『トトと二人の姉』(2014年製作/93分/ルーマニア/監督・脚本・撮影・編集:アレクサンダー・ナナウ/原題:Toto si surorile lui/日本公開:2017年4月/Amazonプライム550円)。

見たい映画は有料。アマプラに恨みごとを言いたくなる。

見たい映画はネトフリ、というのもあるが。

 

『コレクティブ 国家の嘘』をつくったアレクサンダー・ナナウ監督の前作。

『トトと二人の姉』(2014年製作/93分/ルーマニア/監督・脚本・撮影・編集:アレクサンダー・ナナウ/原題:Toto si surorile lui/日本公開:2017年4月/Amazonプライム550円)。

 

     

ルーマニアの首都ブカレストの郊外で、親が不在でもたくましく生きる3人の姉弟の日常を追ったドキュメンタリー。ルーマニアで暮らす10歳のトトは、2人の姉と3人で暮らしている。母親は麻薬売買で刑務所に収監中の身、父親の顔は知らない。保護者のいない3人が暮らすアパートは不良たちのたまり場となっており、トトが眠っているとなりで、男たちが腕や首筋に注射針を刺すのが日常の光景だ。やがて、17歳の姉アナもドラッグに手を染めて警察に捕まってしまう。なんとか生活を立て直そうとする14歳の姉アンドレア、ヒップホップダンスと出会うトト、幼い姉弟たちは未来を切り拓こうとする。【映画ドットコムから】

 

 

ドキュメンタリーなのに、いつしか劇映画のように見えてくる。

これに近いのは、『コレクティブ 国家の嘘』以外では、去年観たマイテ・アルベルディ監督の「El agente topo」(2020年)邦題『83歳のやさしいスパイ』(チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作)。

と書いて思い返すと「近いかなあ」とも考えてしまう。

『83歳のやさしいスパイ』は老人施設に入所するある老人が虐待などうけていないかなどを調査する素人の老探偵の話だが、いつしかこの老探偵が施設の中で良き相談者となり、皆に愛される存在になっていくという、これもまた奇跡的な話ではあるのだが、『トト』はブカレストの薬物中毒者の巣窟が舞台。警察は丸太でドアを壊して逮捕に来るし、実際に薬を仕分けしたり、注射しているシーンも頻繁に出てくる。未成年のアナが明らかに薬物を注射しているように見えるシーンもある。撮る方と撮られるほうの緊張感は半端ではないはずなのに、『トト』ではまるでカメラを回している人が空気のように感じられる。『スパイ』のほうはアングルもきちんと考えられているが、『トト』のほうはそんな余裕もなく、手持ちカメラがぶれなど気にせず撮り続けている。

刑務所の中の母親、親戚の薬物中毒者、放課後学童クラブ?の職員、警察、裁判所、カメラは躊躇なく彼らを追う。

3きょうだいとカメラの信頼関係は、「撮るのはやめて」という彼らの意志をも含めてゆるぎないもののようだ。

どこまで意図された映画なのか。画像3

たくさんのシーンを一台のカメラでひたすら取り続けているうちに、その中に「物語」のようなものが見えてくる、と言ったことはあるのかもしれない。

しかし、時にはセリフのように、時にはインタビューに応えるように話される3きょうだいの言葉に驚かされる。そしてカメラに見せる言葉以上の多くの表情。時には子どもたちがカメラを持って自分たちを撮るシーンも。アレクサンダー・ナナウという監督の底知れなさを感じる。

 

アナは弟妹を面倒見なければと、部屋を掃除し、中毒者の叔父らを部屋から出そうとするが、うまくいかない。そうして葛藤のなかで薬に手を染めていく。逮捕され収監され裁判にかけられるが、黙秘を通して放免される。画像4

アンドレアは居場所のなさから弟にきつくあたりながら、安定を求めて二人で施設に入り、いつしかトトを愛することが生きる支えになっていく。アナはアンドレアに施設入所を勧められるが、自分のふがいなさにアンドレアを激しくなじり一人で生きることを選ぶ。

トトは、まるで劇映画の主人公のようにヒップホップダンスにのめりこんでいき、1年半で甘えん坊の子どもから変貌していく。その変貌ぶりが母親との関係の変化に見られる。

刑務所から仮釈放で出てくる母親をアンドレアとトトは迎えに行くが、帰りの電車の中でトトは母親を見ようとせずに眠ったふりをする。一年半前の面会の時には一番にハグをしたトトが、母親を拒否する。

 

子どもには「変わる」「かわれる」という希望がある。そのことを如実に、そしてシビアに見せてくれる映画。

ドキュメンタリーであることがいまだ信じられない。画像7

一口にヨーロッパとか中欧という言い方が、何も表していないことに気づかされる。日本が「日本」という言葉で表されることがないように。