日大アメフト部薬物疑惑の記者会見を見る。際立つ検事出身の沢田副学長の存在。

昨夜、youtubeで、日大アメフト部をめぐる日大幹部の記者会見を見た。2時間以上の会見だったが、つい最後まで見てしまった。というのも、登壇した3人の発言以上に、その表情の動き、変化が面白かったからだ。とりわけ沢田副学長の対応は興味深かった。画像・写真 | 日大アメフト部薬物問題会見 厳戒態勢の中で180人 ...

今朝の東京新聞を見ると、部員が大麻らしきものを吸引しているとの情報があったのは昨年7月、1年前のこと。聞き取り調査を行なった際、部員1名から「7月に大麻らしきものを吸引した」との自己申告があり、指導陣が警察に相談、警察は講習会のようなものを開催すべきとのアドバイス。学生本人には厳重注意をしたとのこと。

今年になってからなってからまた同じような情報提供があり、6日に指導陣が学生寮を点検、自主的に持ち物を出させたところ、錠剤片と植物片を発見、13日に理事長に報告、12日間は大学側が保管。18日に大学から警視庁に連絡。28日、保管物が覚醒剤大麻であることが判明。8月3日、警視庁は学生寮を家宅捜索。5日北畠容疑者を逮捕。アメフト部は無期限活動停止処分に。これがここまでの一連の流れ。

今回問題になったのは、6日に大学側が錠剤片と植物片を確保していながら、12日間なぜそれを保管、放置していたのか(空白の12日間)と、林理事長はそれを知っていて、前回の記者会見で隠蔽しようとしたのはなぜか。

 

新聞報道を見ると、記者会見は林真理子理事長が中心に行われたように見えるが、実際の発言の8割は沢田副学長。

林理事長は「隠蔽ではない」「ガバナンスは未だ不十分」を繰り返し、酒井学長も判断を沢田副学長に任せていたことを明らかにし、2人ともこの問題の中心はいなかったことが、youtubeでは見てとれた。

 

印象としては、検事出身の沢田副学長が、アメフト部指導陣との調整、学生への調査の指揮、警視庁への相談、連絡、学長、理事長との調整役を一手に引き受けていたということだ。

検事出身のやや強面(こわもて)で、2時間以上も続く記者からの厳しい質問に対し、感情的になることなく、理路整然と対応。これはもうかなり高いレベルのプロの仕事。学者出身の酒井学長、小説家の理事長にできる芸当でないことは明らか。

では、なぜ12日間、証拠品を保管し続けたのか。沢田副学長は「自首させたかった」というが、ここからは想像だが、12日間の間に指導陣はアメフト部の学生に対しかなり厳しい事情聴取を行なっていたのではないか。実際の吸引者が北畠容疑者以外にいないことを確認しておきたかったのではないか。また、今後のマスコミ対応をどうするかを含め、理事長、学長がどのように対応するかも十分に検討されていたのだろう。

 

2018年の悪質タックル事件、21年の日大附属板橋病院建て替えをめぐる背任事件など、旧田中体制においては、ほとんどがブラックボックスの中で、外部の人間の判断が優先的になされてきたことに比べれば、今回、ある意味「プロ」の副学長の手腕によって、刑事事件としての展開の手綱をしっかり握りながら「傷を大きくしない」ことを目標に対応がなされてきたことは、あながち悪いとは言えないような気もする。

会見では理事長も学長も沢田副学長を援護するような発言を行なっていたが、これはもう学内では「対応は沢田副学長一任」が確認されてきたことの証。今回の会見でのそれぞれの発言も、事前に理事長はここまで、学長はここまでという分担が明確にできていたはず。

それぞの分担を守りながら、記者らの質問は規制しない、全て答える、という対応は、会見の内容としては未だ批判が残るにしても、記者会見としては「見事」だなと思った。

ただ図らずも露呈してしまったのは、林理事長の主導権が確立されていないことだ。発言の一つひとつを聞いていても、やはり組織、会社運営の全く経験のない人が、会社全体のガバナンスを形成、維持できるかといえば、難しいのだろうなと思えた。

かといって、日大卒業生の著名人としての林理事長は、金塗れの旧田中体制の汚れたイメージを払拭するには欠かすことにできない布陣。

「お飾り」という発言もあったが、「お飾り」の裏に強力な実務家がいて、互いに新しい日大のガバナンスを形成しようという共通認識があるとすれば、要としての「プロ」の動きも仕方のないところだろうか。

気がかりは、「まとめ」としての昨日の記者会見以降、焼け木杭のように他の学生の問題や、対応に対する批判が出てくることだ。そうなれば、新体制そのものが維持できるかどうかも難しいし、裏で囁かれる旧田中の残党の巻き返しもないとは言えない。

 

私の日大とのか細い関係も今年限り。私が付き合う4年生の学生たちは、この4年間をコロナと旧田中体制の崩壊、そしてアメフト部問題の渦中で卒業していくことになる。いつも思うことだが、気の毒なことこの上ない。