10月の映画備忘録② 『アンダーカレント』『PIGGY ピギー』『コンフィデンス 国際共助捜査』

10月の映画備忘録②

10月16日

『アンダーカレント』(2023年/日本/143分/原作:豊田徹也(2005年アンダーカレント)/脚本:今泉力哉・澤井香織/監督・今泉力哉/出演:真木よう子井浦新リリーフランキー永山瑛太江口のりこ・康すおん 他/2023年10月6日公開)

 

かなえは家業の銭湯を継ぎ、夫・悟とともに幸せな日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が銭湯組合の紹介を通じて現れ、ある手違いから住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活の中で穏やかな日常を取り戻していくが……。

謎の男・堀を井浦新、探偵・山崎をリリー・フランキー、失踪した夫・悟を永山瑛太が演じる。「愛がなんだ」の澤井香織が今泉監督とともに脚本を手がけた。

                      (映画.comから)

 

今泉力哉監督、割合多作の方なのに作品の質が高い。今回もあとをひく映画だった。数日経ってもこの映画のことが頭を離れなかった。

主な登場人物。

銭湯の店主・かなえ(真木よう子

かなえの夫・悟(永山瑛太

ボイラーマン・堀(井浦新

探偵・山崎(リリーフランキー

たばこ屋の親父(康すおん)

 

under currenntは、「底流」とか「暗流」と訳されるようだ。映画を見る限り原作の漫画も面白そうだ。

 

いつものことだが、セリフがこれ以上ないほどに丹念に練られていて、さらに声になって発出されるまでの「間」がなんともいえない。演出、演技の妙。言葉に心地よい陰影が感じられるのは今泉流。

 

かなえの、どちらかと言えば散らかり気味の気持ちから発する前のめりの言葉と表情。

夫・悟の言わなくてもいいことをつい言ってしまって、そこからとめどなく出てくる「嘘」に耐えきれず、自分の影を消し去るように生きるしかない性(さが)。

何十年も鬱屈したものを抱えていながら、その掴みどころのなさに自ら狼狽えてしまう堀。

 

それぞれ言葉すくなな、そして映像としてはとっても雄弁な3人のうしろで、これ以上ないというほどの味わいでもって、ドラマの流れをつくっている二人、山崎(リリーフランキー)とたばこ屋の田島三郎(康すおん)。

 

背景に大きな事件というかドラマはあるのだが、それよりも3人の、言葉以上の表情と演技が惹きつける。普段は人の意識の底流にあって見えないものが、実はその人の人生を大きく支配している。それに気づいていてもそれを意識の上に浮かび上がらせることはしない。

随所に現れるリリーフランキーの、気だるい諦念に彩られた眼差しの深さ、ラストに近いところででてくる康すおんのモノローグは、絶妙この上ない。

 

143分、見る側は自分の人生をふっと振り返る瞬間があるはずだ。

「もう一度見たい映画」の一つ。なんとも贅沢な映画。

 

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途中で気がついたのだが、音が素晴らしくいいと思った。

街のさまざまな音がクリアで生き生きしている。セリフとのミックスがとっても自然。

海の波の音もよかった。

私の気のせいかと、その後見た『ほつれる』でも注意して聴いてみたのだが、街の音はゴーッいう低音が混じる。実際、都会の街はいつも冷蔵庫の唸る音のようなゴーッという音が聞こえている。

地方都市に行くとこのゴーが聞こえないことが多い。そのせいかクルマのエンジン音すらもクリアに聞こえる。

意識されて録音されているのかどうかわからないが、気持ちがよかった。

 

10月30日

『PIGGY ピギー』(2022年/スペイン/99分/監督:カルロタ・ペレダ/出演:ラウラ・ガラン カルメン・マチ他/2023年9月22日公開)

 

自分をいじめる同級生を目の前で誘拐された少女が究極の選択を迫られる姿を描いたスペイン発のリベンジホラー。

スペインの田舎町で暮らす10代の少女サラは、クラスメイトから執拗ないじめを受けていた。ある日、あまりの暑さに耐えきれず1人で地元のプールへ出かけた彼女は、そこで怪しげな男と、3人のいじめっ子たちに遭遇する。その帰り道、サラは血まみれになったいじめっ子たちが男の車で拉致されるところを目撃。警察や親に真実を打ち明けて捜査に協力するべきか、それとも沈黙を貫いて自分を守るべきか、決断を迫られるが……。

テレビ業界でキャリアを積んだカルロタ・ペレダ監督が、ゴヤ賞を受賞した2018年制作の短編映画「Cerdita」を自らのメガホンで長編映画化した。「テリー・ギリアムドン・キホーテ」のラウラ・ガランが主人公サラを演じ、ゴヤ賞で最優秀新人女優賞を受賞。(映画.comから)

 

もう少し何かあるかと思ったが、映画としてはありがちなリベンジホラー。

ちょっと残念。民族や国が違ってもいじめの方法は驚くほどよく似ている。

 

10月30日

『コンフィデンシャル 国際共助捜査』(2022年/韓国/129分/監督:イ・ソクフン

/出演:ヒョンビン・ユ・ヘジン イム・ユナ ダニエル・ユニーほか/2023年9月22日公開)

     

国際犯罪組織のリーダーと消えた10億ドルを追って北朝鮮から韓国へやって来た特殊捜査員リム・チョルリョン。韓国側へは北朝鮮から「国際共助捜査」の要請があり、捜査の失敗により左遷されたベテラン刑事カン・ジンテが現場復帰をかけてチョルリョンの相棒に志願する。2人は以前も一緒に捜査をしたことがあり、チョルリョンに思いを寄せるジンテの義妹ミニョンは再会を待ち望んでいた。互いの真の目的や機密情報を隠したまま捜査を進めていく2人の前に、FBI捜査官ジャックが現れる。

前作に続いてヒョンビンがチョルリョン、「タクシー運転手 約束は海を越えて」のユ・ヘジンがジンテ、アイドルグループ「少女時代」のイム・ユナがミニョンを演じた。FBI捜査官ジャック役に「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」のダニエル・ヘニー。

                       (映画.comから)

韓国映画はとりあえず見ることにしている。2017年の『コンフィデンシャル』の続編。

国際共助とは、北朝鮮、韓国、アメリカの刑事が協力するという意味。

アクションのスケールが邦画とは違う。邦画には「つくりもの感」がいつもつきまとうが、韓国映画のアクションシーンはギリギリのところを攻めていて、数段上を行っている。

筋立ては荒唐無稽。それをわかった上でなお楽しめる映画。

3人の刑事のうち二人はいい男、ナイスガイ・美男子?。そこに韓国人の刑事ジンテ役の三枚目俳優ユ・ヘジンがいることで、単なるアクション映画でなく、どの世代でも楽しめる格好になっている。

ユ・ヘジンは人気俳優。私が見た映画だけでも『マルモイ』『完璧な他人』『ある戦いの真実』『タクシー運転手 約束は海を超えて』『国選弁護人ユン・ジンウオン』『極秘捜査』『ベテラン』など。いつもエッジの効いた演技。