『ある戦争』(デンマーク・2016年)これも一つのアフガン。

台風14号が和歌山に上陸。

夜半に雨の音がやけにうるさいのでテラス窓を閉めた。ほんの少しだが部屋の温度が上がる。上掛けをはねのける。トイレに立つ。いったん目を覚ますとすぐには眠れない。本を読む。暫くして眠れそうかなと思い目をつぶる。この間30分から1時間。やっぱり眠れないぞと思っているうちに1時間半ほど眠る。この眠りが一番深い。

朝食を摂っている間ずっと降っていた雨が、6時半ごろ小止みになる。

傘をさせば散歩には出られそうだ。ひどくなったら引き返す、というMさんもついてくる。私は初志貫徹!というと鼻で笑われる。

 

気温は23℃。少し蒸し暑い。境川河畔の散歩者はなく、遊歩道は閑散としている。

いつもは静かな境川が、増水して濁流となっている。水底の形でところどころが奔流となる。そして響かせる水の轟音。つい聞き入ってしまう。

 

きのう午後、1年半ぶりに友人のMさんが奥さんを伴って来訪。奥さんとは30年ぶりになる。

久しぶりにおしゃべりに興ずる。もちろんお酒抜き、マスク付き。

楽しい時間だった。

 

ミャンマーアフガニスタンのことが気になる。新聞の切り抜きが増える。

韓国はじめ各国は在アフガンの自国民や協力者を国外、あるいは自国へと避難させることができたが、日本は政府・外務省と自衛隊との連携がうまくいかず、まだ数百人の人々がカブール周辺に残っているはずだ。なぜか外交上の失策が焦点化されない。

 

8月15日にタリバンが政権を掌握してから1か月。新聞やテレビの報道を見ているだけでは現地の実際が見えてこない。政権の発表と市民からの情報にずれがある。東京新聞バンコクの岩崎健太朗さんという記者が一人で気を吐いている。

 

「治安は改善されていると伝えられるが、街中には銃を携えた戦闘員がものものしく警戒。外出や食料や薬の改題紙など最小限にとどめ、スマホは持ち歩かない。」(政府関係の仕事についていた男性への電話取材)

 

暫定政権は表向き「包括的な政府を樹立」としているが、実際は旧来の幹部が政権中枢を独占、「恩赦を与え報復はしない」としながら前政権関係者は追跡、拘束、拷問が続いているという。

女性の権利についても、イスラム法の範疇で「権利は認められる」としているが、「女性にスポーツは必要ない。外出は必要なときだけ。高官に登用はしない」。

表現の自由は守られるとしているが、AFP通信などによると8日、でも取材中の地元紙記者二人が拘束され、4時間にわたって鞭や棒で打たれたという。記者が「なぜ殴られるのか」と問うと、「首をはねられないだけましだ」。

 

中国、ロシアなどが暫定政権を支援している。ミャンマーの軍事政権に対しても同様。

EUは難民の流入を恐れ、周辺国はピリピリしている。

日本に関わっては数人のアフガン人協力者が避難したという報道はあるが、カブール周辺の取り残されている人たちについての報道が少なくなっている。そんな生活をしているのか。空港までたどり着ければ飛行機に乗れたというが、途中タリバン兵の検閲が幾重にもあって通過できないという。

 

20年に及ぶアメリカを中心とする多国籍軍から成るISAF国際治安支援部隊の駐留によってつくられたもの、失ったもの。

支援物資は武器も含めて大量にタリバンやISに流れていった。国連軍や米軍は自ら手渡した武器によって攻撃され、2000人の若者が亡くなった。

在日のアフガン人やミャンマー人らは日本国内で民主化を求めてさまざまなアピールを行っている。彼らを通じた現地の人々への支援はどんなかたちできるのか。

総裁選挙一色の自民党、これが終われば衆議院選挙。マスコミもひどい。これほどの尺を使って政権党の総裁選びを報道するものだろうか。内政も外交もそれどころではないのに菅首相は外遊するのだという。

コロナの行動規制緩和の基準や実験ばかりが先行的に報道される。搬送されずに自宅で亡くなっていく人たちへ政治の視線は極めて弱い。

感染者の数は目に見えて毎日減っているかに見えるが、検査数が抑えられているのではないか。

東京都では10万人の検査のポテンシャルがあるというが実際にはその10分の一程度の検査しかなされていないという話だ。

感染者数が恣意的に操作されているとしたら、行動規制緩和はさらに甚大な第6波を招きかねないということだ。

菅首相よ、コロナ対策に専念してくれ。外遊している場合じゃないぞ。

 

Mさんたちが帰ってから何の気なしに一本の映画をみた。Amazonプライムビデオ。

 

『ある戦争』(2015年製作/115分/G/デンマーク原題:Krigen(デンマーク語で”戦争”)/監督:トビアス・リンホルム/出演:ピルウ・アスベック ツバ・ノボトニー/日本公開2016年10月/第88回(2016)アカデミー賞外国映画賞ノミネート)

監督のトビアス・リンホルムは、未見だが、現在公開中の『アナザーラウンド』の脚本を担当した人。

素晴らしい映画だった。

 

デンマークの映画は印象の強いものが多い。

ここ数年で見たものでも

『ザ・ギルティ』(2019)

ヒトラーの忘れ物』(2016)

『ボーダー二つの世界』(2019)

ザ・スクエア 思いやりの実践」(2018)

『好きにならずにいられない』(2016)

『私の叔父さん』(2019)

サーミの血』(2017)

『特捜部Qキジ殺し』(2016)

『特捜部Q Pからのメッセージ』(2017) 

古いものでは、傑作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)がある。

みな派手ではないが、じっくりとつくりこんである。忘れられない映画多い。直近では『私の叔父さん』だが、このブログにも書いたが間違いない秀作。書き出したものすべてほぼ内容を覚えているし、どれも見終わった後にぐっと考えこまされる映画だ。

 

この『ある戦争』は、ISAF国際治安支援部隊)の一員としてアフガニスタンに駐留したデンマーク陸軍の兵士の物語。デンマーク陸軍はタリバン政権崩壊後の2001年から派兵。43名の兵士が亡くなっている。

 

デンマーク兵は150人の部隊でタリバンが襲撃する地区を守り、現地の人々と気脈を通じようと活動するも、あるとき若い兵士が地雷を踏み亡くなってしまう。兵士らは巡視が意味があるのかとリーダーに問う。隊を率いるクラウスは隊内に生じた動揺、意気阻喪した雰囲気を少しでも和らげようと、指揮官自ら巡視に参加する。

ある時、タリバンの襲撃を受け、部下が銃弾で首を貫通する大けがを負う。クラウスは部下を助けるため通信員のヤンセンに対し、敵がいると思われる第6地区に対し空からの攻撃を要請しろと叫ぶも、ヤンセンは攻撃目的地に敵の存在を確認しなければ要請はできないという。クラウスは「敵がいようがいまいが、要請しろ!」。

空からの攻撃によって現地の子どもたちを含む11人が死亡する。遺体は激しく損傷している。敵はそこにはいなかった。

クラウスと隊員は、デンマークからアフガン現地に派遣された法務官によって尋問を受ける。

 

敵地攻撃に関する国際法違反でクラウスは起訴される。

 

カメラのタッチは手持ちカメラが多く、ドキュメンタリー映画をみている感覚。戦闘場面にも気の利いたセリフなどないしジョークもない。それどころか途中に挿入されるのはクラウスの家族の様子。ワンオペで3人の子どもを育てるマリアの焦燥感をカメラはしっかりととらえる。学校で友人関係がうまくいかない長男、薬を誤飲してしまうまだ小さい次男、長女は一番上だが父親の不在が日々の生活に影を落としている。

アフガン現地とは定期的に電話でつながれるが、マリアは「すべてうまく行っている」とクラウスに伝える。

これもまた戦争だということか。

映画の後半は裁判シーン。

法をバックに法務官はクラウスを追い詰める。しかし…。

 

とにかく劇映画らしさはみじんもない。

みているほうも追い詰められる。

 

部下を救うために間違った指示を出し現地人を死に至らしめた罪、最大でも4年間の懲役刑。追いつめる女性法務官と傍聴席のマリアの表情が対比される。

 

マリアはクルマの中で、「過去の子どもたちと今の子どもたちとどっちが大事か」とクラウスにかみつくが、すぐに謝る。このシーンが切ない。

ふたりのやり取りの前には、弁護士と法務官の駆け引きが卑小に見える。

 

現場というのは、ミスも含めてなんでも起こりうるところ。常に「判断」を迫られるからだ。

それを高みから評価して、「正しく」裁く者がいる。

私たちの周りでも同じことがいえる。

私もそうだった。判断が正しいかどうか、その時にはわからないことが多い。とっさの判断の中に普段の積み上げがあるのだが、あとになれば必ずしもそれが正しかったかどうかはわからない。現場にいるからこそ現場だからこそミスをする。それは避けられないことだ。ミスを少しでも抑制し、解決の道筋を探り向かう工夫をするのが現場だと思う。戦争も原発事故も災害もみな同じ。無謬の高みからものを言うな!という思いはすべての現場に共通する。

 

映画は思わぬ結末を迎える。

 

クラウスが子どもたちを寝かしつけるラストシーン。

布団を剝いで出てしまった子どもの足にそっと毛布を掛ける。

 

 

これほどに繊細な人間的な反応を見せるクラウス。

しかし現下のアフガンではアメリカの無人機による誤爆で市民が死んでいく。

当初は誤爆を認めなかったアメリカ。

ようやく認めてもはて責任はどこに?だれが?

無人機を操作している人間は、遠いアメリカの基地で勤務時間が終われば家族のもとへと帰っていくと聞いたことがある。

クラウスとマリアの苦悩など及ぶべくもない。

 

優れた反戦映画だと思った。

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法務官

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クラウス