映画備忘録。
10月6日、グランべりパークシネマで
『空白』(2021年製作/107分/PG12/日本/脚本・監督:吉田恵輔/出演:古田新太・松坂桃李・田畑智子・藤原季節・2021年9月23日公開)を見る。
コンビニ店長役の松坂桃李、『虎狼の血REVEL2』よりはるかにいい。
漁師見習いの藤原季節、『アイネクライネナハトムジーク』『長いお別れ』『明日の食卓』『くれなずめ』どんどん良くなる。
娘役の伊藤蒼、演技と思えないリアルな女子中学生。
最初に蒼を轢いてしまった娘の母親役の片岡礼子、相変わらず存在感有り。
寺島しのぶ、どこまでも世話好きで親切だけど、ズレていてバランスの悪い主婦を好演。
担任役の趣里をはじめ同僚教員、校長、これまたリアル。
でも物足りないと感じるのはなぜか?
父親添田役を演じる古田。漁師として、父子家庭の父親として、子どもを失くした父親として、暴力的で自己中でその上かなりエキセントリックな男を見事に演じている。
それならばと突っ込みたくなる。
第一に、これほどひん曲がった男なのに「金」「賠償金」の問題がなぜ出てこないのか。金が絡めばモンスター化はもっとリアリティを帯びる。
2つ目。すさまじい交通事故で女子中学生が死んでいる。この事故に警察はどう動いたのか。二度目に蒼を轢くトラックの運転手は一度出てきただけ。添田の怒りはなぜこの男や最初に轢いた女性に向かわないのか?
3つ目。学校に対して執拗に抗議を繰り返す添田。いじめの証拠を出せと迫るが、いじめの証拠を出せと迫るも尻切れトンボだ。学校の隠ぺい体質批判も中途半端。直接生徒と話させろと言いながら、そこまで。
モンスター化というのはもっと執拗に責め立てることだ。意外に淡泊。
4つ目。これ程暴力的でエキセントリックな男が、いくつかの要因、娘が万引きをしたことを認めざるを得なかったことや(万引きした品物を娘の部屋で見つけ、それを公園のごみ箱に捨てるシーンはよかった)、自分が娘のことをほとんど知らなかったこと、さらにはじめに娘を轢いてしまった女性の自殺と母親の対応、コンビニ店長がマスコミに責められて落剝、零落していく姿を目にすること、別れた妻の妊娠と新し夫の間の子の命名の由来、などの中で、謝罪したり話し合ったり。そうしてごくあたりまえの感情を取り戻していく。表情も穏やかに。これがこの映画の「救い」となっているが、そうだろうか。人間は、そんなふうに変わるものだろうか。
役者の古田は、ねじくれた暴力男の顔も、憑き物のとれた穏やかな顔も上手に演じることができる。
フツーに生きている人間は、ねじくれた部分が数日でとれてしまうなんてことはない。
とことんどこまで行ってもねじくれはなおらない。のそうと思ってもしみついてしまっていてどうにもならないのだ。だから悲しいのだ。
人はこんなふうには動かないし、互いを理解などしないものだ。
娘の描いていた絵を見て、へたくそな絵を何枚も描き続ける添田。娘のことを何も知らなかった父親が、亡き娘に近づこうとする不器用な父親の図だが、前半のすさまじいモンペ、クレーマーとつながらない。
これは、担任が届けてくれた絵の中に同じ構図の絵を見つけることにつながる。
なんだ?こういう映画だったんかい?
きれいにまとめてしまったと思う。
ラストに近づくにつれ、なんだかなあ、だった。
吉田恵輔監督、『愛しのアイリーン』『BLUE』『犬猿』『麦子さんと』、どれも楽しめた。どこかに「救い」を求めるところが吉田脚本か。本作は裏目に出たと思う。
たくさんの人に見てもらうための商業映画、仕方ないことだが、もっと冒険してしてほしかった。