『プリズンサークル』ここにぎりぎりのところで生き直そうとする人たちがいる。どこまでも緊張感あふれる映画。こういう映画を8年近くかけてつくってきた人々に、心から敬意を表するとともに、より多くの方々に見てほしい貴重な映画である。  

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』といっしょに、

 

『プリズンサークル』(2019年/136分/日本/製作・監督・撮影:坂上香/アニメ監督:若見ありさ/2020年1月25日公開)★★★★☆

 

この映画も早く見たかったのだが、なんどかすれ違って?ようやく。

官民協働で運営される刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われてきた受刑者更生プログラム、とりわけTCと言われるTherapeutic Community=回復共同体に焦点をあてた映画。取材許可を得るまで6年、約2年間の撮影期間を経て完成した。所内の様子だけでなく、実際にTCを経験して出所した人たちと支援員との交流の様子も挿入されている。

いじめ、虐待、差別などから犯罪に至ってしまった受刑者たちが、TCを形成し互いに自分の内奥と対話しながら、自分の何が問題だったのか、その根源はどこにあるのかを探っていく過程をカメラが克明に追っていく。

 

日本の刑務所が老人施設と化しつつあることは、今世紀に入って長く指摘されてきた。また、少年法の適用年齢の引き下げの問題性も指摘されてきた。なにより、再犯頻度の高さにあいまって、刑務所内の更生教育の貧弱さが指摘されてきた。

 

閉じ込めて単純作業に従事させるだけの更生教育でいいのかという指摘はされても、実際に予算不足から具体的な政策はとられてこなかったのだが、官民協働の新しい形の刑務所のなかで、この映画が捉えた試みがなされていることはあまり知られていない。

 

個室で生活し、一定の範囲で自由独歩がゆるされるなかで行われるプログラムは、想像以上に一人ひとりの受刑者を開いていく。

 

勿論顔はすべてぼかされているが、その発言の一つひとつは、見ている私たちにさまざまな気づきを起こさせる。

その自由さ!これが大きいのだが、それを保障しているのは制服制帽の刑務官ではなく、支援員と呼ばれる心理職の存在だ。

 

支援員と席を並べ、互いに意見交換している姿は、受刑者と刑務官という関係より、

相談機関の相談者とチューターのような感じ。

 

 

全国の受刑者数に比べれば、こうした更生プログラムがなされているケースは極めて少ない。しかし、たった40人が取り組んでいる島根あさひ社会復帰促進センターの受刑者の再犯率はかなり低いという。

 

私は現職の頃、児相の一時保護所、少年鑑別所、少年院、養護施設など多くの施設に幾度となく面会に訪れた。

どの施設も子どもたちに対して真摯な対応をしていたことを記憶している。そこで行われる教育プログラムは、大人の刑務所よりもはるかに緻密でていねいであったことは事実なのだが、いかんせん指導者の数は限られるし、刑務官としての仕事を抱えながら少年に対していくというかたちに限界があったと思う。

 

この映画は、大人の犯罪の根源にある差別や虐待のダイナミズムをしっかりと見せてくれるという点で、少年犯罪で収監されている少年たちにも大きな福音となるのではないか。

 

政治という予算の配分をなりわいとしている政治家、官僚たち、10兆円を議会も経ずに恣意的に使おうとするアホーこの上ないこの国の政府与党の政治家たち、キミたちよりずっと真摯に自分の生き方に向き合っている人たちがいる ことを知るべきだ。

 

ここにぎりぎりのところで生き直そうとする人たちがいる。どこまでも緊張感あふれる映画。こういう映画を8年近くかけてつくってきた人々に、心から敬意を表するとともに、より多くの方々に見てほしい貴重な映画である。

 

 

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今日は梅雨の晴れ間かな? 写真はネットから拝借しました。