『ベイビーブローカー』…名優ソン・ガンホ・・・彼はけっして自分の芝居に慣れないんですね(是枝裕和)。

映画備忘録。

6月29日、グランベリーパークの109シネマズで

『ベイビーブローカー』(2022年製作/130分/韓国/原題:Broker/脚本・監督:是枝裕和/出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ ムン・ソヨン/日本公開2022年6月24日)

今年46本目。

万引き家族」の是枝裕和監督が、「パラサイト 半地下の家族」の名優ソン・ガンホを主演に初めて手がけた韓国映画。子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を介して出会った人々が織り成す物語を、オリジナル脚本で描く。古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが……。ソン・ガンホのほか、「義兄弟 SECRET REUNION」でもソンと共演したカン・ドンウォン、2009年に是枝監督の「空気人形」に主演したペ・ドゥナら韓国の実力派キャストが集結。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の男優賞を受賞。また、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。(映画ドットコムから)

 

観終わって最初に頭に思い浮かんだのは、ノベライズを読んでみたいということ。いつものことだが是枝作品はほとんどが彼のオリジナル脚本だ。例えば『海街diary』のようなノベライズ版だとこの作品どんなふうに描かれるのか。

 

そんなふうに考えるのは、一つひとつのシーンの細部にまで毛細血管が細かく張り巡らされているような印象があって、変な言い方だがとにかくどこも漫然としていないからだ。是枝監督は、文章ではどんなふうな文字遣い、言葉遣いであらわすのだろうか。

 

韓国の俳優人を起用し、韓国で撮影した映画。ものの見事に韓国映画になり切っている。冒頭のシーンなどホラー系の韓国映画の空気が充満している。

赤ちゃんポストから赤ちゃんを略奪して、子どもを欲しい人たちに売りつけるブローカー。二人組の一人サンヒョンは借金まみれのクリーニング屋、そして赤ちゃんポストで働く児童養護施設出身のドンス。

この二人のキャラクターが対照的で際立っている。

赤ちゃんを捨てきれない母親ソヨンと児童養護施設からついてきてしまった男の子。

この二人も対照的。ソヨンの変化は圧倒的。そして男の子がとってもいい。子役を配する是枝監督の巧さ。

さらに、二人組の刑事。ペ・ドゥナイ・ジュヨン

対照的な2人組がくっついたり離れたりしながら、時に4人になって対話を繰り返していく。

ペ・ドゥナ・・・『空気人形』(2009)は是枝作品。『リンダリンダリンダ』(2005)

忘れらない役者。画像8

 

ロードムービーだから、ボロ車の外の風景が次々と変わっていくように、6人の心理が微妙に変化していく。

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この変化を愉しむのがこの映画のだいご味だ。

唸りながら見た。

どうやってつくったんだろう?

まずソン・ガンホについて是枝はこんなふうに語っている。

 

撮影が始まる前にポン・ジュノ監督と一度ごはんを食べに行った時に言われたのは、「これからクランクインで色々心配があると思うけれども、多分、いま監督が感じてる心配は、全てソン・ガンホさんが登場したら良い意味で嵐のように全部払拭(ふっしょく)されるので何の心配もいらないと思う」って言われてその通りでした。

 

ソン・ガンホの印象については

 

軽やか。とにかく軽やかで。1番の持ち味ですね。彼のね。

あと、全テイク違うんですよね。飽きっぽいわけではないと思いますけども、同じことをやりたくないという以上に、全テイクが初めてのように演じられるっていうんですか。普通、初めての感じというのは失われていくものだと思いますけども、彼は重ねても重ねてもワンテイク目に見えるんですよね。それがすごいなと思いますね。決して自分の芝居に慣れないんですよね。相手の芝居にも慣れないっていう。そこじゃないですかね。1番驚いたのはそこでした。

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今まで何本もソン・ガンホの映画を見てきた。自分の芝居に慣れない・・・か。

何でもなることはできるかもしれない。しかし何度も違うものになることは自分を超える想像力と技能がなければできないことだ。

 

テーマについて是枝はつくりながら考えているという。

デイテールをていねいに重ねていった先に見えてくるものがあるようだ。

これについても、次のように語っている。

 

インタビューのなかで、ソン・ガンホさんが今回の映画は命の話だと言っていて、あ、そうか、命の話だったんだなと思った記憶があるので、むしろ出ていらっしゃった役者の側のほうが的確にこの映画をつかんでいたのかもしれないと思ったのは正直なところ、「あ、命なのか」っていうことが発見されたときが、一番この映画が自分のものになるときで、それがなかなか見つからないときもありますが、見つかってもつまらないときもあるし、え、そんなことだったかなということもあるんですけど、でもそのプロセスが一番面白い。今回は、そうだと思います。

 

是枝監督のこういうところが私には文学的に見えてかつ魅力的なところ。

自分の枠に映画を埋め込んでいくのではなく、自分の枠を壊しながらある「まとまり」をつくり出していく。

 

おもしろかった。画像13