『前科者』残念。そもそも佳代のような20代の若者が保護司となるケースはまずほとんどないわけで、原作はそこにストーリー性を求めていて、ぎりぎり保護司の線を守りつつ・・・という感じだったが、映画版はまるで熱血保護司。これでは保護司としては不適格。誤解さえ生むのではないか。

映画備忘録。4月12日、kikiの1本目。

『前科者』(2022年製作/133分/PG12/日本/原作:香川まさひと 月島冬二/脚本・監督岸善幸/出演:有村架純 森田剛 磯村優斗 若葉竜也 マキタスポーツ 石橋静河 リリー・フランキー 木村多江他/公開:2022年1月28日)

 

罪を犯した前科者たちの更生、社会復帰を目指して奮闘する保護司の姿を描いた同名漫画(原作・香川まさひと/作画・月島冬二)を、「あゝ、荒野」の岸善幸監督のメガホン、有村架純森田剛の共演で映画化。保護司を始めて3年となる阿川佳代は、この仕事にやりがいを感じ、さまざまな前科者のために奔走する日々を送っていた。彼女が担当する物静かな前科者の工藤誠は順調な更生生活を送り、佳代も誠が社会人として自立する日を楽しみにしていた。そんな誠が忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身となってしまう。一方その頃、連続殺人事件が発生する。捜査が進むにつれ佳代の過去や、彼女が保護司という仕事を選んだ理由が次第に明らかになっていく。佳代役を有村、誠役をこれが6年ぶりの映画出演となる森田が演じるほか、磯村勇斗リリー・フランキー木村多江らが顔をそろえる。主人公・佳代が新人保護司として奮闘し、成長する姿を描く連続ドラマ版「前科者 新米保護司・阿川佳代」(全6話)が2021年11月にWOWOWで放送。その後の公開となる映画版は、原作にないオリジナルストーリーで描かれる。(映画ドットコムから)

 

レビューでは高評価が多かったが、私の感想としては大きく期待外れ。

映画化ということで力が入りすぎたのだろうか。

率直に言って同じ監督の『前科者 新米保護司・阿川佳代』のほうが完成度が高かった。

 

よかったのは、森田剛。演技というか役作りが徹底していて良かった。

ただ脚本に難があるため、それが生かしきれなかった。

それが随所に。

阿川佳代が中学の時に前科者らしい人間に襲われた時、男友達(磯村優斗)の父親が通りかかり、男と格闘、刺されて死ぬ。佳代は自分が前科者に対し差別的な視線を投げたこと、自分のために友達の父親が死んでしまったことに屈託をもって保護司となったというのが物語のベースに。これ自体が大きく不自然。

初めの幻想的な海辺のシーン。砂浜に倒れた男友達の上に覆いかぶさって佳代がキスをする。どうしてこのシーンを入れたかったのか。必然性が最後までよくわからなかった。軽い恋心を抱くというだけでいいところだと思うが、妙に凝っていて・・・。

 

男友達は、森田が起こす事件の担当刑事となって佳代の前に現れ、殺人犯への怒りを表す。一方、10年以上ぶりに会った佳代の家に入り佳代を抱こうとするが、途中でやめてしまう。ここも二人の物語が全く生きていない。

 

磯村優斗はマキタスポーツとコンビを組む刑事なのだが、とにかく警察関係のシーンはすべてダメ。二人がリーダーとなって殺人事件の捜査をするのもあり得ないし、刺された元警官のベッドでの取り調べで磯村が傷口にペンを押し当てて出血させて、いわば拷問して供述させるなんてのもヘン。

マキタスポーツも自然に演じれば迫力が出そうなのに、悪ぶった刑事像をつくるからかえって不自然。二人ともキャラが立ちすぎて管理捜査、組織捜査のリアリティを壊している。高村薫横山秀夫の原作ならこんなことにはならないと思うのだが。

物語のヤマ場。

森田剛若葉竜也の兄弟は、虐待を繰り返す父親が母親を殺し、施設で育つことに。森田は施設を出て就職。職場で先輩とトラブルになり、刺殺。服役して戻ってきて佳代が保護司として担当する。

そして二人はラーメン屋で再会。これもなんだかなあ。

若葉は病んでいるようにも見えるが、4人に殺意をもっていて次々に殺していく。

 

1人は、警察官。母親が2人を連れて交番にDVの相談に行ったとき真剣に対応せず、DVを放置した。2人目は連絡ミスから母親の転居した住所を父親に伝えてしまった福祉課の職員。3人目は二人が入っていた児童養護施設の職員。二人に対する虐待。4人目が母親を殺した父親。

 

これらの人物の所在を調べ上げ、警官から奪った銃で3人までを殺してしまう。

殺意、ということの重さが感じられない。

まだ4,5歳だった弟が、父親や施設職員はまだわかるが、警察官や福祉課職員に対し、それほど論理的で強い殺意をもつものだろうか。弟の成育歴が描かれないからなおのこと、不自然で唐突な感じがする。まして、5人目として父親の弁護を務めた弁護士を森田が病室で待ち構えてハサミで刺そうとするというのもなんだか。部屋の外に警察官がいるのに、部屋に入って森田を説得するのは阿川佳代。

もう、これは保護司とは言えない。

佳代にしても、仕事を怠ける保護対象者のアパートの窓ガラスを傘で割って出勤を迫るのもあまりに非常識。だいたい保護司がそんなに頻繁にあちこち歩きまわるなんて聞いたことがない。

 

そもそも佳代のような20代の若者が保護司となるケースはまずほとんどないわけで、原作はそこにストーリー性を求めていて、ぎりぎり保護司の線を守りつつ・・・という感じだったが、映画版はまるで熱血保護司。これでは保護司としては不適格。誤解さえ生むのではないか。画像1

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これもありえない

テレビ版でのコンビニ店長との味のあるやり取りやみどり(石橋静香)とのからみなども薄まってしまった(唯一よかったのは石橋とのやり取り。テレビ版はもっとよかったが)。

全体にテンポ感が薄く、有村架純の演技もわざとらしく、入り込めなかった。

もし見るのならテレビ版をお勧めする。

残念。画像10