『のさりの島』素晴らし素材がふんだんに各所に配されているのに、みな遠景として語られ、絡み合わない。面白みに欠ける。

映画備忘録。12月1日。kiki。

『のさりの島』(2020年製作/129分/G/日本/脚本・監督:山本起也/出演:藤原季節 原千佐子ほか/2021年5月29日公開)

 

藤原季節が出た映画、調べてみたら『止められるか、俺たちを』(2018年)『ハードコア』(2018年)『長いお別れ』(2019年)『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)『明日の食卓』(2021年)『くれなずめ』(2021年)『空白』(2021年)、これだけあった。少しずつ「気になる役者」になってきた。

今回初主役。

映画は、

熊本県天草を舞台にオレオレ詐欺の若者と老女の奇妙な生活を描いたドラマ。熊本県天草の寂れた商店街にオレオレ詐欺の旅を続ける若い男が流れ着いた。老女の艶子は、その男を孫の将太として招き入れ、艶子のあたたかい対応に若い男はいつの間にか艶子と奇妙な共同生活を送り、将太としての嘘の時間に居場所を見つけていく。地元FM局のパーソナリティを務める清らは、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画し、将太も上映会の企画チームのメンバーにされてしまう。かつての賑わいのあった頃の天草・銀天街の痕跡を探す中、艶子の持っていた古い家族アルバムに、将太は一枚の写真を見つける。若者役を藤原季節、老女役を本作が遺作となった原知佐子がそれぞれ演じる。監督は「カミハテ商店」の山本起也、「おくりびと」脚本で知られる小山薫堂がプロデューサーを務めた。(映画ドットコムから)

 

という映画だが、正直、冗長、冗漫と感じた。画像1

オレオレ詐欺の若者である将太を演じる藤原季節が生きていない。オレオレ詐欺は前半20分ぐらいで、あとは天草のご当地映画。

さびれた商店街銀天街の賑わいを呼び戻そうとする若者たちの話。

そこに、原千佐子演じる楽器店店主艶子と将太の物語をかぶせているのだが、成功していない。

孫の将太はすでに亡くなっているのだが、艶子は仏壇の写真を隠してオレオレ詐欺の若者を将太として受け入れる。

 

この必然性が、ない。なにやら艶子に深謀遠慮があるかに見えるのだが、これも大したものはない。

脚本が、ご当地に引っ張られていて、オレオレ詐欺の藤原が天草の土地と人の中で化学変化を起こしていく過程が、やわ過ぎて面白みに欠ける。藤原がもつ荒々しさと裏腹の繊細さを、脚本と演出が生かし切れていないと思う。もったいない。

 

なのに、この映画を最後まで見られたのにはいくつかの要素がある。

まず、原千佐子の演技。80歳を超えた老女を演じる原。リズムというかセリフの間は絶妙。随所に長年のキャリアと才能を感じさせるが、将太に肩をもんでもらいながら天草の古謡をうたうシーンは、長年テレビや映画で活躍してきた役者の、最後の凄みを感じさせる。その原の前では「将太」はじめこそ荒々しさを見せるも、一面的な従順な若者像に落とし込まれてしまっている。残念。もっと絡んでもよかったと思う。

 

「将太」は艶子との関係ばかりがフレームアップされ、地元のほかの若者との絡みがつくれていない。「将太」のもつ背景が全く見えてこないのも「将太」像の深みのなさとなってしまっている。画像3

 

原はこの映画を撮った後2020年1月に亡くなっている。1955年がデビューというから65年に及ぶキャリア。忘れられない演技になると思う。

 

もう一つ、銀天街ブルースハープを奏でる少女役で出演している小倉綾乃。

彼女のブルースハープがバックに流れるだけで映画は救われている。とりわけ、天草の大火のフィルムを上映する段になって「音がない」ことに気づく若者たちが選んだのが、イルカウオッチングの受け付けをしている少女のブルースハープ。すさまじい大火のシーンにこの演奏を合わせるセンスに驚かされた。閑散とした夜の銀天街で演奏する姿も格好いい。

まだ若いプレーヤーなのにむせび泣くような渋い演奏。youtubeにもいくつも演奏が出ているが、この映画の演奏が一番よかった。

 

もう一つは、柄本明演じる天草のかかしづくりの話。

演技はいつもながら素晴らしいのだが、それ以上につくられかかしのすばらしさ。

画像7

この写真では表しきれない一つひとつのかかしの生き生きした表情が印象に強く残っている。ここで語られるエピソードもいい。

 

それと、地元ラジオ局のパーソナリティを務める杉原亜実。閑散とした街に流れる彼女の声で語られる石牟礼道子の文章もいい。

 

小さな映画館で働く若者。印象的なのだが、ストーリーに絡んでこない。

映画館も雰囲気がある。

 

イルカウオッチングのさなかで、イルカの音を録ろうとするラジオ局のスタッフ。言葉少なだが天草の「音」へ執念を燃やすところが垣間見えてよかった。

 

これだけ素晴らしい素材がたくさんあるのだが、これが交差しない。みな程よく遠景となってしまって、ぶつかり合わない。

 

申し訳ないが「長いなあ」と何度か思ってしまった。