『ダークウォーターズ』この闘いも映画も、不屈の精神をもった人々の共感からできていると思った。               「この映画で一番述べたいことは、ぼくたちに知る権利があるということだ」(マーク・ラファロ)

  きのう、ミモザの写真を載せたが、今朝通りがかったら、黄色がさらに鮮やかを増していた。そこここで梅が盛りだが、ミモザはあまり見かけない。豊かな黄色を見るたびに、ふしぎな満足感に包まれる。

ネットで検索すると、グループホームや高齢者専用住宅に”ミモザ”を冠したものが多い。春らしい明るいイメージがあるからだろう。

 

映画備忘録。3月11日、あつぎのえいかがかんkikiで2本。

 

『ダークウォーターズ』(2019年製作/126分/G/アメリカ/原題:Dark Waters/製作・主演:マーク・ラファロ/監督:トッド・ヘインズ/出演:アン・ハサウエイ ティム・ロビンズ ビル・キャンプ/日本公開:2021年12月17日) 

環境汚染問題をめぐって1人の弁護士が十数年にもわたり巨大企業との闘いを繰り広げた実話を、環境保護の活動家という一面も持つマーク・ラファロの主演・プロデュース、「キャロル」のトッド・ヘインズ監督のメガホンで映画化。1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットが受けた思いがけない調査依頼。それはウェストバージニア州の農場が、大手化学メーカー・デュポン社の工場からの廃棄物によって土地が汚され、190頭もの牛が病死したというものだった。ロブの調査により、デュポン社が発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流し続けた疑いが判明する。ロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏み切るが、巨大企業を相手にする法廷闘争は、真実を追い求めるロブを窮地に陥れていく。ロブの妻役をアン・ハサウェイが演じるほか、ティム・ロビンスビル・プルマンらが顔をそろえる。

 

圧倒された。

デュポンは世界第4位、アメリカで第2位の石油化学会社。

これと20年間も闘ったロブ・ビロットと法律事務所もすごいが、これを映画にしてしまう主演も務めたマーク・ラファロもすごい。

 

ある種のヒロイズムが映画ではストーリーを広げ、観衆の心を引き付ける。

法律ものでは、韓国映画『幼い依頼人』(2020年)のように、苦学して法律事務所に入り、ステータスを与えられた若い弁護士が、ステータスを捨てて虐待に苦しむ子どもを助けるといったストーリーだ。

これが会社だったり学校だったり、既存の所属する集団に反旗を翻し、抑圧されている人を救うというパターンだが、この映画、というよりこの闘いはそうではなかった。

 

驚くのは、企業側につく法律事務所のパートナーとなったロブが、巨大企業デュポンと闘うことになっても、所長のトムは彼を切らない。それどころか所内の空気に抗い、ロブを支援する。

デュポンに嫌がらせをしているみたいだという所属弁護士に対し、トムは膨大な資料を指さし、「これを読んだのか」と詰問。そして「読め」と迫る。

さらに、「我々は企業側の弁護士だが、まっとうでない企業を弁護することで後ろ指刺されてきた。この裁判に勝つことが、企業をまっとうなものとしていくのだ」と云う。

感情に訴えるのではない、法律家の原点に戻れという点で、このシーンは感動的だった。

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ロブの家族との葛藤もドラマチックに描いていない。家庭を顧みないロブに対し妻は『わたしたちの今後について話し合いをするつもり?」と訊く。

子どもたちの行状についても隠さない。反発するでもなく、黙るしかないロブ。これもいいシーン。

 

有害物質テフロンを扱う現場で働いていた女性が産んだ子どもバッキ―の写真も何度か出てくる。妻に説明するとき、デュポンのCEOの証言録取の時。

バッキ―は片目がつぶれて鼻孔が一つしかない。

 

家族で食事したあと、ガソリンスタンドに寄るロブ。そこである男から話しかけられる。

「今日のスコアはどうだった?」

フットボールのことらしい。

ふとロブが顔をあげるとそこに大人になったバッキ―がいる。

 

実際にバッキ―が出演を承諾してこのシーンができたという。

 

7万人の原告団をつくり、採血検査の分析に7年かかる。

巨大企業にできないことはない。

この闘いも映画も、不屈の精神をもった人々の共感からできていると思った。

日本でも政府批判や企業批判の映画がつくられつつあるが、映画人はスポンサーとなる企業に対し、どうしても一歩置かざるを得ない。それでも映画人の中には前へ進もうとする人々がいる。

昨年もルーマニアの『コレクティブ 国家の嘘』韓国の『サムジンカンパニー1995』(これも企業が有害物質を排出を隠蔽した事件)

この映画、壮大な構想で多くの人々を巻き込んで作り上げた。闘いも映画も個人のヒロイズムでないところがすばらしい。

 

インタビューの中で、マーク・ラファロが言っている。

「この映画で一番述べたいことは、ぼくたちに知る権利があるということだ」

 

もっとたくさんの人たちに見てほしい映画だ。画像14

 鈴木広司の『ほの暗い水の底から』を原作とした『ダークウォーター』というホラー映画が2005年につくられている。原作は読んだが映画は未見。

”ウォーターズ”という複数形は、海とか湖のあとについた場合は複数形を表すが、ダークという形容詞のあとに来ている本作のタイトルでは、たくさんの垂れ流された有害物質を表現しているのではないか。そう考えるとなかなか深みのあるタイトルである。