夜明け前、いつものように玄関のドアを開けて朝刊をとった。
いつも一面のタイトルだけ見る。
「小澤征爾さん 死去」。驚きはするが、すぐに「長い間ご苦労様でした」とひとりごちる。88歳。心不全。心臓が動くのをやめた。自然なことなのだと思う。
誰もが迎える時間。テレビは巷の惜しむ声を取り上げているが・・・。
ボストン交響楽団の追悼演奏が放送される。
バッハの「G線上のアリア」。なんという指揮者か知らないが、若い女性の指揮者。
記憶は朧ろなのだが、若い頃、何度かナマを聴きに足を運んだ。
はっきりと覚えているのは、東京カテドラル大聖堂で聴いたヴェートーヴェンの第九。
会場がコンサートホールでなかったから覚えているのだろう。
朝食の準備をしながらすぐに聴きたくなったのが、チャイコフスキーの「弦楽のためのセレナーデ」。 YouTubeを検索する。
食道癌から復帰してすぐにサイトウ・キネン・オーケストラを振ったものがすぐに見つかる。
すごい演奏だ。感情の爆発。力のたぎる演奏。だが、冷静。「枯れた」という印象は全くない。スケールも大きいし、なんとも艶のある演奏だと思う。
もう一つは、ずっと若い頃、同じサイトウ・キネン・オーケストラを振ったもの。髪の色が黒い。画質も悪い。50代だろうか。こちらももちろんスケール感もあるが、どちらかと言えば端正、だろうか。
どっちが好きかと聞かれれば、歳を重ね病気を克服したあとの演奏の方だ。
同じ曲でも、時期によって大きく違うことに驚かされる。
たくさんの音源を残してくれたことに感謝。