『親愛なる同志たちへ』現ロシア政府への忖度も感じられないわけではないが、それでも国家と個人の問題を突き詰めた映画だ。

映画の備忘録、記録していない映画が3,4本。

 

6月1日あつぎのえいがかんkiki

『親愛なる同志たちへ』(2020年製作/121分/G/ロシア/原題:Dorogie Tovarischi(ロシア語:親愛なる同志/監督・アンドレイ・コンチャロフスキー/出演:ユリア・ビソツカヤほか/日本公開2022年4月8日

 

1962年6月1日、ウクライナ国境近くのソ連南西部【ノボチェルカッスク】の機関車工場でストライキが勃発した。「雪どけ」とも称されたフルシチョフが目指した豊かな共産主義統治にも陰りが見え始め、困窮にあえぐ労働者たちが物価の高騰や給与カットに抗議の意思を示したのだ。社会主義国家で大規模なストライキが起こったことに危機感を覚えた政権は、スト鎮静化と情報遮断のために最高幹部を現地に派遣、翌日には約5000人の市民への銃撃を開始した。熱心な共産党員で市政委員も務めるリューダは、18歳の愛娘スヴェッカの身を案じ、凄まじい群衆パニックが巻き起こった広場を駆けずり回る。三つ編みに青いリボン…スヴェッカはどこにいるのか、すでに銃撃の犠牲者となって“処分”されてしまったのか。長らく忠誠を誓ってきた共産党への疑念に揺れるリューダが、必死の捜索の果てにたどり着いた真実とは……。

 

労働者の抵抗を共産主義体制側、地方の市政委員会の人々、その一人リューダの視点から描いている。

上から下まで無責任な官僚制の実態が余すところなく暴かれる。

 

食糧も不足し、人心の不安定な社会に、リューダは「スターリンのころが良かった」という。そのスターリンウクライナに加えた仕打ちは?リューダの父親は誇り高きコサックの一員・・・。

 

そんなリューダだが、労働者の側に立ってささやかな抵抗を試みる娘の行方不明が彼女の核心を揺るがせていく。

 

謎のように消えてしまった娘、コサック時代の制服を深夜に着る父親、さらに親切な秘密警察KGBの男性の登場。

 

ソ連という国の混乱と宿痾が浮き彫りになる構成。

 

映画はモノクロでリアル、1962年という時代をしっかり切り取っていて引き込まれた。

現ロシア政府への忖度も感じられないわけではないが、それでも国家と個人の問題を突き詰めた映画だ。「親愛なる同志たちへ」とは悲しいほどにシニカル。生きることの基盤を疑わざるを得ない親愛なる同志たちへ

リューダを演じたユリア・ビソツカヤの視線の強さが印象強い。