内海新祐著『「ケア」を謳わないケア 児童養護施設・心理職の視点から』目の前の現実と、学問的知見や思想的な世界とのあいだを自在に行き来しているような軽やかさ、融通無碍な印象。

ハマスによるイスラエルへの攻撃。

私には、突然にとしか思えないが、当事者にとってはそうではないのだろう。長い間の憎しみの連鎖がまた爆発したということだ。

2000発ものロケット弾、街中への侵入と殺戮、誘拐。どうみても非道なやり方だが、

一方、イスラエルガザ地区ヨルダン川西岸でのパレスチナ人への対し方はさらに酷いものだ。

どちらが酷いのかという比較は意味がないのだろうが、それでもパレスチナ人を擁護する立場に立つ。

いつもそうだが、戦争になれば、とんでもなく軽く扱われてしまう無辜の市民の命。ガザ地区イスラエルも、まるごしの彼らにあらがうすべはない。パレスチナ人には逃げ場がない。

24時間以内に100万人以上の人間に避難しろというイスラエル、だれが聞いても無理な話。一方、民間人のいる病院や学校を縦に防備を固めるハマス。状況はかなり悪い。

イスラエルにとってはレバノンのヒスボラとの対峙、イランとの関係などハマス殲滅だけでは終わらない戦争。イランなどハマスに対する軍事支援はどこまで続くのか、国際的な批判にさらされ、民間支援も厳しい状態。PLOの動きはあまり見えない。

隣国エジプトも100万人以上のパレスチナ難民を受け入れる余力などあろうはずもない。

ハマスの攻撃はイスラエルの9・11と言われているという。またもや中東は不安定に。世界で「引き鉄」がたやすくひかれるようになるのが気になる。不安定要因のある地域では連鎖的に武力衝突が起きやすくなるのではないか。

 

 

南多摩の秋の空

10月8日、東京・台東区千束で開かれた研究会「人間と発達を考える会」に出席。前回拙著『空気を読まない「がっこう」悩みごと相談』を取り上げていただいたのだが、引き続き会へ参加させてもらうことに。

今回の題材は、内海新祐さんの『「ケア」を謳わないケア 児童養護施設・心理職の視点から』。

横浜の児童養護施設に心理職として勤務する内海さん、本書はこの10年ほどの間に雑誌などに書き続けてこられた文章で構成したもの。

児童養護施設は私にとってはほとんど未知の世界。その中で心理職として働く内海さんの文章は、驚くほど柔らかかつ穏やか、出席者のお一人がおしゃっていたが、静かな風

が吹いているような本だ。

この1週間ほど、ひたすらのめり込んで読んだ。心理職だから、職員とは違った視点から距離を置いて子どもたちに関わっているのかと思うのは大間違いで、内海さんは宿泊勤務も含めて丸ごとほぼ職員のように関わっている。文章からはそんな施設の日常の息づかいが伝わってくる。

もちろん精細な分析の文章も収録されているのだが、こちらもちょっと一味違う。何らかの理論的なバックボーンをもっての分析ではなく、目の前の現実と学問的知見や思想的な世界とのあいだを自在に行き来しているような軽やかさ、融通無碍な印象。

私のような門外漢でも、スッと入っていける安心感のようなものがあって、久しぶりに読むのが「愉しい」と感じさせる本だった。

当日、内海さんに実際にお会いして、受ける印象と文章の風合いがぴったりであると思った。

 

出席者は主宰の佐藤幹夫さんはじめ10名。大学勤務の心理職の方や施設勤務、あるいは福祉関係の行政職の方、児童相談所の方、塾経営の方など多彩。

オンラインでの出席は那覇在住の精神科医滝川一廣さんはじめ名古屋や川崎の方も参加、14時から始まった研究会が終わったのは17時半過ぎだったろうか。長時間ではあったが、久しぶりに楽しい時間を過ごすことができた。

外は暗くなっている。この間まで炎暑が続いていたのに、もう釣瓶落としの秋の夕暮れ。いつの間に降り出したのか、小雨。懇親会会場のある日比谷線三ノ輪駅までジャンパーをかぶって歩いた。