『草の響き』すとんと腑に落ちて「よかったな」と思う映画

今朝は冷え込んだ。日本海側では北陸から山陰にかけてかなりの積雪。

深夜に3℃だった気温は、明け方に0℃近くまで下がり、夜明け前に-0.4℃まで下がった。境川の小さなよどみも氷が薄く張っていた。

日の出は鶴間公園で。

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映画備忘録。12月22日。kiki。

『草の響き』( 2021年製作/116分/PG12/日本/原作:佐藤泰志/脚本:加瀬仁美/監督:斎藤久志/出演:東出昌大 奈緒 大東駿介/公開:2021年10月)

 

 

理由はよくわからないが、すとんと腑に落ちて「よかったな」と思う映画がある。

『草の響き』はそんな映画だ。

褒めるところはたくさんある。

脚本がいい。

原作を読むと脚本の良さがよくわかる。

小説ならば原作のままでいいけれど、映画にしようとすると思い切った脚色が必要になる。原作の空気を十分に生かしながら、原作に登場しない人物を造形深く描き出している。不思議なのは、脚本から登場した人物と原作の中の人物がうまくかみ合っていることだ。

ここは監督の手腕かなと思う。

函館を背景に斎藤監督が描いたのは、東出が演じる工藤和雄の中に広がる不思議な精神の光景だ(工藤という名前も原作には出てこないが)。

一見華やかな役者である東出を、そのままの状態で使わずに、内へ内へと向かう心理を力まずに自然に観る者に提示してくれた。メンタルを病む人の心の動きがとっても自然なので刺さってくるものがあった。

 

原作にない和雄の妻純子を演じた奈緒もよかった。純子は原作には出てこないし、原作では一雄は結婚もしていない。

奈緒は『君は永遠にそいつらより若い』での不思議な魅力のある女性を演じたが、演技の幅のある俳優のようだ。

ふたりのからみには演出の力を感じた。画像10

 

 

カメラも独特のテンポ感があって、もうちょっと見せてよというところがいくつも。行間を読ませるところがいい。これは編集の妙なのだろうか。

 

と、褒めるところはたくさんあるのだが、気に入ったところは、さほどのドラマも起こらず(普通の人生にありがちなドラマはいくつか起きるのだが)、和雄のランニングを淡々と追いながら、ああ、人はこういうふうに生きているんだなと納得させられるところだ。

人生は、積み木を一つひとつ積み上げていくようなものではなく、ばらばらに放り出された積み木の一つひとつを手にとって、その形や色を確かめながら、別の積み木の横に置いてみるよう、かといってそうしたとしても、それが何か特別な輝きやたかみをめざしているわけでもなく・・・。

佐藤泰志原作の映画化はこれが5作目。画像2

 

どれもいいのは、原作がつくり手の奥深くを揺さぶるものがあるからだろう。

日本だけでなく外国の人たちに見てもらいたい映画だ。