クライネスコンツエルトハウス弦楽アンサンブル・クリスマスコンサート 久しぶりのナマのせいか弓と弦の摩擦が心地よく、弦楽合奏を存分に楽しんだ。

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コンサート覚え書き。12月21日。

2021年の最後の授業(オンライン)が、夕方に終わった。半期15回のうち14回が終わったのだが、対面ならば大学まで往復3時間かかる。部屋からの授業でも授業は90分。終わった後の疲労感が違う。オンラインならお手軽で疲れも少ないように思うが実は違う。対面には解放感があるが、後者には鈍痛のような疲労感が残る。

終わればつい酒に手が伸びるのだが、この日はコンサート。それも会場はフィリアホール。バスと電車がうまくつながりさえすれば30分ほどで行ける我が家から最もアクセスのいい会場だ。うきうきして今夜も二人でかける。

主催は愉音。午前と午後に2回、「0歳からのバリアフリーコンサート&音楽遊びの会」を開催。私たちが聴くのは18時からの大人向け?のコンサート。

ロビーで元同僚二人に会う。二人とも夫妻での鑑賞。暫し、近況を交換する。

 

今回の目玉は「クライネス・コンツエルトハウス」。総勢19名の弦楽奏者、第一ヴァイオリン3名、第二ヴァイオリン4名、ヴィオラ4名、チェロ4名、コントラバス2名に松本紘佳が加わった計20名の弦楽アンサンブル。小ぶりのフィリアホールを鳴らすのにはちょうどいい規模。もう何年か前になるが、ここで新イタリア合奏団を聴いたことがあるが、それより少し大きい編成。

7月にここで聴いた原田幸一郎さんの弦楽四重奏に参加していて印象の強かったヴィオラの長谷川弥生さんも構成員のひとり。レベルの高さがわかる。

 

いつものように、NHKの「ラジオ深夜便」や「音楽の泉」で解説をしている奥田佳道さんのお話。開演時間より少し早く始まるのだが、ここ数回続いていて定番となっている。

 

最初に小品『カノン』。私の耳には『パッヘルベルのカノン』として聴きなれたスタンダードナンバーなのだが、解説を読むと

「・・・フーガの1世代前であるカノンは、作曲技法の厳格さではフーガの比ではなく、1音たりとも自由が許されず、組み上がっていなくてはなりません。この曲は、2小節の絶妙な低音ラインを28回繰り返すその上に載せられた三声のカノンで、バッハ以前の時代の職人技の傑作」だとのこと。

パッヘルベルは(1653ー1706)だから、バッハのほぼ30~50年ほど前に活躍した作曲家。私の耳にはバッハのフーガ、例えば「フーガの技法」などのほうが、このカノンより、迷路のような複雑な建築物のように聴こえるのだが。

 

ついこの間、神奈川フィルの弦の音にやられたが、またまた鳥肌が立つ。ナマはいい。コントラバスの音がくぐもらずしっかり聴こえてくる。

 

指揮は創設者の小澤洋介氏。

チェロと弓を左手に持っての指揮。ほとんど演奏はしないのだが、このスタイルが身についてるのだろう。

 

浄められた夜 作品4』(シェーンベルグ

曲名は何度も聴いているのに、最後まで、それもナマで聴いたのは初めて。19世紀の終わり1899年に「古い時代の名残を色濃く残し、後期ロマン派の最期の大輪の花ともいえる作品」と解説にはあるが、私には現代音楽のさきがけのように感じられた。無調を背景に、聴衆が求める着地点を拒否し、それまでの西洋音楽ドラマツルギーのようなもの無視して、近代の人間の複雑な感情表現に近づこうとしているように感じられた。

聴いていて何度も期待を裏切られる。私の古い耳の落としどころに落ちてくれない。リヒャルト・デーメルの詩「浄夜」にインスパイアされて書かれた曲とのことだが、プログラムの挿入されたこの詩を読んでも、正直なかなか音楽と結びつかない。

 

『弦楽セレナーデ 作品48』(チャイコフスキー

この曲もよく知られた曲。いままで小澤征爾の演奏で数えきれないほど聴いてきた。今日一番の楽しみの曲。

冒頭の合奏にぞくっとする。休憩をはさんだせいか弦の響きがさっきまでより良く響いてくるような気がした。ドラマティックな第1楽章はもちろんだが、第2楽章のワルツ、第3楽章のエレジー、第四楽章のフィナーレと緩急自由自在の息をつかせない絶妙な構成。「…徹頭徹尾チャイコフスキーの手練れの技による極彩色のロシアのお伽噺」(解説)

変な言い方だが、久しぶりのナマのせいか弓と弦の摩擦が心地よく、弦楽合奏を思う存分楽しんだ。

 

ソリストにヴァイオリンの松本紘佳とクラリネットのタラス・デムスチンを迎えてクリスマスぽい3曲。

バッハ作曲/ヴィルヘルミ・徳備泰純編曲『G線上のアリア

4つあるバッハの管弦楽組曲3番の第2曲の「アリア」。これだけを取り出して「G線上のアリア」と称される。

G線だけを使っての息詰まるような演奏。聴かせる。

バッハ作曲/グノー・徳備泰純編曲『アヴェ・マリア

私はこの曲を『グノーのアヴェ・マリア』と覚えていて、当然にもグノーという人が作曲した『アヴェ・マリア』だと思い込んでいた。素人の浅はかさ。

調べてみたら、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻前奏曲第1番ハ長調を伴奏に、19世紀フランスの作曲家グノーがつくったもの。クラリネットとヴァイオリンのバランスが絶妙なのは、会場に来ていた徳備泰泉さんの技だろう。

 

クリスマスの定番

グルーバー作曲/徳備泰純編曲『きよしこの夜』。

聴きなれた曲だが、手練れが集まって演奏すると全く違う曲に聴こえる。

 

最後にモーツアルトの『おもちゃの交響曲

こちらは、午前、午後の「0歳からのバリアフリーコンサート」で喜ばれたものだろうと思うが、大人がおもちゃを楽器にして演奏する姿は意外に楽しいもの。

 

演奏が終わって駅までの100㍍ほどの木製の通路を歩いていると12月の冷気が迫ってくるが、気がつけば鈍痛のような疲労感はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。

 

ネヴィル・マリナー指揮

ストコフスキーの『浄められた夜

 

小澤征爾の弦楽セレナーデ(サイトウキネンオーケストラ)

高木凛々子(ヴァイオリン)G線だけを使って弾いているのがよくわかる。