ドキュメンタリー映画、1日3本。『ブックセラーズ』『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』そして『14歳の栞』

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『14歳の栞』から

映画備忘録。

 

往復の交通費を考えると、映画1本見て帰ってくる気にはなかなかなれない。食事や休憩時間を調整して3本見ることもある。一日仕事である。いや仕事ではないが。

 

 

6月15日、あつぎのえいがかんkiki。3つのスクリーン。77席、28席、53席。1日15本の映画を上映している。自分なりのライアンプを並べてみたら、この日は3本ともドキュメンタリーに。傾向は全く違うが、こういうこともある。

 

 

1本目。

 

『ブックセラーズ』2019年製作/99分/アメリカ/原題:The Booksellers/監督:D・Wヤング/2021年4月日本公開)

 

 

世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側からブックセラーたちの世界を捉えたドキュメンタリー。業界で名を知られるブックディーラー、書店主、コレクターや伝説の人物まで、本を探し、本を売り、本を愛する個性豊かな人々が登場。さらに、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落としたレオナルド・ダ・ビンチのレスター手稿、「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿、「若草物語」のルイザ・メイ・オルコットが偽名で執筆したパルプ小説といった希少本も多数紹介する。ニューヨーク派の作家フラン・レボウィッツが辛辣ながらユーモアあふれる語り口でガイド役を務め、「カフェ・ソサエティ」などの女優パーカー・ポージーが製作総指揮とナレーションを担当。

                      映画ドットコムから

 

 

 

どうしてもこれを見たいというわけではなかったが、知らない世界をのぞいてみたいと思った。

 

映画は、書店主やディーラーがかわるがわる延々と質問に答えるだけ。もちろん、希少本というか稀覯本も出てくる。それらと人々と無数の本がつくりだす独特の雰囲気が映画をつくっている。

本に対するすさまじいばかりの人々の執着ぶり見ていてよくわからない。買い集めるだけ集めて、誰にも渡したくない、そのまま死ぬという人もいれば、あとは野となれ、死んだらそれまでという人も。

 

日本の希少本市場というのもあるのだろうが、私は知らない。ニューヨークのブックフェアに流通する商品の多くは、せいぜいが17~8世紀のものだろうが、日本の場合、はるかに長いタームでの発見、発掘、流通があるはず。図書館というより美術館も含めたニューヨークのような執着渦巻くような世界があるのか、どうか。

 

途中から、映画に入っていけないことに気がついた。本への執着が語られれば語られるほどにしらけた気分に。眠気にも誘われた。結局、私は希少本などに対する関心や執着が薄いということだろう。見ていて手にとってみたいとは思わないし、所蔵してみたいとも思わなかった。

これはたぶん生きる意欲の減退。所有欲、金銭欲、性欲・・・そういうものが人を生に駆り立てる。私に残っているのは・・・。まあいいだろう(笑)

 

 

 食餌休憩小1一時間を挟んで2本目

 『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』(2020年製作/83分/アメリカ/原題:Denise Ho: Becoming the Song/監督:スー・ウイリアムズ/出演:デニス・ホー/2021年6月日本公開)

  

香港ポップス界のスーパースター、デニス・ホーが、アーティストから民主活動家へと変貌していく様を長期密着取材で追ったドキュメンタリー。2014年、警官隊の催涙弾に対抗し、雨傘を持った若者たちが街を占拠したことから「雨傘運動」と呼ばれる香港の民主化デモ運動に、香港を代表するスター、デニス・ホーの姿があった。同性愛を公表する彼女は、この雨傘運動でキャリアの岐路に立たされていた。彼女は中心街を占拠した学生たちを支持したことにより逮捕され、中国のブラックリストに入ってしまう。スポンサーが次第に離れていき、公演を開催することが出来なくなった彼女は、自らのキャリアを再構築するため、第二の故郷であるモントリオールへと向かう。

 

                        映画ドットコムから

どうしても雨傘運動以降の香港の状況とデニス・ホーの逮捕と変遷に焦点が行きがちだが、この映画は、1997年のイギリスによる香港返還とそれに伴う香港社会の変化、中国政府の執拗な政治介入、一国二制度の有名無実化という状況のなかで、デニス・ホーとその家族の来歴をきちんと追っていて、デニス・ホーの家族史でもあり、一人のアーティストの優れた個人史でもある。

単なる民主化のシンボルとしてのシンガーデニス・ホーではなく、もっと厚みと深さのある人間としてのデニス・ホーが描かれている。

 

香港に生まれ、カナダに移住し、音楽に目覚め、再び香港に戻り、歌手となるデニス・ホーにとって、自分が基盤とすべき場所はどこなのかという問いは、政治化する香港の状況だけでなく、自分自身の中にあるジェンダーの違和感とも重ねあうものだった。

 

雨傘運動の中で同性愛をカミングアウトし、中国からの締め出し、弾圧の中で、自分を解放し、香港の独立を守るためにすさまじい勢いで歌い、活動するデニス・ホーの姿は美しい。驚くのはデニス・ホーが、運動のシンボルとして祭り上げられるアーティストではなく、催涙弾の飛んでくる街頭で人々とともに闘う活動家であることだ。インタビューにこたえている最中に、後ろから紙にペンキのようなものをかけられても、ひるまず話し続けるデニス・ホー。

 歌っている姿も美しいが闘っている姿はもっと美しい。

いまだ続く中国本土の抑圧への闘い。市民運動は一部が暴徒化していくことが避けられず、長期化する中で運動の力を減殺させていくのを香港政府と中国共産党中央はじっと待つ。非人間的なやり方への怒りを持続させるためにデニス・ホーは国連でも演説し、街頭でも無用な衝突を避けるよう軍に対しても説得を続ける。

 

映画をつくり、上映することが香港のへの国際連帯を形成する。30年近いデニス・ホーの人生と大衆的な反中国、香港独立を求める民衆のエネルギーをしっかり見せてくれる稀有なドキュメンタリー。

 愛国心とは、自治と独自の文化を求める精神だということがスクリーンからほとばしる。

 

国の政策を批判したり、隣国の民衆と穏やかな切り結ぼうとする行為に対して目ざとく「反日」というレッテル貼りとヘイトスピーチを繰り返すこの国の愛国心を標榜する政治家や活動家たち、彼らの「愛国心」に最も欠けているものが香港の反政府、反中国の運動にはある。それは徹底して自治を追い求めようとする情熱だ。

他国の軍隊が76年も駐留し、新たな基地づくりに手を貸す政府にノーと言わない「愛国心」ってなんだ?

  

台湾やチベットウイグル自治区など国内外の自治を求める人々の抵抗を武力で弾圧しようとする中国共産党

 

香港の闘いは終わっていない。無責任なイギリスと本土化を推し進める中国の間で、民衆の抵抗はつづいている。デニス・ホー、負けるな。

 

 

 

3本目

 

『14歳の栞』2021年製作/120分/日本/監督:竹林亮/2021年3月公開)

 

こういう映画が成立するとは考えもしなかった。

「誰もが通ってきたのに、まだ誰も観ることができなかった景色」

という惹句に意表を突かれる。

中学2年の3学期。ある中学の35人を追った映画。

 

あいまいで不定形という14歳のありのままがほぼそのままスクリーンの中に定着した。

不登校の生徒や車いすの生徒、問題を抱えた生徒に焦点をあてない。カメラと中学生は等距離だ。

教員の存在は、薄い。教員は自意識過剰になりやすい。このぐらいの見られ方がちょうどいいバランス。少しだけ浮世離れしていて、人がいい。

 

一人ずつ紹介し、インタビューをする。名前と年齢と部活動。年齢はほとんど一緒なはずなのに「分からない」とこたえる生徒のいる可笑しさ。

 

所属する「部活動」を聞くのは、映画をつくる側が決めたのか?

いわゆる特別活動、各種の委員会や生徒会活動、行事づくりはほとんど出てこない。出てくる行事は年度末の学級対抗の球技大会。生徒総会も修学旅行も出てこない。校外学習が少しだけ。

部活動が14歳のこころとからだに占める大きさ。批判はいくらでもできる。

あとは人間関係。

 

これが今の中学生の自然なありようなんだろうなと納得させられる。

親も教員も「できるだけのことやってあげたい」。

大人に対してそこそこの感謝の気持ちをもつ中学生。

それでもあいまいで不定形であることにはかわらない。

 

校長が出てこないのもいい。

教育委員会がよく映画制作を認めたものだ。

 

共に育つ論の学校を上げての実践を描いたドキュメンタリー『みんなの学校』(2015年)とも全く違う。

大胆な学校改革を校長が推進したと言われる麹町中学の工藤勇一氏とか、日本一自由な学校を実現したと言われる世田谷区の桜丘中学の西郷校長を題材とした映画とも全く違う。

 

この映画は、教育問題や学校問題をテーマにしていないということだ。

 

だから中学生はテーマに応じて上手に自分の役割を果たしたりしない。

 

これほど学校がさまざまな問題を抱えていながら、この14歳、たぶんに普遍的な14歳は日本中であいまいで不定形であり続けている。

 

意図してつくられていない、ありのままの放縦さ、そんな中学生をよくもまあ彫り出したものだ。

数ある学校を描いた映画のなかで、稀有な映画だと思う。もちろんいい意味で。

 

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