映画備忘録。
『ひとよ』(2019年製作/123分/日本/原作:桑原裕子/監督:白石和彌/出演:田中裕子 佐藤健 鈴木亮平 松岡茉優 音尾琢真 筒井真理子 韓英恵 MEGUMI/2019年11月公開 400円)
女優で劇作家、演出家の桑原裕子が主宰する「劇団KAKUTA」が2011年に初演した舞台を佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子の出演、「孤狼の血」の白石和彌監督のメガホンで映画化。タクシー会社を営む稲村家の母こはるが、愛した夫を殺害した。最愛の3人の子どもたちの幸せのためと信じての犯行だった。こはるは子どもたちに15年後の再会を誓い、家を去った。運命を大きく狂わされた次男・雄二、長男・大樹、長女・園子、残された3人の兄妹は、事件のあったあの晩から、心に抱えた傷を隠しながら人生を歩んでいた。そして15年の月日が流れ、3人のもとに母こはるが帰ってきた。次男役を佐藤、長男役を鈴木、長女役を松岡、母親役を田中がそれぞれ演じるほか、佐々木蔵之介、音尾琢真、筒井真理子らが脇を固める。(映画ドットコムから)
去年、うまく時間が合わなくてもられなかった作品。
2時間あまり、最後までさほど飽きずに見られた。白井和彌のスピード感のあるまとめ方によるものだと思う。『孤狼の血』(2018)『凶悪』(2013)『凪待ち』(2019)『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)の流れ。
『止められるか俺たちを』(2018)『日本で一番悪いやつら』(2016)『サニー32』(2018)の3つは印象がよくない。それでもこんなに見ている。見たくなる監督。
しかし、中身がスカスカに感じられるのはどうしてだ。
父親のDVの理由がいまいちわからない。
父親はタクシー会社を経営しているが、この夫をひき殺してしまう妻の稲村こはるとのからみがまったく出てこない。
15年の間、子どもたちが世間から受けてきた差別だが、これも伝わってこない。それぞれうっ屈したものをかかえて生活しているのはわかるが、それがすべて母親の父親殺しに起因するものとも思えない。
長女の稲村園子の鬱屈はかなりのものと見えるのに、人物造形としてはそういう陰が全く見えない。長男の稲村大樹の離婚問題も母親の問題とは別のものに見えるし、次男の雄二に至ってはこじつけとしか思えない。
別の流れで出てくるもとヤクザの堂下の物語はとってつけたようでよけいだし、カーチェイサーは15年の間をつなぐのはわかるがやりすぎ。タクシー会社の従業員柴谷弓の不倫と認知症の母親の事故死もとってつけたよう。
原作がどんなものかわからないが、母親の夫殺しと子どもたちの15年をもっと丁寧に描いてほしかった。そうすれば、返ってきた母親との気持ちのずれがもっと際立ったはず。
不満が残った。
タイトルの「ひとよ」は「一夜」のこと。「人よ」ではない。
6月29日、本厚木kikiでの2本目。
『くれなずめ』(2021年製作/96分/日本/監督・脚本:松井大悟/出演:成田凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 高良健吾 目次立樹/2021年5月公開)
高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まった。恥ずかしい余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代の思い出を振り返る。自分たちは今も友だちで、これからもずっとその関係は変わらないと信じる彼らだったが……。
『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)は妙に印象に残る映画だった。『昼顔』(2017)はつまらなかった。
「くれなずめ」は『アズミ・ハルコ』につながる映画かな。
タイトルはすばらしい。くれなずむ、に対して くれなずめは命令形か?それとも朝まずめとか夕まづめにかけた夕方の時間のことか。いずれにしてもイメージ豊かなタイトル。
しかし、暮れなずむ時間の96分は少し長かった。やれるだけのことみんなやっちゃおうという感じで、どれも面白いが、すこし食傷気味。「喪失」ということを中心に据えるなら、もう少し控えめのほうが。
若い役者がいい。成田凌は菅田将暉と同じくらいあちこちでづっぱりだが、いい。若葉竜也、藤原季節、浜野謙太、どの人もクセがあっていい。それにしてもよくもまあ次々と個性的な役者が出てくるものだ。