名古屋労基署、市教委に対し非常勤講師の残業時間を適正に把握していないのは労安法違反の疑いと是正勧告。残業代支払いも。

3月14日、名古屋市の労基署が名古屋市教委に対し、非常勤の教員の残業時間を適正に把握していないのは、労働安全衛生法違反の疑いがあるとして、是正勧告を出した。また必要ならば残業代を支払うことも必要とした。

 

https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20200314/3000009512.html

 

4人の非常勤講師が労基署に訴えた結果だ。

まずは4人の行動に敬意を表したい。

私自身現場にいた時に、非常勤講師が身近に何人もいたにもかかわらず、彼らの超過勤務についてほとんど考えたことはなかった。

 

それは、どうしてなのか。自分の反省も含めて、非常勤講師の勤務について少し考えてみる。

 

全国の各地教委では、非常勤講師の勤務条件が定められている。その多くは週単位の勤務時間の上限と時間単位の報酬額である。例えば横浜市(中学)の場合は週18時間(1日の上限7時間)まで単価2500円。

 

授業数をどの程度持つのかにもよるが、週何日勤務するかは、学校の時間割作成にかかわってくる。このあたりに非常勤講師の働きにくさの一因がある。

 

時間割をつくる場合、非常勤講師の働き方のためには、毎日出勤しないで済むように、なるべく一日に何時間かまとめて入れようと考える。

 

しかし、非常勤講師が現場に配当されるのは、ほとんどの場合、正規職員、臨時的任用職員のあと最後であって、その時にはすでに時間割が決まってしまっているケースも多い。

 

スタートから非常勤講師の勤務条件は後回しとなることが多い。

 

 

以下は机上の計算。単純に考えれば18時間を最大限効率的に使うために一日の勤務時間を6時間×3日と考えてみる。こうすれば、他の2日間は別の仕事に時間を充てることができる。

 

授業の配分は3日間に割り振って3コマ((50分授業)ずつ入れれば、授業の合計が9コマ(7時間30分)授業準備の時間が10時間30分となる。

 

しかし、そもそも9コマの授業に対して、1コマ55分(休憩45×3=135分)の準備時間を要するというのは理想に近い。実際には授業時数はもっと多くなるのが普通だろう。15コマあたりが平均的だろうか。そうなると15×50で授業時間が750分。休憩を135分とれば残りは195分。授業準備の時間は一コマ当たり13分ということになる。これで十分な授業準備ができるだろうか。時間が足りなければ超過勤務は避けられない。

 

 

教科の特性というものがある。どの教科を担当するかで非常勤講師の労働はかなり変わってくる。

週時数の多い教科、例えば国語など5科目の場合と、技術家庭科や音楽、美術など週時数の少ない教科では扱いが変わってくる。他の教員のさまざまな条件が入ってくるので、曜日によっては1日に1時間しか授業が入らない場合もでてくる。勤務時間がかなり効率が悪くなる。実際には、時間割の都合で4日出勤ということにもなる。たった1時間の授業のために出勤ということもありうる。

 

また、祝日によって、その曜日の授業が足りなくなれば、入れ替えによる平均化が行われる。すると、決められた曜日、決められた時間というリズムがつくれなくなる。

さらに、スライド方式によって授業時数の平準化をとる学校では、毎日時間割りが変わるから、非常勤講師の勤務は同じようにスライドになる。

何曜日に出勤するかは確定せず、副業は難しくなる。

 

さて本題の超過勤務について。

 

教員の勤務は授業だけではない。教科によって違いはあるが、年に数度の定期試験がある。そのための問題作成、採点、成績処理の事務という業務が発生する。これを通常の勤務時間内でこなすのはかなり大変なことだ。

 

これも教科によって違いがある。40人のクラスを4クラス持つ国語の場合もあれば、40人のクラスを12クラス持つ美術の場合もある。技術・家庭科などは、試験の内容は別なのに評定は一緒に出さなければならないという教科も。500人近い人数の成績を一人4観点で出し、そのうえ評定も出すのは事務的な作業としてはかなり煩雑なものになる。

 

当然、超過勤務となる。

 

しかし、一般正規教員はもちろんのこと、管理者である校長、副校長のアタマのなかに

 

「非常勤講師が超過勤務をしている。超過勤務手当を支給するために時間管理が必要」

 

という発想は、ない。非常勤講師の超過勤務という概念がもともとないのだ。

 

「みんな試験前後は大変だよね」で終わりである。

 

非常勤講師は時間契約。きまった時間に対し報酬が支払われる。それ以上は、自発的勤務と考えられてきた。

 

どうしてこうなってしまうのか。

 

正規教員あるいは臨時的任用教員には労基法36条37条が適用されず、給特法によって、給与の4%があらかじめ支給されるかわりに、いくら超過勤務をしても割増賃金が支給されないことが大きい。

非常勤講師に超過勤務があっても、例えば遅くまで残って試験問題などをつくっていても、「あなたは今残業になっているから、その分は当然超過勤務手当が出るよね」とは誰も考えない。そもそも超過勤務手当という者を正規教員矢臨時的任用教員はもらったことがない。

教員には給特法が適用されるけれど、非常勤講師には適用されるとかされないとか、考えが及ばない。時間契約なんだろうと考えているだけ。

 

原則的に労基法が適用される、なんてことも考えない。

おなじように試験問題をつくり、採点をし、成績処理をする。その点では教科を担当している以上は、「おんなじだよね」となってしまう。

 

 

非常勤講師が、労基法が適用される労働者であるということが周知されていないことがいちばんの問題だし、そもそも雇用者である地教委がそういう発想がないことが問題だ。

 

私自身、そういうふうに意識がはたらかなかったのも事実だ。同じように給特法体制に取り込まれていたのだと思う。

 

非常勤講師用の超過勤務手当を予算化している地教委など、たぶんほとんどないのだろう。

 

非常勤講師の中には、毎年採用試験を受験している人も多い。

時間に関係なく良く働くという印象が、もしかすると次の採用試験に有利に働くかもしれない。

「僕の方からもよく云っておくから」などとカラ証文を切る校長もいる。

 

校長から「部活動、ちょっと見てくれないか」と云われて、1年間部活動の顧問をしている人もいる。むろんタダ働きである。

「好きだからいいんですよ」という人もいる。

周りの教員も

「助かるよねえ」

生徒は生徒で

「先生、もっと部活に出てきてください」

なんて云う。

 

何が問題か。

労働時間規制というものが学校のなかに効いていないことだ。

元をただせば、給特法である。

給特法が労働時間規制の概念を学校から奪ったのだ。

 

 

名古屋労基署の動きを引き出した4人の非常勤講師の人たちが示してくれたものは大きい。

この報道を見た各地教委の担当者は、さぞかし驚いていることだろう。

でも、一番驚いてほしいのは、非常勤講師と一緒に働いている現場の先生たちだ。