リドリー・スコットの4Kレストア版『テルマ&ルイーズ』ほか3月の映画寸評①

2024年3月の映画寸評①

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば     ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

㉒『テルマ&ルイーズ』(1991年/129分/アメリカ原題:Thelma & Louise /制作・監督:リドリー・スコット/出演:スーザン・サランドン ジーナ・デービスほか/1991年10月日本公開 4Kレストア版2024年2月16日公開)⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

ブレードランナー」「ブラック・レイン」のリドリー・スコット監督が女性2人の友情と逃避行を描き、「1990年代の女性版アメリカン・ニューシネマ」と評されたロードムービー
 ある週末、主婦テルマとウェイトレスのルイーズはドライブ旅行に出かけるが、途中で立ち寄った店の駐車場でテルマが男にレイプされそうになり、助けに入ったルイーズが護身用の拳銃で男を撃ち殺してしまう。ルイーズには、かつてレイプ被害を受けたトラウマがあった。警察に指名手配された2人は、さまざまなトラブルに見舞われながらメキシコへ向かって車を走らせるうちに、自分らしく生きることに目覚めていく。
 ジーナ・デイビステルマスーザン・サランドンがルイーズを演じ、ハーベイ・カイテルマイケル・マドセンが共演。キャリア初期のブラッド・ピットも短い出演時間ながら印象を残した。カーリー・クーリが脚本を手がけ、1992年・第64回アカデミー賞脚本賞を受賞。2024年2月、スコット監督自身の監修により製作された4Kレストア版でリバイバル公開。(映画.com)

リドリー・スコットという人は、根っからの職人。名前が出ると見たくなる。91年に未見だったので迷わず出かけた。

やはりこの映画もすごい。脚本はもとより、ロードムービーのスピード感が、抜群の編集センスによってさらに加速し、最後まで息をつかせぬまま引っ張っていく。かといって観客は口を開けて引っ張られるだけかというと、そんなことはない。しっかり考える、感じる余地を残してくれるている。この微妙なさじ加減。画像2

90年代の男社会に対するアメリカの女性の恨みつらみが理屈でなく、感性そのものとして映画の中にはじけている。男のどんな甘言や優しさに対しても拝跪せず、誇らしく自分を守るテルマとルイーズ。底抜けの明るさの中に自由を求めてやまない2人の悲哀も垣間見える。

それにしてもこの疾走感はあまり感じたことのないものだ。画像8

ブラッド・ピット

 

㉓『僕らの世界が交わるまで』2022年/88分/アメリカ原題:When You Finish Saving the World/監督:ジェシー・アイゼンバーグ/出演:ジュリアン・ムーア フィン・ウルフハード/2024年1月19日公開)⭐️⭐️⭐️

 

ソーシャル・ネットワーク」「ゾンビランド」シリーズなどの俳優ジェシー・アイゼンバーグが長編初メガホンをとったヒューマンドラマ。アイゼンバーグがオーディオブック向けに制作したラジオドラマをもとに自ら脚本を手がけ、ちぐはぐにすれ違う母と息子が織りなす人間模様を描く。

DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母エブリンと、ネットのライブ配信で人気を集める高校生の息子ジギー。社会奉仕に身を捧げる母と自分のフォロワーのことで頭がいっぱいのZ世代の息子は、お互いのことを分かり合えず、すれ違ってばかり。そんな2人だったが、各々がないものねだりの相手にひかれて空回りするという、親子でそっくりなところもあり、そのことからそれぞれが少しずつ変化していく。(映画.com)

つまらなくはないんだけど。

3人の家族の年齢構成がすれ違いの要因の一つになると思うのだが、映画はそこには突っ込まない。やっていることは全く違うけれど、母娘は何事にも前のめりという点でよく似ている。ラストシーンは、母親はふと息子のyoutubeを見て、息子は母親の仕事の業績を見る。これが「変化」なのだろうか。劇的でない分、歩み寄りのきっかけを提示して終わるのもいいのかもしれないが、基本的には交わることなどないだろうという突き放しがあってもいいのでは。家族も暴力装置の一形態なのだから。その上での展開があったらいいのにと思った。

 

㉔『ゴースト・トロピック』(2019年製作/84分/PG12/ベルギー/原題:Ghost Tropic/脚本(も一部)監督:バス・ドウボス 出演:サーディア・ベンタイブほか
/2024年2月2日公開)⭐️⭐️

美しく繊細な映像で物語を紡ぎ、カンヌ国際映画祭ベルリン国際映画祭でも注目を集めるベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作。ブリュッセルの町を舞台に、最終電車で乗り越してしまった主人公が真夜中の町をさまよい、その中での思いがけない出会いがもたらす、心のぬくもりを描く。

清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目を覚ました彼女は、家に帰る手段を探すが、もはや徒歩で帰るしか方法はないことを知る。寒風吹きすさぶ町をさまよい始めた彼女だったが、その道中では予期せぬ人々との出会いもあり、小さな旅路はやがて遠回りをはじめる。

全編を通して舞台となる夜の街の風景を、粒子の荒い16ミリカメラで撮影することで、暗闇の中に柔らかさと温かみをもたらしている。2019年・第72回カンヌ国際映画祭の監督週間出品。

下調べをして楽しみにしながら座席に坐ったが、冒頭のある部屋のシーンが静止画のように2〜3分続くのを見て、少し引いてしまった。光量が徐々に微妙に落ちていくのはわかるのだが、こういう人をためすような映画は勘弁。その後も、私にはただ退屈。最後まで全く楽しめなかった。

お前にはこういう映画を見るセンスがないと言われれば、そうかもしれない。なにしろ賞賛する映画評もいくつもあるし、中には絶賛も。

こういう映画もあるんだなと思うことにする。

ちなみにタイトルの日本語訳は「幽霊熱帯」、???である。

 

㉕『梟ーフクロウー』(2022年/118分/韓国/原題:The Night Owl/脚本・監督:アン・テジン/出演:リュ・ジュンヨル ユ・ヘジン/ 2024年2月9日日本公開)

                                   ⭐️⭐️⭐️⭐️

                                                                                                       

17世紀・朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」に記された“怪奇の死”にまつわる謎を題材に、盲目の目撃者が謎めいた死の真相を暴くため奔走する姿を予測不可能な展開で緊張感たっぷりに描き、韓国で大ヒットを記録したサスペンススリラー。

盲目の天才鍼医ギョンスは病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。ある夜、ギョンスは王の子の死を“目撃”してしまったことで、おぞましい真実に直面する事態に。追われる身となった彼は、朝日が昇るまでという限られた時間のなか、謎を暴くため闇を駆けるが……。

「毒戦 BELIEVER」のリュ・ジュンヨルが主人公ギョンスを演じ、「コンフィデンシャル」シリーズのユ・ヘジンが共演。2023年・第59回大鐘賞映画祭で新人監督賞・脚本賞編集賞、第44回青龍映画賞で新人監督賞・撮影照明賞・編集賞を受賞するなど、同年の韓国国内映画賞で最多受賞を記録した。(映画.com)

予告編ほどのサスペンス味はない。眼球に針を据えるポスターは印象的だが、実際のシーンは照明は明るく、ほんの一瞬。これかい? という感じ。

先の読めない展開をテンポ良く繋いでいくつくり方は、韓国映画の現代物のサスペンス同様。しかし、時代劇としてはスケール感に乏しい。韓流ドラマで100回とか150回とか続くチャングムなどの時代劇の方がスケール感があったように思えた。その意味で予告編とポスターは秀逸のでき。

盲の鍼師を「フクロウ」として主人公に据えた発想は面白いが、実際にそういう例があるのかどうか。現実味はないように思えたが。

でも、どんでん返し含めて最後まで楽しめたことは間違いない。