大方緋沙子と池谷のぶえ・・・2人のバイプレーヤーが印象的。 2024年4月の映画寸評③ 『水平線』 『52ヘルツのクジラたち』

2024年4月の映画寸評③

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば    ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

㊲『水平線』(2023年製作/119分/G/日本/脚本:斎藤孝/監督:小林且弥/出演:ピエール瀧 栗林藍希他/劇場公開日:2024年3月1日)  

                        4月11日 kiki ⭐️⭐️

「ロストパラダイス・イン・トーキョー」などの俳優・小林且弥が長編初メガホンをとり、「凶悪」で共演したピエール瀧を主演に迎えたヒューマンドラマ。福島県のとある港町を舞台に、大切な人ときちんとお別れできないまま立ち止まってしまった父娘の複雑な心情を描く。

震災で妻を亡くした井口真吾は、個人で散骨業を営みながら、水産加工場で働く娘・奈生と2人で暮らしている。高齢者や生活困窮者を相手に散骨を請け負う彼のもとに、かつて世間を震撼させた通り魔殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれる。苦しい選択を迫られた真吾は、ある決断を下す。(映画.comから)

ピエール瀧が少しずつ復帰し始めている。昨年は『福田村事件』で見た。今回、精彩を欠いていると感じたのは、演出のせいか。脚本が良くないせいもあるだろう。オリジナルであるのはいいとして、全体に締まりが感じられない。娘、父親の微妙な距離感が描かれていない。

一番わからなかったのは、通り魔殺人の死刑囚の弟が、兄の遺骨の散骨を井口に依頼してくるのだが、弟の辛そうな表情はわかるが、なぜフクシマの海に散骨したいのかが描かれていない。推測できるのは、弟が近くの現場で働いているということだけ。

また横須賀で起きた通り魔事件の被害者が、井口に対し「フクシマで散骨しても海は繋がっている」として散骨をしないよう要請するのだが、その理由もよくわからない。加害者であるにしても、その遺骨の行方をそんなに追求するものだろうか。それ以上に、そうした要請を散骨業者に行うのは筋が違うと思う。一義的にはまず死刑囚の弟に散骨を止めるよう要請するものではないか。ここが一番わからないところ。

さらに周りの漁師は「そんな遺骨を散骨したら風評が立って漁に影響が出る」と井口を責めるが、そうだろうか。汚染水(処理水)に比べれば何の問題もないのではないか。「死刑囚の遺骨をフクシマの海に散骨」という事実にそれほど大きなインパクトがあるものだろうか。ルポライターがその辺りを激しく喧伝するが、腑に落ちてこない。

井口の娘もまた散骨に反対する。母親が眠っている海に死刑囚の遺骨を散骨する父親が許せないということだろうが、その怒りが、漁師らの取り囲まれて本意を迫られている父親のところに行き、頬を張るという行為となるのもよくわからない。

 

一人ひとりの登場人物の心理描写が浅薄だと思う。

とりわけ井口の心理が見る側に迫ってこない。意味のないスナックで酒を飲むシーンが全く成功していない。

方言も役者によって濃淡が激しすぎる。大方緋沙子だけは福島出身というだけでなく、演技としても方言を自在に駆使していていい味を出していた。

逡巡の末、散骨をしないと決めた井口は、ルポラーターたちと死刑囚の弟のところに向かうが、弟の姿を見て前言を翻してしまう。

 

妻は津波に流されて遺骨が戻って来ない漁師である井口、という設定からストーリーが始まっているが、フクシマへのこだわりはわかるが、全体にストーリーの流れが不自然で入り込めなかった。

 

画像4

大方緋沙子

shさん㊳『52ヘルツのクジラたち』2024年製作/135分/G/日本/原作:町田そのこ 脚本:龍居由佳里/監督:成島出/出演:杉咲花 志尊淳 宮沢氷魚 小野花梨 余貴美子 倍賞美津子/劇場公開日:2024年3月1日)  kiki 4月10日 ⭐️⭐️⭐️

 

2021年本屋大賞を受賞した町田そのこの同名ベストセラー小説を、杉咲花主演で映画化したヒューマンドラマ。

自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。

杉咲が演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳、貴瑚の初めての恋人となる上司・新名主税を宮沢氷魚、貴瑚の親友・牧岡美晴を小野花梨「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李が演じる。「八日目の蝉」「銀河鉄道の父」の成島出監督がメガホンをとり、「四月は君の嘘」「ロストケア」の龍居由佳里が脚本を担当。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。(映画.comから)

本屋大賞受賞の原作のツボをしっかり押さえていてわかりやすくテーマを伝えている。いくつもの布石をしっかりきれいに回収してまとめている。演出も丁寧。役者もしっかりそれに応えている。面白くなかったわけじゃない。愉しめたのだけれど、どこかソツがなさすぎて物足りない。昨年の『銀河鉄道の父』もそうだった。2作に共通するのはつくりものっぽさ。そうそうそっちの手には乗らないよといったところ。

気になったところ。原作を読んでみないとわからないが、前半の三島貴瑚と後半の三島貴瑚がつながらない。壮絶な虐待を受けて育った三島貴瑚が、アンさんによって過去をどう整理することができたのかがよくわからなかった。

杉咲花宮沢氷魚、志尊淳、余貴美子倍賞美津子、上手な人たち。中でも宮沢氷魚という役者、いい。池谷のぶえというバイプレーヤーの演技がとっても自然で印象的。