『アウシュヴィッツ・レポート』ヨーロッパではユダヤ人解放から76年を経てもなお、アウシュヴィッツを克明に描こうとするその執拗な姿勢に驚かされる。

映画備忘録。10月18日、あつぎのえいがかんkikiで

アウシュヴィッツレポート』(2020年製作/94分/PG12/スロバキアチェコ・ドイツ合作/原題:The Auschwitz Report/監督:ペテル・ベプヤク/出演:ノエル・ツツォル ペテル・オンドレイチカ/日本公開2021年7月31日)

 

 

先日、『ホロコ-ストの罪人』のところでも書いたが、ヨーロッパではいまだにナチスの行った罪業に対し、繰り返し映画化がなされている。大衆文化としての映画がつくら続けていることは、歴史の風化に抗するエネルギーが民衆レベルでいまだ枯渇していないことであるし、歴史、言論、思想界においても事実の掘り起こしが続けられ、責任の所在についての繰り返し議論がなされているということだ。画像6

 

ヨーロッパのどの国も抱える移民・難民の問題は、ナチスの罪業と重ね合わされた時、歴史上の問題と現在の問題が地続きになる。

さらに、加害者としてのナチス・ドイツ、被害者としての周辺国という図式に対しても厳しい議論が行われ、被害国自身の責任を問う営みも続けらている。

ヨーロッパ全体の右傾化、ポピュリズムの蔓延の中でもこうした試みがあることに驚く。閣僚がいまだ靖国神社を参拝してもさしたる問題にも議論にないもならないこの国との違いは大きい。

 

この映画は、アウシュヴィッツ内のユダヤ人管理のし烈さを、看守と収容者の心理的な葛藤を業種して描いたところと、もう一点、収容者も含めて命を懸けてアウシュヴィッツでおこなわれていることを告発しようとした人々と、これに対しナチスの宣伝に目くらまされ、即座に対応できない連合国側の甘さがシビアに描かれている点が大きな特徴だ。

当時、赤十字などを通して多くの支援物資がドイツに送られていたことは知らなかった。その一切がユダヤ人はじめ収容者には届いていなかったことも。

それほどナチスドイツの情報操作は巧妙であったということだ。

連合国側は情報戦に敗北していたということだ。

20年前のアメリカの連続テレビドラマ『バンド オブ ブラザーズ』の中でも、アメリカの部隊が初めて収容所に入るシーンがあったが、描かれているのは誰もが収容所の中のすさまじい様子、収容者の極限状況を想像すらしていなかったことだったし、映像はその驚きぶりをしっかりと表現していた。

 

それにしても、ヨーロッパではユダヤ人解放から76年を経てもなお、アウシュヴィッツの当時のありようを克明に描こうとする執拗ともいえる姿勢に驚かされる。画像11

 

いつも思うことだが、現地に足を踏み入れて初めて分かることもある。私の場合、酷寒のアウシュヴィッツ、体感-20℃の中で残された大量の髪の毛や靴などから受けた衝撃はいまだに古びることがない。

 

事実を残すこと、人から人へさまざまな方法や手段をもって継承すること。そのことにまたこの映画でも思い至らせられた。画像12