『流麻溝十五号』白色テロに立ち向かい、闘い続けた女性たち。その歴史から学ぶ視点が台湾の民主主義にはあるのではないか。

2024年8月の映画寸評①

<自分なりのめやす>

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無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

(58)『流麻溝十五号』2022年製作/112分/G/台湾/原題:流麻溝十五號

Untold Herstory/監督:ゼロ・チョウ/出演:ユーペイチェン リエン・ユーハン

シュー・リーウエン/日本公開公開2024年7月26日)

               kiki  8月7日  みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

 

台湾国民政府による恐怖政治下で戒厳令が敷かれていた「白色テロ」時代に、政治犯収容を目的とした教育施設と監獄のある緑島で生きる女性たちの姿を、実在した複数の人物を3人の女性に投影して描いたドラマ。

1953年、政治的弾圧が続く台湾では、罪を課せられた者は思想改造および教育・更生のため緑島に収監されていた。連行された者は名前ではなく番号で呼ばれ、重労働を強いられた。純粋な心を持ち、絵を描くことが好きな高校生のユー・シンホェイ。子どもが生まれて間もなく投獄された、正義感の強い看護師イェン・シュェイシア。妹を拷問から守るため自ら囚人となったダンサーのチェン・ピン。次々と迫る不条理に対しても考えることを諦めず、台湾語、北京語、日本語などさまざまな言語を駆使しながら日々を生き延びようとする彼女たちだったが……。
ユー・シンホェイ役に「越年 Lovers」のユー・ペイチェン。監督は「Tattoo 刺青」などこれまでも一貫してジェンダー平等の視点から作品を撮り続けてきたゼロ・チョウ。(映画.comから)

 

「流麻溝十五号」は、緑島あるいは火焼島と呼ばれる台東から30km離れた火山岩の島の中の、身分や年齢の違う女性たちが収容されていた住所のこと。政治思想犯の中には14歳の少女もいたという。

緑党は日本統治時代は監獄として使用され、国民党の白色テロ時代は1949年の戒厳令が敷かれて以来1987年に解除されるまで政治思想班の収容施設として使用された。最大500人が収容されていたという。現在はダイビングスポットや、ビーチが美しい観光地となっているそうだ。

「流麻溝十五号」というタイトルは、女性に焦点を当て、ジェンダーの視点から白色テロに光をあてたということだ。

国民党による白色テロは、徹底した本土中国共産党に対する嫌悪、防衛のためであり、結果的に共産主義思想よりも民主化を求める人々を標的にした。映画の中の3人の女性も、一人は絵を描くことが好きというだけの高校生が思想改造を求められ、一人はダンサーとしての活動がもとで拘束され、妹を守るために収容所の隊長と関係を余儀なくされる。看護師の女性は、キリスト者として出産後に拘束されている。

女性収容所内での監視に対して媚びや擦り寄り、裏切りのなかで、何人かの女性たちは拷問で死を余儀なくされていく。

そんな中でも、北京語、台湾語、日本語、さらには英語を交えて意思疎通をし、繋がろうとする知的な豊かさや、搦め手で思想改造を迫る収容所幹部に対し、考える自由、心の自由を求めて節を曲げずに闘う女性たち。

ラストシーン、現在の緑島の砂浜に亡くなった女性たちが囚人服ではなく、色鮮やかな洋服を着て集まってくるシーンが胸に迫る。

現在の民主主義国家台湾が、この白色テロ時代を土台としていることを台湾の政権は忘れていない。歴史から学ぶということに真摯であることからして、日本の民主主義とは基本的に違うものがあるように思われる。

見るに堪えないシーンもいくつもあるが、なぜか台湾映画に感じる独特の抒情というか艶やかさがこの映画からも感じられた。本土中国や韓国映画にはないものなのだが、これは私の勝手な思い入れだろうか。

 

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