『牛久』(2021年製作/87分/G/日本/監督・撮影・編集:トーマス・アッシュ/日本公開2022年2月26日)日本に住む外国人の手によってつくられた映画。長期の強制収容の問題を明らかにする。

映画備忘録。3月11日、2本目。

『牛久』(2021年製作/87分/G/日本/監督・撮影・編集:トーマス・アッシュ/日本公開2022年2月26日)

 

茨城県牛久市にある東日本入国管理センターに収容された人々の証言を通し、日本の入管収容所の実態を捉えたドキュメンタリー。在留資格がない人や更新が認められず国外退去を命じられた外国人を「不法滞在者」として強制的に収容するため、全国に17カ所設けられている入国管理施設。そのひとつである東日本入国管理センターには、紛争などにより出身国に帰ることができず難民申請をしている人も多いが、彼らの声が施設の外に届けられる機会はほとんどない。日本でドキュメンタリー作品を撮り続けてきたアメリカ出身のトーマス・アッシュ監督が、施設の厳しい規制をくぐり抜け、当事者たちの了解を得て、面会室で驚きの実情を訴える9人の証言を隠し撮りの手法を用いて記録。長期の強制収容や非人間的な扱いで精神や肉体を蝕まれ、日本という国への信頼や希望を失っていく人々の姿を映し出す。(映画ドットコムから〉

 

名古屋入管でのスリランカ人ウイシュマさんの死は、日本の入管行政のでたらめぶりを白日の下にさらしたが、この作品は事件以前から牛久の入管センターに収容された人々の実態を当事者たちの証言をもとに暴いている。

電話ではつながれても、直接顔を見て心情を伝えるということを追求した結果、監督は隠し撮りを敢行、当局の厳しい規制とに遭いながらも、収容者との信頼関係をもとに、撮影したフィルムを国会議員に見せ、国会質問にまでつなげるという、ドキュメンタリー作品としては極めてアクティブな作品。

隠し撮りの部分が多く、単調になりがちだが、そこで語られる実態は驚くべきものだ。

在留資格が切れている、あるいは難民申請がとおらない(日本の認定率は0.004%2020年は3936人が申請して認定は47人、2019年は10375人に対して44人)、しかし強制送還は身に危険があって応じられない、そうした人たちがまるで無期懲役のように収容されているのが入国管理センターだ。

ここ1,2年はコロナ禍もあって法務省は仮放免を増やしているが、・就労許可が下りない ・健康保険は適用されない、生活保護も受けられないという中、支援者の援助に頼る生活は不安定だし、いつ再収容となるかもしれず、その生活実態は矛盾に満ちている。

f:id:keisuke42001:20220314151738j:plain

東京新聞2022年3月9日

 

亡くなった(というより殺された)ウイシュマさんの場合、2017年に日本語学校の学生として入国、翌年には日本語学校と音信が途絶えるも、いったんは入管当局に難民申請をするが、帰国を理由に取り下げる。その後不法残留状態となるが、静岡県で自動車工場や弁当屋で働くも、手持ちのお金が付き、2020年8月交番に出頭、逮捕され入管セターに収容された。当初はスリランカへの帰国を希望していたが、帰国後の生活のめどが立たず、送還できない状態に。収容がなびく間に体調を壊したが、まっとうな治療を受けられず死に至った。名古屋入管でのウイシュマさんへの対応のひどさに対し、遺族はすでに裁判に訴えている。

 

仮放免となったもののうち相当数がそのまま行方不明となるケースがあるというが、仮放免の理由がコロナという外在的なものであり、一番の行方不明の理由は仮放免中の生活基盤がないことだ。

問題は、こうしたケースを入管体制自体が生み出していることだ。不法滞在の外国人による犯罪の増加、治安の悪化などが言われるのは欧州でも同じ。しかし難民を受け入れている欧州と違って日本はほとんど受け入れていない状態。技能実習生にしても問題は多いし、資格取得に向けての体制も取れていない。

自分たちが住む国が、こうした矛盾を抱えていることをしっかり認識するためにも、日本に住む外国人によってつくられたこの映画は重要だ。ぜひ多くの人たちに見てほしい。