大学の非常勤講師をめぐる2023年問題。
2013年に労働契約法18条が施行され非正規5年(例外的に10年)の継続勤務で、無期転換の申し込みが可能となった。非正規労働者を保護する流れだが、多くの大学ではこれに応じず、一年ごとの契約更改を続けてきていて、10年目となる2023年を前に大量の雇い止めが予想されている。
非常勤講師を無期雇用に転換、終身雇用並みの待遇を保証した場合、経営(大学)側の負担が大きく増える。そのため、長く勤務した非常勤講師を雇い止めし、新たに非常勤講師を雇い入れるという。
ひどい話だ。
信じられない話だが、現在、大学の教員の半数を非常勤講師が占めている。常勤講師でも4分の一が任期付という。
どうしてこんなことになったのか。
私立大学の3割は定員割れ。独立法人化した国立大学も補助金の削減が続いてきた。
かつては、大学に当該科目の専任教員いない場合、他大学の教員が「非正規」として授業を行った。
この場合、専任教員を務める大学の本給があるため、安い賃金でもさほど問題にはならなかった。コネをつくるという意味も併せて、持ちつ持たれつのいわばイレギュラーな存在だった。
ところが財政が厳しくなってくると、教授、准教授などの正規教員の雇用を抑え、非常勤講師を雇うことで経営のバランスをとるようになる。非常勤講師は、今ではイレギュラーどころか大学の経営を支える都合の良い安全弁のような位置にある。
収入はどうだろうか。正規教員の年収は准教授の平均年収は872万円、大学教授の平均年収は約1,100万円(2019年度版の賃金構造基本統計調査)。
これに対し、非常勤講師の平均年収は、300万円程度といわれている。
しかしどうだろうか、300万円稼ぐ非常勤講師がそんないるのだろうか。というのも、非常勤講師はとにかく単価が安い。
私立だと非常勤講師の給与は1コマ90分で月額20000~25000円くらいが相場らしい。 月に4コマあれば時給4000円ほど(私は日大に勤務しているが、月額30000円と少し。他大学より条件としては少しだけよい。交通費は支給される)。
ちなみに横浜市立学校の非常勤講師の時間単価は2548円、週に29時間まで。
どっちが条件的にいいだろうか。
では、授業もちコマ数はどうか。
大学にもよるが、教授のもちコマは国公立で5コマ、私立で6~7コマといわれる。
非常勤講師が年収300万円を確保するには、週に9コマ~10コマを持つ必要がある(25000×10コマ×12月=300000円)。
同じ大学で10コマをもつことなど不可能だろうから、掛け持ちになる。週に90分授業をあちこちの大学を移動しながら10コマもつのは容易なことではない。
それに、10コマの授業はかなりの負担だ。
私はたった一コマの授業を半期15回を担当する。学生の興味、関心を維持するためには相応の準備が必要。私の能力の問題もあるが、一コマの授業の準備に少なくとも5時間はかかる。
たとえ3コマであっても準備の時間はかなりかかるはず。
それでも、非常勤講師の平均もちコマ数を検索すると、9~10コマ、多い人で15コマ、一コマに対する準備時間は2.8時間。労基法の週労働時間規定など軽くすっ飛ばしてしまう時間だ。
非常勤講師は教授などの正規教員の倍の授業を受け持ちながら、3分の1以下の収入で働いている。
同一労働同一賃金の原則に照らせば、理不尽この上ない。
非常勤であっても教授であっても、大学側が授業者として認定した以上は、そこになんら差はない。授業内容に誰も口は出せないし、単位認定も同様だ。
学生からすれば、なにしろ半数が非常勤講師なのだから、4年間の授業の半分を薄給で超多忙の非正規労働者から受けるということになる。
どの世界でもそうだが、教授であってもいい加減な授業でお茶を濁している人もいるし、非常勤でも素晴らしい授業をしている人もいるだろう。
学生なりに授業評価をしているし、実際にアンケートの集計も行われている。
それによって授業改善がなされているかどうかは別として。
そうした有象無象の問題の大枠、外枠が同一労働同一賃金の原則だ。
とすれば、非常勤講師をめぐる待遇の理不尽さは明白だ。
大学の教員の半数が、こうした働き方を余儀なくされている。言い方を変えれば、現在の大学の授業は、薄給と超多忙の非常勤講師によって支えられているということだ。
給与と雇用の不安定をそのままにして、非常勤講師を入れ替えて人材を使い捨てにする大学。
正規教員は非常勤講師をどう見ているのだろうか。2023年を前に正規教員の授業コマ数増をもくろむ経営側もあるという。非正規の職を奪うことが自分たちの労働強化につながっているということをどう考えるのか。
日本の大学の要卒業単位の多さの問題もある。それだけの講義数が必要なのかどうかも。義務制の学習指導要領同様、文科行政は現場にいやおうなく新たな内容を押し付けてくる。
教職課程にしても、私たちが学生だった頃にはなかったものが今ではたくさんある。
施設実習もそうだし、私が受け持っている教職実践演習という授業もかつてはなかった。
この授業、4年生の後期に位置づけて「教員免許が簡単に取れると思うな」というメッセージが込められているように思われる。
事程左様に、授業内容、講義、単位の無節操な増加が、大学のいびつな雇用を生み出しているともいえる。
せっかくの無期転換も機能せず、職を失う危機を前にしている非常勤講師。彼らが後顧の憂いなく適正な量の仕事ができることを望む。
文部行政だけでなく労働行政の面からも2023年問題をクリアする政策を国は提示すべきである。
それと、労働契約法の強化、罰則規定の新設も求められていると思う。