『消えない罪』筋立ては珍しくないが、ドイツ生まれのまだ38歳の女性監督ノラ・フィングシャイトが、サンドラ・ブロック、ビオラ・デイビスと火花を散らして(たぶん)つくり上げた傑作。

映画備忘録 12月6日

 

『消えない罪』(2021年製作/112分/G/イギリス・ドイツ・アメリカ合作/原題:The Unforgivable/監督:ノラ・フィングシャイト/出演:サンドラ・ブロックビンセント・ドノフリオ/ビオラデイビス/劇場公開11月26日・netflixで12月10日から公開)

 

過去に犯してしまった殺人の罪で服役し、20年の刑期を終えて刑務所から出所したルース・スレイター。しかし、罪を償って社会に出たはずの彼女を待ち受けていたのは、過去の罪が許されない世界だった。社会に溶け込むことができずに孤立し、安息を求めて訪れた故郷の地でも厳しい批判にさらされ、行き場をなくしていくルース。そんな彼女が罪を償うことができる唯一の手段は、昔、とある理由で置き去りにしてしまい、離れ離れになってしまった妹を捜すことだった。サンドラ・ブロックが主演のほか製作も務め、2019年・第69回ベルリン国際映画祭銀熊賞アルフレッド・バウアー賞)を受賞した「システム・クラッシャー 家に帰りたい」で注目されたドイツの新鋭ノラ・フィングシャイトがメガホンをとった。

 

読めばわかるように、筋立てとしては珍しいものではない。なのに、映画は一瞬も緩むところがない。

劇中、サンドラ・ブロックが笑顔らしいものを見せるのはほんのわずか。重苦しい彼女の表情の中に隠されているのは、過去をもつ殺人者の諦念と激情ではないかと見せかけて物語は進む。

音楽はほとんど流れない。しかし暗く静かな通奏低音が終始スクリーンの中に流れているような画面だ。

年の離れた妹を育てていたルースは、父親が死に、行政は妹を里子に出すことを決定、ルースから引き離そうとするが、その執行過程でルースは説得を重ねる保安官を銃で撃ち殺してしまう。

殺人犯として服役していた20年間、ルースは妹のことを片時も忘れず、里親に向けて手紙を書き続けている。

仮釈放後、ルースはシアトルに戻るが、自分が希望する大工の仕事には就けず、水産加工の仕事に就く。住むところは一部屋に4つのベッド。トイレもシャワーも共用だ。

かつて住んでいた、惨劇の舞台となった自宅跡を訪れると、そこに住んでいたのは弁護士一家。ルースは事情を隠して弁護士に妹探しを依頼する。

 

一方、殺された保安官には二人の息子がいた。母親は長く臥せっている。兄のほうは、自分たちの家庭を壊したルースが、釈放されてふつうの生活をしているのが許せない。何とかして仇を討ちたいと弟に伝える。弟のほうは結婚して子どももおり、兄の仇討ちには否定的だ。

結果的に、この弟が終盤でルースを呼び出し、銃で脅し、ルースの妹を‥‥。

ここまでに至る展開がきわめて周到。

 

里親一家は、ルースの妹とその妹にあたる二人の娘がいる。

ルースが出所する日に、妹は交通事故を起こす。母親はその偶然におののくが、父親は意に介さない。たとえルースが探し出しても娘を会わせるつもりもない。

この夫婦の心理の微妙なずれが精妙に描かれている。母親の演技が素晴らしい。

 

弁護士は里親を見つけ出し、ルースとの面談までこぎつける。そこでルースは…。

 

水産加工会社でルースに近づく男がいる。盆栽の好きな穏やかそうな男だ。カフェで付き合ってほしいと言われ、ルースは隠していた過去を話してしまう。

男は強いショックを受ける。ルースは唇をかみしめて出ていく。

次の日、水産加工会社に出勤したルースは、警察官の息子に暴行を受ける。昨日の男がルースの過去をばらしたためだ。

ルースは絶望し、男を無視するが‥。

 

件の弟は、兄の仇討ち話が気にかかり、ルースがダブルワークで働いている高齢者の施設の建築現場に足を運ぶ。

そこで、弟はルースが書いた妹の手紙を読んでしまう。

弟の心に火が付く。自分たちは父親を殺され、母親は寝たきりなのに、あいつにはなぜ希望があるのだ、と。

 

一方、里親家庭の義理の妹は、ルースのことを話す両親の会話を盗み聞きしてしまう。

家の中を探索し、ルースの書いた大量の手紙を見つける。

妹はなんとかして姉をルースに会わせたいと、直接ルースに会いに行く。その場面をルースをつけ狙う弟に目撃される。この娘をルースの妹と思い込んだ弟は…。

 

こうして最後のシーンに向かうのだが、この物語の最も重要な核については触れていない。

この「核」となるシーンを、サンドラブロックと弁護士の妻役のビオラデイビスが好演している。過去のシーンをフラッシュバックさせながら一気に核心に向かうこの映画の最も素晴らしいシーン。

 

筋立てがありきたりでも、これほど求心力のあるドラマが展開されるのには驚いた。

ドイツ生まれのまだ38歳の女性監督ノラ・フィングシャイトが、サンドラ・ブロックビオラデイビスと火花を散らして(たぶん)つくり上げた傑作。

 

それにしても劇場公開から2週間でnetfrixで公開とは。話題となること間違いないだろう。

 

 

画像1