12月9日公開)  ⭐️⭐️⭐️⭐️ 2月11日kiki

 

北フランスを舞台に演技未経験の問題児たちを配役した映画撮影の行方を描き、2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した人間ドラマ。キャスティングディレクターと演技コーチの経歴を持つリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレが長編初監督・脚本を務め、オーディションで数千人の若者と接してきた実体験をもとに撮りあげた。

フランス北部の荒れた地区を舞台にした映画が企画され、地元の少年少女を集めた公開オーディションが行われた。キャストとして選ばれたのは、異性との噂が絶えないリリや怒りをコントロールできないライアン、心を閉ざしたマイリス、出所したばかりのジェシーの4人で、シナリオは彼ら自身をモデルにした物語だった。波乱に満ちた撮影が始まり、4人は映画の登場人物を演じることで自分自身と向き合っていく。

主人公4人を演じるのは、実際に北フランスの撮影地近辺で開かれたオーディションで選ばれた演技未経験の子どもたち。「アイダよ、何処へ?」のヨハン・ヘルデンベルグが劇中の映画監督役を務めた。

ピカソ地区という北フランスのいわゆる荒れた地区を舞台に「映画をつくる」、そのメイキングを撮っているという設定だが、メイキングそのものがあらかじめつくられた脚本に依っている。

見る側は、このしんどい映画づくりのドキュメンタリーを見ているような気分。難しい子どもたちの好き勝手な行動に監督はじめスタッフは何度も立ち往生するのだが、これがまさにリアルそのもの。どこまでが演技なのか、見ていてもよくわからない。

子どもたちのエネルギーは止まるところも知らない。監督の女の子に対する扱い方の不満や、主役の女子のスタッフへの恋慕。いくつかの小さなエピソードが絡み合いながらドラマが進行する。

これって素のままの、例えばライアンはライアンという実在する子どもなのか?何度も自問しながら最後まで引っ張られる。あえて書かないが、リリーとライアンの静かなラストシーンがすばらしい。

なんという映画だ、というのが正直な感想。

 

 

 

(15)『夜明けのすべて』(2024年/日本/109分/原作:瀬尾まいこ/脚本・監督:

   三宅唱/出演:上白石萌音 松村北斗/2024年2月9日公開 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ グラ

   ンベリーシネマ2月14日

「そして、バトンは渡された」などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。

PMS月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。(映画.com)

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗上白石萌音が山添くん役と藤沢さん役でそれぞれ主演を務め、2人が働く会社の社長を光石研、藤沢さんの母をりょう、山添くんの前の職場の上司を渋川清彦が演じる。2024年・第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品。

 細部に至るまで丁寧に、ゆったりとつくられている。映画の中に流れる時間がすごい。『ケイコ』とはまた違った空気をつくり出しているのが16mmフィルム。照明を感じさせない自然光をうまく取り入れているように思えた。

テーマとしては穏やかなものとは言えないが、日々のそれぞれの生活の中にある「障がい」は、その表れかたは絶対的なものではなく、周りとの関係の中で捉えられるという、あたりまえなことが映画の中で実現されている。

ビブラフォン?の単純な音型の繰り返しが、どれほどエキセントリックな出来事があろうが、日常が続いていることを教えてくれる。

二人のもつパニック障害PMS光石研演じる社長とその弟の自殺、それと関わって語られる地球の自転と公転、プラネタリウムの映像・・・それらを文学的に絡ませながら物語が進む。

こういう会社、あるのだろうなと思わせられるシーンが随所に。中学生の職業体験のインタビューで「この会社のいいところは?」と聞かれて、「え?そんなものあるかな?」と言ってしまう古参の社員。

エンドロールのバックでは、昼休みの光景なのだろうか。日明かりの良い前庭でキャッチボールをする社員たちの姿が延々と流れる。

やや文学に流れすぎたかなとも思えるが、映像と音で繰り広げられる人と人の自然で淡い関係が描かれている。秀作。

 

(16)『コット 夏の始まり』(2022年/アイルランド/95分/原題:An Cailin    Ciuin 英原題:quiet girl/監督:コルム・バレード/出演:キャサリン・クリ

   ンチ キャリー・クロウリー アンドリュー・ベネット/2024年1月26日公開)   

                   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️      kiki  2月18日

 

1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休みを描いたヒューマンドラマ。第72回ベルリン国際映画祭で子どもが主役の映画を対象にした国際ジェネレーション部門でグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた。

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。

本作がデビュー作となるキャサリン・クリンチが主人公コットを圧倒的な透明感と存在感で繊細に演じ、IFTA賞(アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞)主演女優賞を史上最年少の12歳で受賞。アイルランドの作家クレア・キーガンの小説「Foster」を原作に、これまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を描いてきたコルム・バレードが長編劇映画初監督・脚本を手がけた。(映画.com)

ストーリーとしては奇抜なところなど全くないありきたりなものなのだが。

牧場を営むキンセラ家での生活に初めは馴染めないコットだったが、アイリンの惜しみない愛情と、不器用なショーンの愛情によって少しずつ気持ちに変化が見えてくる。ああ、これもありきたりな言い方だな。とにかく一つひとつのシーンが、私には珠玉のように感じられた。シーンそのものの美しさというより、シーンが人物の感情の揺れ動きを的確に情感豊かに表現している。心を開いていくコットは終始無表情で笑顔を見せない。なのになんというか子供っぽさが少しずつ増していくるというような変化を見せる。子どもを亡くしているショーン夫婦の方は、単にその喪失感をコットで代替しようとまでは思わないにしても、アイリンにはそんな気持ちがないわけではない。対するショーンの方は、コットをみているだけで我が子のことが思い出されてしまう。だから素直にコットに向き合えない。

80年代のアイルランドの田舎で起きた取るにたらない出来事を、これほど味わい深い作品に仕上げたことに驚かされる。別れのラストシーンも、90分静かに積み上げてきたものをそっと押し出していてグッとくる。二つ隣の中年男性の座席から、押し殺した嗚咽が聞こえてきて、なんだかそれにもグッときてしまった。

こういう映画を佳品というのだろう。

 

(17)『コンクリートユートピア』(2023年/韓国/130分/原題:Concrete

            Utopia/脚本:イ・シンジ オム・テファ/監督:オム・テファ/出演:イ・

          ビョ ンホン パク・ボヨン/2024年1月4日公開) ⭐️⭐️⭐️kiki 2月18日

大災害により荒廃した韓国・ソウルを舞台に、崩落を免れたマンションに集まった生存者たちの争いを描いたパニックスリラー。

世界を未曾有の大災害が襲い、韓国の首都ソウルも一瞬にして廃墟と化した。唯一崩落しなかったファングンアパートには生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷、放火が続発する。危機感を抱いた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放して住民のためのルールを作り“ユートピア”を築くことに。住民代表となったのは902号室に住む職業不明の冴えない男ヨンタクで、彼は権力者として君臨するうちに次第に狂気をあらわにしていく。そんなヨンタクに傾倒していくミンソンと、不信感を抱く妻ミョンファ。やがてヨンタクの支配が頂点に達した時、思いもよらない争いが幕を開ける。

「非常宣言」のイ・ビョンホンが支配者ヨンタク、「マーベルズ」のパク・ソジュンがミンソン、「君の結婚式」のパク・ボヨンがミョンファを演じた。監督・脚本は「隠された時間」のオム・テファ。

騙されたヨンタクが、加害者宅を訪れた時に大地震が発生する。気がつけば周囲はヨンタクをその加害者と思い込み、あらぬ期待を寄せ始める。初めは戸惑いながらだが、ヨンタクはいつの間にかたった一棟残されたマンションをまとめる指導者となり、助けを求める他のマンションの被災者を徹底排除し、マンションだけの「王国」をつくり始める。

イ・ビョンホンの演技が、映画を成立させるための要素の半分以上を占めている。戸惑いから確信、そして君臨に至る経緯が見もの。それに対して、恐怖の中でヨンタクに強く傾倒していくパク・ソジン演じるミンソン、最後まで良心を失わないパク・ボヨン演じるミョンファ。ヨンタクと住民、ミンソンとミョンファの夫婦の心理劇。

ただそれが、凄まじい地震があり、街が瓦礫の中にあるのに、どこかつくられた舞台劇のように見えてしまうのは、外の世界の関与が全く描かれないからだ。政府や市民の存在が描かれず救助する人々も登場しない。その分リアリティが感じられないのが残念。韓国のパニック映画ならばそうした内外の緊張感こそ見どころだと思うのだが。画像5

 

(18)『花腐り』(2023年/日本/137分/原作:松浦寿輝/脚本:荒井晴彦 中野

          太/監督:荒井晴彦/出演:綾野剛 柄本佑 さとうほなみ/2023年11月10日

          公開)    ⭐️⭐️         ジャック&ベテイ 2月19日

「火口のふたり」の荒井晴彦監督が綾野剛を主演に迎え、芥川賞を受賞した松浦寿輝の同名小説を実写映画化。原作に“ピンク映画へのレクイエム”という荒井監督ならではのモチーフを取り込んで大胆に脚色し、ふたりの男とひとりの女が織りなす切なくも純粋な愛を描く。

廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子であることに気づく。3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、それぞれの人生が交錯していく。

綾野が栩谷を演じ、「火口のふたり」にも出演した柄本佑が伊関役、「愛なのに」のさとうほなみが祥子役で共演。

 

私には冗長に感じられた。退屈な映画だった。性愛部分がかなり多いが、若い人には刺激あっていいのかもしれないが、私には不自然なカットに感じられた。『火口のふたり』の性愛シーンはかなり良かったのに、同じ監督なのに・・・。

全体につくりが古臭いし、演技、とりわけ綾野剛の演技はわざとらしく不自然。エピソードがいちいち持って回った感じがして、ついていけなかった。さとうほなみが白いドレスを着た幽霊のように出てくるラストシーンに至っては陳腐。

二人の間にあるさとうほなみへ恋情のひねりが感じられなかった。エンドロールでの綾野剛さとうほなみのカラオケも意味がわからない。あれだけひどい歌を結構な時間聞かされるのは勘弁。小説はもっと面白いのではないかという気はするが。

 

(19)『笑いのカイブツ』(2023年/日本/116分/原作:ツチヤタカユキ/滝本憲

           吾/出演:岡山天音 菅田将暉 松本穂香 仲野太賀/2024年1月5日公開)

                                                                                ⭐️⭐️⭐️   kiki2月22日

「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。

「キングダム」シリーズなどで活躍する岡山天音が主演を務め、仲野太賀、菅田将暉松本穂香が共演。井筒和幸中島哲也廣木隆一といった名監督のもとで助監督を務めてきた滝本憲吾監督が長編商業映画デビューを果たした。(映画.com)

最後まで飽きずには見た。画面に疾走感があり、みる方をぐいぐい引っ張っていく力を感じた。演出はもちろんそれに応えた主演の岡山天音の怪演。演じているというよりもツチヤタカユキってこの人かと思わせる。

松本穂香菅田将暉、仲野太賀はメリハリがあるし、片岡礼子もいい。わけても仲野と菅田将暉はかなりいい。二人とも何にでもなる、なれる。

なのに映画は笑えない。劇中のネタに笑えるものがほとんどなかった。クスッと笑ったのは2回か3回。私だけかもしれないが。ケータイ大喜利などで「伝説のはがき職人」と呼ばれたというその笑いが伝わってこない。だから”カイブツ”ツチヤタカユキが、カイブツに見えてこない。見えるのは、あちこちに頭をぶつけながら器用に生きられない対人関係不得意、破滅型の若者の物語。私が若い人のセンスについていけなかっただけかもしれない。想像していたのは、ネタの面白さとツチヤのギャップだったのだが。

原作の文庫本の紹介には「27歳、童貞、無職、全財産0円。笑いに狂った青年が、世界と正面衝突!」とある。原作で笑えるかどうか読んでみる。〝伝説のハガキ職人〟による、心臓をぶっ叩く青春私小説なのかどうか。

劇中、菅田将暉が働く居酒屋。屋号が「車屋」。東京、根津の車屋。一度だけだが入ったことがある。感度の高い居酒屋。映画ではそうは見えないが。

マガジンのカバー画像