大晦日である。
天気予報は快晴。
なのに、散歩の間はほとんど日が差さなかった。
東の空に黒い雲の塊があって、太陽の軌道をそっくり覆っているようだった。
ここ数日、二人とも双眼鏡をもって歩いている。
『泥人魚』で結構な時間覗いていたせいか、億劫な感じが少し減ぜられたらしい。
体長10センチに満たないカワセミを双眼鏡で見つけるのは簡単ではない。
今日で3日前になるが、僥倖というのはあるものだ。
いつも挨拶をする滝田さんによると、
「今朝は行ったり来たりしている」という。
すれ違って少し歩くとたしかに。
まず1羽。
ようやく双眼鏡の視程に入った瞬間、きらきら光る小魚を口にしたカワセミが目に飛び込んできた。
小魚は瞬く間に口の中に吸い込まれていくのだが、その時間がいつもに比べて長く感じられた。スローモーションとまではいわないが、遠くで見ているのと近くで見るのとでは情報の量が違うのだろう。情報が多い分、時間はゆっくり過ぎていく。
10㍍ほどの距離が2,3㍍に。青と茶色の鮮やかな羽の色。頬の白さ、くちばしの長さ。
上流からもう1羽やってくる。30㎝ほどのところに並んで留まる。
と思うと、2羽が飛び上がり、空中でくちばしをつつき合う。
はじめて見る光景。
けんかなのか男女の交歓なのか。
宮本さんが通りかかる。
「あそこ」
と言い終わらないうちに宮本さんは超望遠レンズをのぞき込み、立て続けにシャッターを切っている。立て続け?いやいやシャッターは一度だけ。連写。
すぐに画像を見せてくれる。ファインダーいっぱいにカワセミの姿が映っている。
「これはオスだな」
メスは成長するにつれて顎の下が赤くなるという。
ということは、縄張り争いだったのか。
それからも何度も行き来するのを目にした。
大晦日の目の保養、大サービス。
昼過ぎ、足りないものがあるというので、一人でスーパーへ。
10時過ぎには日が差したが、空はまた曇天。空気はやけに冷たい。
一瞬、白いものが目の前を舞う。
初雪。
スーパーの陳列棚は見事に空っぽ。
なんだか3・11直後のことを思い出す。
午前中は大変な人出だったのだろう。
残っているのは乾物だけ。酢は確保。
サトイモは冷凍のものを買う。
たけのこの水煮も。
サトイモは今が旬だが、たけのこは新物が出るまであと2,3か月かかる。
レジは長蛇の列かと思ったが、待つことなく済む。
大晦日の買い物納め。
最近、読み終えた本のことを書かない。
書名と1,2行の感想くらいかいておこうと思うのだが、次の本を手にとると前に読んだ本のことは忘れてしまう。
思い出したころには、「はて、どうだったっけ?」である。
来年は「署名だけでも」路線で行こうと思う。
海堂尊の
『コロナ黙示録』(2020年7月宝島社刊・1760円)
『コロナ狂騒録』(2021年9月宝島社刊・1760円)
面白かった。ほとんど同時進行のコロナ禍をそのまま追いかけていく。
登場するのは、『チームバチスタの栄光』の面々。田口先生の登場は久しぶりだ。
田口は、東城大学医学部付属病院神経内科学教室の講師。通称「愚痴外来」は不定愁訴専門の外来で田口の「ぐち」とかけている絶妙の命名。
厚生労働省大臣官房秘書課付技官 .白鳥圭輔はじめいつものメンバーに、安倍、菅、小池、昭恵、籠池、尾身などがほぼそのまま登場する。
徹底した調査と取材と。自分の視点を保持したうえで展開する饒舌極まりないコロナ講談?
この作家のもつ批評性とユーモアに脱帽。
「コロナ」という接頭語がついたものに
奥田英朗の『コロナと潜水服』(2020年12月光文社刊・1650円)
短編小説集。
どれもコロナの影響を受けた登場人物たちが自在に動き回る。これもまた作家の別の形の批評性が光る。表題作と「海の家」「ファイトクラブ」が笑えた。
奥田英朗は『罪の轍』などの「硬」のものもいいが、こういうやわらかめも面白い。
もう1冊。
畠山理仁の『コロナ時代の選挙漫遊記』(2021年10月・集英社刊・1760円)
コロナ禍によって変容せざるをえなかった選挙ウオッチング。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』の著者。
風評とは全く違うスーパークレイジー君の話が面白かったが、全体にはやや突っ込み不足の感有り。