祥泉院で寺コン、媚びないプログラミングが魅力的。

 

1週間が経ってしまった。

先週の日曜日のコンサートについて記しておく。

 

お寺でコンサートをしてみたいという話を、松本さんらから聞いたのは今年の冬のこと。

コンサートのあと、スタバでかつての同僚のAさんと私たちに相談があった。

「人が集まる場所」としてのお寺で子どもも含めた小さなコンサートができたら、演奏する方も会場となるお寺にとっても、お寺が新たな異空間となるのではないか?

 

お寺は全国に77000を超える。コロナで「集まる場所」としてのお寺はその機能をかなり減じてきている中、お寺とは全く別物の西洋音楽をその場で演奏するという発想は新鮮。

具体的な場所として、Aさんがかつての勤務校近くの名刹祥泉院の名前を上げる。幼稚園や老人施設を経営している地域に根ざしたお寺。連合町内会の役員の方にも話を通してみたらというアドバイスも。横で聞いていた私は、なるほどそういうものかと納得。   

 

それから2、3ヶ月。愉音の松本さんから、藤沢、鎌倉など4つのお寺でのコンサートの企画を知らされた。電光石火である。その中には円覚寺も入っている。

その嚆矢が祥泉院、藤が丘・青葉台から徒歩20分?バス至近の場所。プログラムには、本堂のきらびやかな飾りと二人の演奏者。こういう構図は今までにないもの。

 

東急田園都市線青葉台駅、7年この辺りをうろうろしていたのだが、ここからバスに乗ったことは一度もない。よくよく見れば大きなターミナル駅だ。始発の東急バスの藤が丘駅行きに乗ると、程なくAさん夫妻も乗り込んでくる。

フリー降車区間というものを初めて見た。この路線の一定区間では、バス停でなくてもピンポーンと押せば、そのあたりにバスが停車、おろしてくれるという。

バスは大通りをぐるっと回って藤が丘駅に向かうのかと思いきや、かなり入り組んだ狭い道路に入っていく。こういうところにフリー降車区間が設定されている。利用者にとっては便利この上なし。

祥泉院前というバス停を降りると、門はあるが、幼稚園の園庭のようだ。迷いながら奥まった方げ歩いていくと、ようやく受付が見えてくる。

受付を済ませて本堂へ。ざっと150脚ほどの椅子。所狭しと並んでいる。アップライトのピアノをこどもたちが代わる代わる弾いている。

奥の方に前々任校で同僚だったOさんが家族できている。二人の娘SちゃんとHちゃんに会うのはコロナ前に拙宅に遊びに来て以来のこと。言われなければわからないほど成長著しい。6年生になったSちゃんはすっかりお姉さんに、まだ幼児だったHちゃんも小学生になった。しばし歓談。

プログラムを見て驚いた。

こども向け、家族向けのスタンダード中心のプログラミングでは全くない。

最初のエルガーの「愛の挨拶」とラヴェルのツイガーヌ、モンティのチャールダーシュやサン・サーンス「白鳥」などの小曲はスタンダードだが、メインとなるパガニーニコダーイの選曲は全く媚びも忖度もない。

 

「愛の挨拶」に続いて、バッハの無伴奏チェロソナタ6番、ドミトリー・フェイギンのチェロ。本堂の高い部分の下で演奏しているせいか、やや音がこない感じはする。若干しっくりしない感もあるが、後半馴染んできたように思えた。

 

続いてパガニーニの難曲中の難曲「24のカプリース」から17番と21番。もちろん無伴奏。コンサートの中で24曲一気に演奏するのは至難の業。聴いている方は飽きないが、演奏する方は24曲をどんなふうに暗譜しているのかといつも考えるほど、複雑で面白い曲だ。

2曲、プロの演奏家としては当たり前のことだが、今日も難なく全く破綻なく弾き切る。

聞けば、昨夜イタリアのクレモナから戻ったばかりだという。プロは飛行機が遅れようが電車が遅れようが、時間には演奏を始めなければならない。疲れなど全く見せない演奏。凄いものだ。

 

そして本日のメイン。

寺コンにコダーイゾルターンを選ぶ。二人の演奏家の矜持が見えるようだ。

西欧の音楽とは明らかに一線を画した民族性あふれる音楽は、どこかアジアの空気も感じさせる。聴いていて愉しくなる。けっしてわかりやすい音楽ではないが、音楽教育の専門家であるコダーイの音楽は、直接こどもたちに訴えかけるところがあるようだ。かなりの数の子どもたちが本堂の中にいるが、思い思いの格好で聴き入っている。

途中、和尚さんが出てきたり、子どもの泣き声が聞こえたり、いつものホールでのコンサートとはかなり趣きの違うものではあったが、十分に楽しめた。

松本絋佳は子どもたちに近くでヴァイオリンの音を聴かせようと会場を歩き回る。ヴァイオリンの生の音をあれほど近くで聴くことはなかなかないことだ。こういうのが寺コンの醍醐味かもしれない。

 

アンコールでは、コダーイのデユオの2楽章を聴かせてくれた。丸ごと全曲を聴いたことになる。