『無聲』(2020年・台湾)昼間の明るいところで行われる凄惨なシーンと、夜のプールでベイベイが泳ぐシーンなどベイベイの心理の複雑さ、細やかさが映像としてよく描かれていると思った

映画備忘録。3月8日、ジャック&ベテイの2本目。

『無聲』(2020年製作/104分/PG12/台湾/原題:無聲 The Silent Forest/監督:コ・チェンニエン/出演:リウ・ツーチャン チェン・イェンフエイ キム・ヒョンビン/日本公開2020年1月14日)

 

聴覚障害をもつ少年チャンはろう唖学校に転校し、学校の設立100周年のパーティで見かけた少女ベイベイに心ひかれる。後日、スクールバスに乗っていたチャンは、バスの一番奥の席でベイベイが複数の男子生徒から性暴力を受けているところを目撃してしまう。ショックを受けるチャンに、主犯格の少年シャオは、その性暴力が「ゲーム」であると語るが……。監督は、Netflixでも配信されたドラマ「暗闇は目を閉じて」などを手がけ、長編映画はこれが初となる新鋭女性監督コー・チェンニエン。台湾のアカデミー賞ともいわれる金馬奨で8部門にノミネートされ、ベイベイ役のチェン・イェンフェイが最優秀新人女優賞を受賞。日本でも2020年・第21回東京フィルメックスコンペティション部門に出品された。(映画ドットコムから)

2002年に実際に起きた事件に材を取っている。

聾の世界で起きる性暴力が大きなテーマだが、台湾の聴覚障害者の子どもたちの置かれた位置、それへの視線、さらには日本にも通じる学校の事なかれ主義、大人の子どもへの性暴力など、現代の台湾のもつ病理、世界に広がっているものと同質の病理が描かれている。

 

転校。初めての出会いから互いに好意を感じるチャン・チェンとヤオ・ベイベイ。

しかし、明るいスクールバスの中で、チャンは信じられない光景を見る。

 

チャンはベイベイに先生に言わなくてはいけないと迫るが、ベイベイはみな仲間、中を裏切るわけにはいかないという。

 

しかし、ことは正義感の強い若い男性の教員の知るところとなる。

こうした性暴力は先輩から受け継がれてきたものであり、学校側は外部からの批判をおそれて、問題の解決を避けてきたことがわかる。

ベイベイが女性の教員に訴えても、取り合ってくれない。

校長は、根本的な解決策をとろうとせず、体面をつくろう。

男性教員は必死に解決に動くのだが。

 

ネタバレになるから、事の真相の深さについては触れない。

 

ベイベイを守ろうと必死で立ち向かうチャンは、ベイベイにもう手を出さないというリーダーの言葉を信じ、自ら性暴力の被害者となる。

 

チャン、若い男性教員、ベイベイの祖父・・・みながベイベイを守ろうとするのだが・・・。

 

全編を流れる独特のトーンが『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)を彷彿とさせる。

展開にリズムがあり、一つひとつのシーンが磨き上げられている。

とくに昼間の明るいところで行われる凄惨なシーンと、夜のプールでベイベイが泳ぐシーンなどベイベイの心理の複雑さ、細やかさが映像としてよく描かれていると思った。

なにより、聾であることに対するベイベイの悲しみ、あきらめが伝わってくるチェン・イェンフエイの演技がすばらしい。

演出のレベルには目を見張るものがある。

長編映画は初めてというコ・チェンニエン監督。十代の子どもたちへの演出も配慮が感じられ、好感が持てる。

2枚のポスター、どちらも素敵だ。

 

 

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