映画備忘録4編。

映画備忘録、簡単に。

 

アルマゲドンタイム ある日々の肖像』2022年/115分/アメリカ/原題:Armageddon Time /監督・脚本:ジェームズ・グレイ/出演:アンソニー・ホプキンスン・ハサウエイ ジェレミー・ストロング ほか/日本公開:2023年5月23日)

画像1    不思議な味わいの映画。アルマゲドン・タイムは世界最終戦争という意味の言葉。1980年代のレーガン大統領誕生によって強いアメリカが標榜され、世界が不安定になっていく時代性と、主人公のポール(監督の子ども時代を投影)の心の不安定さが日々いやましていくことを表しているようだ。

80年代のアメリカの学校、家庭、子どもたち・・・。過ぎてみれば美しい思い出話、にしていないところがいい。

とにかく「なんだ、これは?」というシーンの連続。祖父母、伯母伯父と父母と2人の男子の家庭の夕食のシーン。スパゲティの食べ方を注意する母親、スパゲティより餃子が食べたいとデリバリーを勝手に注文する弟、それに乗っかってメニューを追加する兄、イライラする父親。

割合裕福に見える家庭の幾つもの亀裂。そのルーツにあるのがユダヤ人である祖父、アンソニー・ホプキンスとその過去。

弟ポールの学校や教師、父母に対する稚拙とも言える反抗、反発の裏に見え隠れするユダヤ人差別とその歴史。

しかしどこをとっても教訓的なものは見いだせない。事実の重さ。

1980年代、アメリカの大人も子どもも、こんなふうに生きていたんだということを矛盾を隠さず描いたところが、この映画のいいところ。

幾つものエピソードが、見終わった後にずしんと心に響くようだ。

ポールが兄の通う私立学校へ転校させられるシーンもそうだ。

学校に多額の寄付をしたと思われる一家の名前がトランプ。前大統領のトランプの父親と姉が出てくる。家族はレーガンを支持せず、レーガンが大統領になったことで嫌な時代が来ると考えているのに、ポールを入学させるのはこんな学校。

ポールは黒人の友達と一緒に学校のパソコンを盗んで逮捕されるが、意を決して「自分が企図したんだ」と供述するも、父親が取り調べの警官と知り合いだったことから、ポールだけが釈放される。父親はポールに「間違っているかもしれないが、それを抱えて生きていくんだ」と言う。父親自身の矛盾を曝け出しているところ。ジェレミー・ストロングの演技が良い。

アン・ハサウエイも愛情深いゆえの矛盾を抱える母親を好演。

全くスッキリしない映画だが、アンソニー・ホプキンスの演技とともに、たぶん忘れられない映画になるような気がする。

 

②『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022年/105分/G/アメリ
原題:Women Talking/監督:サラ・ポーリー/出演:ルーニー・マーラほか/日本公開:2023年6月2日)

 

ブラッド・ピットが製作に入り、その上予告編が印象的だったのでみたのだが、正直退屈だった。2010年にアメリカのある村で起きた性的暴行事件を題材としているが、とても2010年代と思えない。20世紀前半のような雰囲気。ほとんどが納屋での女性たちの議論で、堂々巡りをしているように感じられた。評判が高いようだが、どこか時代錯誤があるように思われ、好印象にはならなかった。

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③『テノール 人生はハーモニー』(2022年製作/101分/G/フランス/原題:Tenor

/監督:クロード・ジュディJR/出演:ミシェル・ラロック MB14 ・日本公開:2023年6月9日)画像1

なんともベタな音楽出世映画。才能を発見されたラップ好きの青年がオペラ歌手として認められるまでの波瀾万丈のドラマ。

クラシック音楽が好きな人にはなんとか楽しめる映画。

パリ、オペラ座の中や屋上など貴重なシーンが多い。

 

④『同じ下着を着るふたりの女』(2021年製作/139分/G/韓国原題:The Apartment with Two Women/監督・脚本:キム・セイン/出演:イム・ジホ ヤン・マルボク/日本公開:2023年5月13日)

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後半、やや冗長に感じた。監督の思い入れの強さはわからないでもないが。

日本でつくられる母娘の関係を描いた映画とは全く趣を異にする。

ネタバレになるので書かないが、最初の駐車場のシーンは衝撃的。日本では発想すらできないシーン。

 

全編、これでもかと2人の感情のひだをカメラが追っていく執拗さに少し辟易する。

娘(29歳)だがを真っ当に愛情を受け取れない子どもとして描いておらず、また酷すぎる母親が時に可愛く見えてしまうところが、この映画の深さかもしれない。

他の方の感想を聞いていみたい。