『スーパー30アーナンド先生の教室』街角での英語劇。単に英語を学ぶのが大事というのではなく、自分たちには自分たちの英語があるという主張がそのシーンを支えている。

映画備忘録

11月16日(水)

『スーパー30アーナンド先生の教室』(2019年製作/154分/G/インド/原題:Super 30/監督:ビカース・バハル/出演:リティク・ローシャン他/日本公開2022年9月23日)

 

貧しい家庭に生まれたアーナンドは数学の才能を認められ、イギリス留学のチャンスを得る。しかし家計からその費用は出せず、当てにしていた援助も断られ、いつも励ましてくれた父も心臓発作で他界。留学を断念し、町の物売りとして暮らしていた彼は、予備校を経営するラッランに見いだされて人気講師となる。やがてアーナンドは路上で勉強する貧しい若者との出会いをきっかけに、私財を投げうって私塾「スーパー30」を開設。意欲と能力がありながらも貧困で学ぶことができない子どもたち30人を選抜して無償で寮と食事を与え、最高学府・インド工科大学を目指して数学と物理を教え始める。教育をビジネスとしか考えないラッランに妨害されながらも、アーナンドは型破りな教育で生徒たちを導いていく。        (映画度ドットコムから)

 

実話をもとにした娯楽作品。どこまでが実話でどこがフィクションかはわからないが、最後まで面白く見た。ただ154分は少し長すぎる。

日本でも「ドラゴン桜」とか「ビリギャル」とか、成績の良くない生徒を鍛えて難関合格という物語はあるが、困窮しているが能力的に高い生徒を集めて鍛えるという映画やドラマは見聞きしたことがない。

親ガチャという言葉が昨年流行した。また東大生の親の年収が他大生と比べて高いといった数字などから、家庭的なインフラが高い、あるいは充実している子どもは、能力的にも高く、将来の人生設計も豊かになるといったことが巷間語られるようになったのはこの20年ほど。

高校の学費援助や奨学金の充実などで、困窮している家庭の子どもたちが同じスタートラインに立てるような社会的インフラづくりが進められているが、インフラの中身は経済的な問題だけでないことから、学びの不平等性はこの国では依然大きな問題である。画像4

映画は、ゴミを拾って生活する子どもなどインドの最底辺で生活する子どもたちを30人集めて世界でも最難関の部類に入るIITに入れるため、公的な援助をもらわずに勉強させ、結果を残しているアーナンドさんの物語。

彼の思惑や計画に対し、さまざまな妨害がしかけられ、それを一つひとつ乗り越えていくのがこの映画の肝。インド映画らしいリズミカルでテンポの速い展開、歌やダンスも自然に取り入れられている。

 

ややつくりものっぽいが、一番の盛り上がりは、街角での英語劇のシーン。金持ちの子どもたちはみな小さい頃から英語を学ぶ。インドでは世界に出ていくときの必需品が英語。スーパー30の子どもたちは、能力は高いが英語は身についていない。アーナンド先生は、彼らに気持ちで負けずに英語を堂々と話せるようにと、街角で英語劇をするよう指示する。

このシーンはまさにミュージカル。はじめはおどおどしながら話す英語を観客はバカにするが、いつしか現地語を交えた英語を堂々と歌い踊る子どもたちに共感しいっしょに歌い踊る。フィクションだと思うが、いいシーンだ。単に英語を学ぶのが大事というのではなく、自分たちには自分たちの英語があるという主張がそのシーンを支えている。

 

アーナンドさんは、この映画の上映のために来日したというが、いまでもこの塾は続いているそうだ。

 

わからないのは、スーパー30の選抜方法だ。広いインド中からスーパー30を目指してたくさんの子どもたちが集まるようだが、彼らはどんなふうに勉強してきたのか、自分の能力にどう気づいたのか。いわゆる「勉強ができる」レベルではない超の付くレベルの子たちをどんな方法で集め、選抜するのか。

 

いつものことが、インドの街のようすや生活のたたずまいが見えて面白かった。画像9