映画備忘録
8月24日
『少年の君』(2019年製作/135分/G/中国・香港合作/ 原題:Better Days/ 脚本: ラム・ウィンサム リー・ユアン シュー・イーメン/監督:デレク・ツアン/出演:チョウ・ドンユィ イー・ヤンチェンシー/日本公開2021年7月21日)
どう言ったらいいのか、とにかくあまりにも完璧で隙がなく、どこをとっても文句のつけどころがない。冒頭からぐいぐいと引き込まれ、最後まで全くしらけることがなかった。ストーリーとしては単純な純愛映画なのだが、一貫して流れる濃い密度のトーンが魅力的だ。正攻法の映画。まさに映画。こういう映画はなかなかない。
2人の主役は見事と云うしかない。とりわけチェン・ニェンを演じたチョウ・ドンユィの演技は魅力的。
彼女は2011年、チャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』で7000人の中からオーディションで選ばれ、デビュー。中国では「13億人の妹」と呼ばれたとのこと。
冒頭の教室のシーンはラストシーンと韻を踏んでいて美しい。
wasとuse to beの使い方の違いは?という問いが物語の入口であり、到達点でもある。
抒情的この上ないシーン。
チェン・ニェンが物語の数年後に教員となって英語を教えているという設定だが、直後に物語が始まるとチョウ・ドンユィは10年も若く幼くなっているように見える。
1992年生まれというから来年30歳になるのに高校生の役と10年後の役がともに全く不自然でなく演じられているのに驚かされる。
純愛を貫き通すためにハザードとして準備されるのは、ここでは社会的な貧困というよりは、現在の中国の学校における受験競争といじめだ。
可笑しいのはこの映画、いじめ撲滅のための啓発映画の体裁をとっていることだ。それなのに臭さはない。
ここではダメな教師とともに話の分かる教師もいて、少年たちに気持ちを寄せてくれる警察官もいる。システムのおかしさは描かれても、権力側のおかしさは描かれない。
中国本土で映画を撮るということはこういうことなのだろう。
そんなことを差し置いても、この映画、本当によくできている。
東野圭吾の小説のパクリだという声があるというが、『白夜行』のことだろう。確かに体裁は似ているし、東野の小説も映画もいい出来だと思うが、緊密度、濃度という点で『少年の君』が上だと思う。
今年のアカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされている。受賞作品はデンマークの映画『アナザーラウンド』。日本では9月3日に公開される。