3度目の家宅捜索。理事長室から紙袋に入った7000万円、ちゃんこ従業員宅から2400万円。日大、理事全員辞任。田中理事長は解任。学生は泣いている。

日大理事長の田中英寿容疑者が逮捕されてから、さまざまな動きが表面化してきている。

11月30日には現役、OB教職員らが大学改革を求めてネット署名を始めた。理事長を含む理事全メンバーの辞任を求めている。

これを受けてかどうかは別として、12月1日、田中容疑者が理事長辞任を弁護士を通じて大学側に伝えた。併せて加藤直人学長以外の理事も全員、辞任願を提出。

理事職は辞任しない旨を伝えていた田中容疑者に対して、12月3日、理事会は田中容疑者の理事解任を決議。これで全理事が辞めたことになる。

2日、東京地検特捜部と東京国税局が3回目の家宅捜索。田中容疑者の自宅など20か所の関係先を捜索した。「ちゃんこたなか」の従業員宅から2400万円の現金、理事長室からは紙袋に入った7000万円が見つかるなどこれまで2億3000万円の現金が秘匿されていたことになる。脱税額はさらに増えるということになるだろう。

 

学生の動きとしては、法学部の1年生が「運営体質改善」を求めてTwitterで署名を呼び掛けた。

署名の自由記述欄には

「入学を後悔している」

「わたしたちの学費はどこに行ったのか説明してほしい」

「事件のことで友人にいじられ、その場では笑っても内心はつらかったり、大学からのメールに「元理事の起訴」「理事長の逮捕」などの強い言葉が並ぶのが精神的にきつい人もいる」

 

今までなんの説明もしてこなかった文理学部

ホームページで紅野謙介学部長が6日、学生、教職員にメッセージを伝えた。メッセージは以下の通り。

 

【学部長メッセージ】

         正義と自由の旗標のもとに

                           2021.12.06

 

                        文理学部紅野謙介 

 

 人生にはさまざまな失敗や挫折がつきものです。取り返しのつかない失敗をおかすこともありますし、分厚い壁に跳ね返され、苦渋をなめることもしばしばあります。

 

 人も組織も同じだといえますが、それにしても本学で起きた不祥事はあまりにも衝撃的な事件でした。本学の理事長が所得税法違反の容疑で逮捕されたのです。本人は容疑を否認しているので、真偽はまだ分かりません。9月の家宅捜索から始まった一連の事件との関連もあるとも言われています。

 

 この緊急事態を受けて、12月1日、臨時理事会で理事長辞任の申し出を受け入れることが決定され、加藤直人学長が理事長を兼任することになったのです。加藤学長は、私の前任者であり、前文理学部長です。学長との兼任は並大抵の仕事量ではありませんが、創立以来の危機に際して、大学再生と名誉回復に全力で取り組むことを約束されました。そこでまず常務理事、副学長、理事全員の辞職願を、新理事長に提出し、新たな役員が決まるまで暫定的に業務を行うが、新体制が確定したところで交替することを決めました。さらに、その2日後の12月3日の理事会では、前理事長の理事職を解任する案も提起され、審議の末、可決されました。

 

 さて、これからが重要です。このように立て続けに事件が起きたわけですから、どこに禍根があったのか、構造的な要因は何か、なぜ防げなかったのかなど、徹底的に分析し、改革プランを作っていかなければなりません。ようやく、その端緒についたというのが現段階です。

 

 今後、理事の選出や理事長の選任,学長制度の適否,またその選出・選任方法などについて、見直すことがあると思います。まだ、協議が始まったばかりですので、明確には申し上げられませんが、事件調査の結果報告、組織改革の計画やスケジュールなど、十分に議論をつくして公表していくことになるでしょう。何よりも透明性と民主的な手続きが必要だと考えます。

 

 私自身、学部長また専任教員としての任期はあとわずかで、その間にどれほどのことができるかまだ見通すことはできませんが,多くの教職員,学生の皆さんと協力して、組織改革と大学本来のプライドの回復に向け、最大限の努力をしていくつもりです。

 

 それにしても今ほど、言葉が空しく聞こえるときはありません。本学の校歌に「正義と自由の旗標のもとに 集まる学徒の使命は重し」という一節があります。「正義と自由」、今はその言葉が空虚に響きます。「自主創造」という言葉も、ほんとうにひとりひとりが自主的、創造的であったか,従順な機械になっていなかったかを問い直さないと、無意味なスローガンで終わるでしょう。しかし,形だけになった言葉を、実質あるものにするのはやはりそこに関わる人々です。ひとりひとりは愚かで弱い、無力な存在ですが、その愚かさや弱さの自覚に立ちながら、言葉を実のある言葉にしていかなければなりません。失敗と混乱から立ち直るなかでこそ人の真価が問われる。このことを心に刻み、これから先の緊急対応に当たって行く所存です。ひきつづき注視していただくとともに、学生、教職員の皆さんが落ち着いて勉学や仕事にあたられることを望んでいます。

 

 なお、在学生のみなさんでこの件により、不当な言葉を投げかけられたり、不当な扱いを受けたりした場合は、各所管課の窓口にご相談ください。

 

 

 

学部長は、近代文学の研究者であるだけに、形式的なメッセージとはならずに、自らの心情も含めて言葉を選びながら丁寧な説明を試みているように読めた。

特に後段の「今ほど、言葉が空しく聞こえるときはありません。」からはじまる部分では、今後の大学改革の決意の重さが感じられる。

ただ、あえていうならば、一般的な改革に向かう気概は感じられても、長かった田中体制に対し、大学幹部の一人として結果的に無力であったことの総括が見えてこない。「失敗と混乱から立ち直るなかでこそ人の真価が問われる」というならば、まず自ら「失敗」と「混乱」の渦中にあって無力非力であったことを表明すべきではないだろうか。

 

学生が辛いのは、自由記述欄にあるように、事件のことで友人、知人にいじられることのようだ。その場は笑って過ごしても、彼らのプライドは深く傷ついてる。その雰囲気が痛いほどよくわかる。

私が担当している4年生は、1年生の時にフットボール部問題があった。2度の不祥事にコロナ禍による大学生活の崩壊、その上、今またつまらぬいじりを受けざるを得ない立場に。

気の毒としか言いようがない。

授業の始まる前に私は、毎回新聞記事を示し、事件の詳報を学生に伝えている。

残念ではあるが学生たちに、自分と地続きのこの事件から目を背けてほしくないからだ。

彼らは黙って聴いているだけだ。オンライン授業だから、その表情からは伝わってくるものはないのだが、個別のリフレクション用紙には時々つぶやきのようなものが書かれている。

「大学には何も期待していない」「もう忘れたい」といった言葉が並ぶ。

 

昨日の授業で「法学部の一年生が署名活動を始めたよ」と伝えた。

見ようとしなければ何も見えてこない。

顔をあげて、思いのたけを署名に記してほしいと思うのだが。

 

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