『トリとロキタ』・・・この演出力は法外すぎる。今のところ今年1番の作品。

映画備忘録。

本を読んでも映画を見ても、すぐに中身を忘れる。タイトルを見ても、あらすじすら思い出せないことがある。それでも、読む、見るという意欲はまだある。読んでいる時、見ている時は、そこそこ愉しいのだ。

でも、我慢できずにほおりだす、席を立つこともないわけではない。最近、1本そういう映画があった。

 

5月の末から5本、見た。

印象だけでも書いておく。

 

『トリとロキタ』(2022年/ベルギー・フランス合作/89分/脚本・監督:ジャン・ピール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ/出演:パブロ・シルズ ジョエリー・ムブンドウ/日本公開2023年3月31日)

 

 

今まで見たダルデンヌ兄弟の映画。

息子のまなざし』(2002年)『ある子供』(2005年)『少年と自転車』(2011年)『サンドラの週末』(2014年)『午後8時の訪問者」(2016年)『その手に触れるまで』(2019年)

見ていない作品もあるが、寡作なので一つひとつが印象が強く、見るごとに次の作品が楽しみになる。画像1

今回も映画は唐突に始まった。

息をつめるように見続け、最後に本当に息がつまった。

すごい映画だ。ダルデンヌ兄弟の作品を見ていると、一般的な映画とは違うジャンルの映画を見ているような気になる。

とにかく説明をしない。トリトロキタがどこからどんなふうにしてベルギーにたどり着いたのか、どんなふうに出会ったのか、全く説明はない。二人以外の登場人物についても説明はない。あるのは演技から類推する背景だ。

冒頭のロキタの証明写真撮影のシーン。唐突だが、そうしたシーンをじっくり見ているうちに、いつの間にか見る人の中に背景が見えてくるという仕組み。この手法は今までの作品と同じ。

 

母国の母親に送金するためにロキタは麻薬の売人の手先とならざるを得ない。トリも自分の知恵でお金を稼ごうとする。

彼らを取り囲む「暴力」が凄まじい。麻薬の売人や大麻栽培業者、入国斡旋業者だけではない。アフリカからの難民に対し、ビザ発給を拒み続ける担当者もそっけないが、ロキタにとっては暴力そのものだ。

料理人である売人は、二人を使って麻薬の売買をするが、二人に対してなんの感情も抱かない。それどころかロキタに対しては性的な要求さえする。斡旋業者はロキが靴の中に隠したお金さえ剥ぎ取る。

 

どうしても足りないお金をなんとかするために、ロキタ大麻栽培の工場で働くことになる。

ここからストーリーが動いていくが、手持ちのカメラで二人の動きを切り取っていくカメラワークはいつもと同じ。不安定なロキタを必死で支えようと知恵を絞りつづけるトリ。

二人は演技経験ゼロだそうだ。しかしそんなことは全く感じさせない。トリとロキタという二人が実際に生きてそこにいて、それを追いかけているような。ドキュメンタリーのようだ。

そしてラストシーン。度肝を抜かれた。こんな終わり方、想像もしなかった。ネタバレはしない。

こんな映画を撮る人たちが同時代に生きていることに感謝。

今のところ今年1番の作品画像15