広島、旧陸軍中国軍管部輜重兵補充部隊跡の被爆遺構が見つかった問題、広島市は十分に検討せずに切り取り保存方針、反対する市民団体が抗議とともに緊急申し入れ。

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広島市のサッカースタジアム建設予定地に旧陸軍中国軍管部輜重兵補充部隊跡の被爆遺構が見つかった問題、今まで何度か触れてきたが、相変わらず広島市の動きは鈍いようだ。

以下、関係団体が市に対して提出した緊急申し入れ。前文を読むとこの間の市の対応の感度の低さがよくわかる。

 

 

 広島市長 松井一實様             2021年(令和3年)8月24日  

 

             箕牧 智之(広島県原爆被害者団体協議会理事長代行)

             佐久間邦彦(広島県原爆被爆者団体協議会理事長)

             李  鐘根(韓国原爆被害者対策特別委員会委員長)

             金  鎮湖(広島県朝鮮人被爆者協議会理事長)

             中谷 悦子(広島県労働組合会議・被爆者団体連絡協議会

                  事務局長)

             田中 聰司(広島被爆者団体連絡会議事務局長)

             金子 哲夫(原水爆禁止広島県協議会代表委員)

             土屋 時子(広島文学資料保全の会代表)

             多賀 俊介(広島平和記念公園被爆遺構の保存を促進する会

                   世話人代表)

             石丸 紀興(広島諸事・地域再生研究所代表)

             鈴木 康之(県立広島大教授・日本考古学協会会員)

 

        被爆遺構の切り取り方針についての緊急申し入れ

 

 市民生活の向上と核兵器廃絶・平和行政の推進に日々、努められ、敬意を表します。

 さて、広島市中央公園のサッカースタジアム建設予定地で出土した旧陸軍施設の被爆遺構について、市は一部を切り取って移設保存し、残りの遺構は撤去する方針を発表されました。保存方法などについて、広く市民の意見、専門家の評価を得て決めるよう、       多くの団体、被爆者などが繰り返し要望してきましたが、きちんとした回答がないまま決定されたことは極めて遺憾です。

 日本考古学協会も「学術上、極めて重要な遺構」として要望した現地保存・計画の見直しなどが顧みられず「慎重な検討とかけ離れた拙速な方針決定」との見解を発表しました。さらに私たちが重視するのは、切り取り方針が市文化財審議会にも正式に諮られず、10人の委員の7人が意見を聞かれたが、埋蔵文化財専門家を含む複数の委員が、市の認識と検討が不十分と指摘していることです。決定プロセスが強引と言わざるを得ません。

さらに注目すべきは、この遺構の希少価値を指摘する声が日々、高まっていることです。藤野次史広島大名誉教授(考古学者)は「厩舎などの大規模な施設の遺存状態は『極めて良好』で全国にも現存例がほとんどない」として遺構の上にスタジアムを建てるなどの両立工法を提案(8月21日付中国新聞「オピニオン」欄)。軍都広島の姿を解明できる第一級の歴史資料、「国史跡級」の戦争遺跡などの評価が相次いでいます。記録保存や切り取り・移築・保存は実質的な破壊であり保存とはいえないとして、遺構群の全面的な保存・活用とスタジアム建設の両立策を望む声も高まっています。

手順にも方針内容にも再考の余地があることが明らかになりました。従いまして私たちは、あらためて下記の通り、要望致します。誠意を持って市長様名で文書による回答をいただきますようお願いします。それまでは、切り取り作業を停止してください。

よりよい結論を導き出すために、耳を貸してください。少々の時間がかかっても、サッカースタジアムの建設が市民の合意で進められ、併せて、人類の遺産になる被爆都市の新たなゾーンを創り出せるよう、最善を尽くしたいと思います。「急がば回れ」の度量ある判断をされますよう、切望致します。  

               ― 記 ―

1.切り取り方針の説明会を

 発掘調査の現地説明会と報告会(記録保存中心)は駆け足で行われたが、「切り取り」についての公開説明がない。切り取り部分の範囲(広さ)、内容、評価、保存方法などについて、外部の専門家、市民などに説明し、意見を聞く場を設けていただきたい。

2.切り取り方針の再検討を

◇切り取り・移設保存部分は発掘調査面積のわずか0,4パーセントにすぎない。遺構の  スケール感は味わえなくなる。方針の再検討をしていただきたい。

◇藤野提案(8月21日付中国新聞「オピニオン」欄)のように、遺構の上に大規模施設を造った例は国内外にある。遺構群の全面的な保存・活用とスタジアム建設が両立する方策の検討を始めていただきたい。

広島城一帯の旧軍関係遺跡を結ぶ構想(戦争遺跡公園)、旧陸軍被服支廠(南区)などと一体的に整備する構想、世界遺産登録などを念頭に、判断していただきたい。

 

3.立て看板(発掘調査現場)の表現見直しを

 「総じて遺構の残存状態は良くない」の説明は、科学的根拠に乏しく、誤解(軽視など)を生む恐れがある。この表現を消去(修正)していただきたい。

 

4.幅広い分野の声を(1,2について)

◇市民、被爆者などの意見を聞く公聴会パブリックコメント事業などの実施を。

文化財審議会委員に近代史、戦争史、戦争遺構などの専門家がいない。被爆都市の在り方を問う都市計画分野の専門家も加えて、広く、知見・評価を収集してほしい。

 

5.文化財審議会の開催を

 市は、切り取り方針とそれをめぐる様々な見解を同審議会に諮問し、公開の場で熟議していただきたい。少なくとも、審議内容の骨子を随時、公表してほしい。

 

6.発掘調査作業の休止を

  上記の項目が実施されるまで、作業を一時停止していただきたい。

 

 

 

現地は広島城西側の中央公園広場。爆心から1㎞以内。400人が被爆死したという。遺構からは兵舎の建物の基礎や水路、厩舎の跡が見つかっている。厩舎周辺からは馬の蹄鉄や骨なども見つかっている。