『関心領域』・・そこに「ある」ことはわかっても、それについて考え続けることが難しいと無意識にわかった時、私たちは「ある」ものを「ない」ものと認識し、心の平安を担保する。 それはまるで私たちの日常そのものだ。

2024年6月の映画寸評③

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば    ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

㊽『関心領域』(2023年製作/105分/アメリカ・イギリス・ポーランド合作/
原題:The Zone of Interest /クリスティアン・フリーデル サンドラ・ヒュラー劇場公開日:2024年5月24日 ⭐️⭐️⭐️⭐️

                イオンシネマ港北ニュータウン 6月17日

 

「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のジョナサン・グレイザー監督がイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案に手がけた作品で、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランドオシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。

カンヌ国際映画祭ではパルムドールに次ぐグランプリに輝き、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した。出演は「白いリボン」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のクリスティアン・フリーデル、主演作「落下の解剖学」が本作と同じ年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラー。

 

 

ずいぶん時間が経ってしまった。

独特の映画。印象がなかなか消えない。音楽、音響のせいもあるかもしれない。

タイトルとあらすじを読めば、それなりに中身はわかってしまうのだが、この映画それほど単純にできていない。

アウシュヴィッツービルケナウ収容所と壁一つ隔てたところに成立するルドルフ・ヘスの家庭生活。収容所の外と中の対比。中からは時々銃声や叫び声が聞こえてくるが、ヘスの家族は誰も関心を示さない。

 

実際にアウシュヴィッツを訪れた時、ヘスの家があったところを中谷剛さんに案内されたことを覚えている。廃墟になっていた。

 

映画は単純な対比ではないシーンがいくつも出てくる。

深夜、りんごを収容所の中のあちこちに置いていく少女。

収容所のある部屋とヘスの家は地下道でつながっていて、ヘスは深夜そこを行き来しながら某女性との静的関係を続けている。

ヘスの妻の母が遠くからやってくるが、一晩泊まっただけで理由を言わずにいなくなる。

ピアノを弾くシーンがあったが、これもよくわからない。画像5

そしてラストシーンも。現在のアウシュヴィッツ博物館の展示〜夥しい靴やかばん〜を前に、それらに全く関心を示さず掃除をする女性たち。

ヘスの家庭、とりわけ妻のこの家への執着が中心的な流れだが、随所に挿入される説明されない幾つかのシーン。

 

これはナチスアウシュヴィッツを描きながら、実は人々の生活、生き方というものが、それほど一貫したものではなく、むしろ見たいものだけを見続け、世界を見たような気持ちになっている矛盾そのものを描いているのだろうか。

わかりやすい妻よりも、ヘスの描き方にポイントがあるような気がした。

私たちもヘスの妻と同じように、掃除をする女性たちと同じように、限られた関心領域を見ながら、世界を見ているような誤謬を犯しているのではないか。

そこに「ある」ことはわかっても、それについて考え続けることが難しいと無意識にわかった時、私たちは「ある」ものを「ない」ものと認識し、心の平安を担保する。

それはまるで私たちの日常そのものだ。

配信で『ヒトラーのための虐殺会議』を見たのだが、当時のドイツ政府の要人たちも、自分の関心領域を意図的に狭め、保身を図ろうとする。この映画はほとんどが会議のシーンだが、人々の心理を克明に描いている点で『関心領域』とつながっている。

 

兵庫県知事のパワハラが問題となっているが、局長クラスの役人が知事を告発の末に自殺という悲惨な事態となっている。森友の赤木さん同様、自ら自分の目を閉ざさなかった結果だ。

 

 

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