「新しい枠組み」とは、安全基準値を下げ、危険を風評と言い換え、住民の帰還を促し、放射能と共に生きろというメッセージ。メディアの「妖術」を刮目して見破るべし。

前回取り上げた福島での電通の跳梁を明らかにしたのは、長野の農業者野池元基さんの鬼のような情報公開請求によるものと言われているそうだ。

 

では電通が行った広告換算値とはどういうものか、具体的なメディア別に開示されている。

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福島民放社「令和4年度オールメディアによる漁業の魅力発信業務」報告書から

 

表2 広告費換算表

新聞・テレビでの露出成果や認知効果を、同じ枠を広告として購入した場合の広告費に換算し、その金額を評価

 

福島民報              127,194,600

福島民友           54,671,100

福島テレビ                                755,506,666

福島中央テレビ                         213,080,000

福島放送                                    468,832,000

テレビユー福島                          178, 197,333

ラジオ福島                                     11,631,000

福島FM                                          14,220,000     

 

合計           1,823,332,699 

事業費1億2千万円に対し、広告費換算額が18億2千万円となり、目標額である1億2千万円  を大きく上回ることができた。また、媒体別に見ると、新聞は掲載回数と全国紙への掲載、テレビはネット数が多い番組やBSでの放送、全国ニュースでの露出、ラジオは長尺番組での放送などが、換算値を引き上げる主な要因であり、目標達成に大きく貢献した。

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なんとも生々しい数字である。1億2千万円の事業費で18億円以上の効果を上げたと電通は胸を張っている。福島主要メディア8社は完全に電通に取り込まれているということか。野池さんが言うように、

      「電通は報道をも広告・宣伝として評価するのだ」。

 

五十嵐さんらが刊行している同人誌『駱駝の瘤』の2022年春号に、野池さんの仕事が詳しく報告されている。   孫引きになるが、少し引用しながら考えてみたい。 

 

伊達市の「心の除染」問題。

伊達市は、「もう土の除染は終わった。むしろ、放射能に不安を抱いている心が問題だから次はその心の除染なんだ。」(伊達市役所職員の発言、実際には除染は終わってなどいない)

伊達市は、電通随意契約で2億円以上を払って「心の除染」の事業委託をする。

具体的な事業とは?

市民にどんな不安・心配があるのかアンケートをとる。 

アンケートに不安・心配が書かれている住民だけ個別訪問、線量を測る。事故前の基準値より相当に高いが、伊達市は特別な基準を自前で作り、安全であることを1人ずつ説得し、納得したという同意を取る。これが「心の除染」事業。この仕事を電通パソナ竹中平蔵会長)に下請けに出している。電通は中抜き。

 

長崎大学の山下俊一などを使って、1ミリシーベルトを100ミリシーベルトに基準を上げ、安全を喧伝し続けた手法と変わらない。

 

野池さんは、国の主だった行政機関や福島県などの自治体が風評払拭のためにどれだけの額を電通に委託したのかを知るために、2018年9月から情報開示請求を執拗にはじめた。その結果次にようなことが明らかになった(2011年11月末現在)。150件300億円の委託費である。

 

    発注者            委託費          

 

環境省                154億6274万9095円

福島県                  98億5506万2838円 

(農林産物流通課)   内        87億2018万8253円

復興省                  23億845 万 4971円

農林水産省                                                          8億184万  6392円

内閣府                  6億8777万6912円

原子力規制委員会             2億4660万3047円

伊達市                                                                  2億2204万8750円

外務省                  2億1106万 3675円

資源エネルギー庁             1億6745万9500円 

福島市                             1億3429万4545円

経済産業省                  961万2000円

飯舘村                                                                          695万5000円

 

合計                  301億1392円6725円

 

この委託先が電通一社ということだ。

事故前は原発安全神話をPRしてきた電通が、今度は風評払拭に全力をあげる。そこから下請け、孫請け、ひ孫請けと延々と繋がる利益の分散。事故が起きても大したことはない、安全神話は生きているというメッセージがあらゆるところであらゆる手法で広がっていく

 

私たちが目にするのは、さまざまな形に加工された断片的な広告だ。

なんかおかしいぞと思っても、系統的につながっては見えない。巧妙に仕組まれた風評払拭の手練手管。

今考えてみれば、「おいしいふくしま、できました」もその一つ。危険か安全かではなく、 その先の「おいしい」へと導く。ダッシュ村のTOKIOがこれを担う。

こうしたことを中心に風評払拭キャンペーンをこの10年電通がやってきたということだ。

その裏に、前回紹介した地元メディアの「指導」を丹念にやっている。

 

当たり前のことだが新聞もテレビも、その紙面の広さや放送時間の長さは限られたものだ。だから、メディアは現実のどこをどういうふうに切り取るかという「判断」が常に求められている。上のような実態をみるにつけ、すでにメディア自身が腐っていることを認めないわけにはいかない。

 

現実を切り取る時の視点は、当然、読者の、市民の安全、安心にどう資するかということだが、今回の場合、放射能汚染が単なる「かりそめの風評」なのか、実態のある危険そのものなのかを判断を迫られる。

国が自ら定めた基準をの100倍高い基準を「安全」とすることからして、放射能被害が風評どころか危険そのものであることは容易に知れる。

であるにも関わらず、福島地元メディアは、そこには立たず、国や県が標榜する「風評払拭 」の旗の下に最初からついてしまった。

 

何かと、権力追随の様相を隠せないIAEAは、チェルノブイリ事故後10年で総括会議を開いて次のように報告をしているという。

 

「今までの古典的放射能防護は複雑な社会問題を解決するためには不十分である。住民が汚染された地域に永住することを前提に心理学的な状況にも責任を持つために新しい枠組みを作り上げなければならない」

 

「新しい枠組み」とは、安全基準値を下げ、危険を風評と言い換え、住民の帰還を促し、放射能と共に生きろというメッセージのようだ。そのために電通をはじめとするメディアにじゃぶじゃぶと無駄な金を使って市民の目くらましに走る・・・。

なんとも情けない国の姿。

日々のメディアの「妖術」を刮目して見破るべしということなのだが。