『長いお別れ』いい家族、いい映画にしすぎなのでは?

たまらないうちに12月前半の?ハクボシネマの覚書。

 

今月18日に封切られ上映中『私をくいとめて』(のん主演)の評判が良いようだ。前作『勝手にふるえてろ』も、原作綿谷りさ、監督・脚本大久明子のコンビ。Amazonプライムにあったので見てみた。続かなかった。Mさんと二人で見始めたのだが、二人とも途中棄権。Amazonプライム、ものによって、特に邦画だが、音声が悪いものが時々ある。ボリュームを上げても聞き取りにくい。これもその一つ。松岡茉優のひとりごとがなかなか聞き取れず、流れについていけなかったのだ。

 

ハクボシネマNO.116 (コロナ禍の中で始めたこのハクボシネマ、通し番号を振ってみたら…)

『長いお別れ』(2019年/127分/日本/同名原作:中島京子/監督:中野量太/出演:蒼井優 松原智恵子 山崎努 竹内結子ほか)

 

中野監督は公開中の『浅田家!』は見ていないが、『湯を沸かすほどの愛』(2016)『チチを撮りに』(2013)の2作がとてもよかった。とりわけ『チチを撮りに』には、登場人物の心情を繊細かつ丁寧に描いていて、さらにユーモアもしっかりあって印象強い映画だ。

 

この映画も作風としては前2作に倣っていて、センスの良さを感じさせる。見せ方がうまいと思う。

ただ、演出も演技もあまりに達者すぎて、隙がないというか、ごく普通の人々の生活感のようなものが薄い。デフォルメされすぎているというのとは違うかもしれないが。

 

東昇平と東曜子の夫妻、その娘たち、姉麻里、妹芙美。麻里のダンナとその息子。登場するのはこれぐらい。

昇平と曜子を演じているのは山崎努松原智恵子山崎努は、認知症のなりかかっていく老人を丹念に丹念に演じる。うますぎる。理が勝ちすぎるというか、もっと「わけわからん」ところがあっていいのにと思う。目の力も強すぎる。松原智恵子はほんわかした天然系の妻を演じていて、これもすごい。何十年も女優をやってきて、変わらない部分をしっかり維持している容貌とせりふ回し。ただデフォルメがきつすぎる。

姉茉莉を演じる竹内結子。結婚してアメリカに住んでいる。海外生活だけでなく、夫の間に小さくないわだかまりを抱えている。しかし姉妹となると長女のあっけらかんな雰囲気を漂わせていてうまい。蒼井優は言うまでもない。父親の期待を裏切った鬱屈を抱えた妹をしっかり演じている。

ここに麻里の息子崇がいてこれを蒲田優惟人という子役がこれもまたうまく演じている。

それぞれの抱える鬱屈があり、その中で昇平がわずかずつだが「長いお別れ」に入っていく。

いいなあと思うシーンがいくつもあるのに、それでもなあ、と思う。認知症を患う老人に対する複雑な思い、相反する感情があまり感じられないのだ。厳格な教師であった父昇平が、長いお別れに入っていく中で、いつも一貫してその片鱗を抱いている。その変わらない一面、わかるがどうも嘘くさい。今までのつながりなどバッサリと切り捨てられ、教師臭さなどみじんも感じられないような、違う人間にでもなったかのように感じられる喪失感、老人への諦めとそういう人と付き合わなければならないめんどくささのようなもの、そういうものがこの映画からは感じられない。ごく普通の生活の中にある感情のゆらぎとかほつれのようなものがないのだ。

「長いお別れ」「ロンググッドバイ」を描いた素晴らしい映画という評価があるが、それにしてはいい映画にしてしまいすぎ?まとめすぎだなと思いながら見ていた。