『火口のふたり』(2019年・荒井晴彦監督作品)間違いなくこれが彼の代表作品の中でずぬけていると思う。長い間映画をつくってきて今が一番いいってすごいことだと思う。

文科省が小1、小6、中3の3学年の登校を先行させる案を選択肢として示す方針を固めたとの報道があった。

 

3月の全校一斉休校の愚をふまえて、政権、文科省としては、登校の可否の判断は各自治体に任せるとしたのだから、あまりよけいなことは云わない方がいいと思う。

 

簡単に自治体ごとの事情の違いというが、それは大変な違いだ。自分が住んでいるところがみな当たり前と思っているが、そんなことはない。「密」になることなどまずない「疎」しかない地区もあれば、どんなことをしても「密」は避けられないところもある。

 

それぞれ、現場を見て知っている人が判断をすればいい。机上で考えた選択肢は無用。

 

いちばん上の孫が小1である。私たちの孫とは思えない、なんでも積極的にやろうとする子だ。早く学校に出してやりたいとは思うが、一方で感染が広がって罹患したりすることがあると・・・と考え込んでしまう。

このままでいいわけではないのだが、こうした状況は数十年に一度あるかどうかわからないもの。通常の思いや発想だけで判断しない方がいい、というのが結論ではある。

 

さて、薄暮シネマも佳境に・・・いやいや終わりが見えないのだからどこが佳境かはわからない。

ただ、ヒマでヒマでどうにもならないとか、手持無沙汰でこまる、ということがない理由のひとつがこの薄暮シネマ。

 

昨日は、LINEで友人から『渚のシンドバット』(1995年)を紹介したブログを見て、これに担任をもった卒業生が出ているとのメール。登場人物の中では重要な役回り。

今はやや不遇をかこっているようだが、「名作に出られてよかった。それだけでも立派な経歴です」と返信。

 

さて最近の4作。

★    時間の無駄だった。

★★   あえて見なくてもよかったけど…。

★★★  まあまあ愉しめたかな。

★★★★ 見応えあり。いい時間だった。

★★★★★ 素晴らしかった。時間を忘れて見続けた。

 

『火口のふたり』(2019年/115分/R18+/日本/監督:荒井晴彦/出演:柄本佑・瀧口公美/レンタル:500円)★★★★

2019年のキネマ旬報ベスト10のトップの作品。面白いことに読者賞ではベスト10にも入っていない。評価はさまざま。

画面に出てくる人間は二人だけ。柄本明が電話で佑の父親役で出演するだけ。三分の一ぐらいが二人のセックスシーン。

原作は白石一文。いろんなものに挑戦する面白い作家。これは読んでいないが、たぶんいい作品なのだと思う。セックスをしていないとき(時にはしているときも)に語られる二人から紡ぎだされる物語。男が女にもつ、あるいは女が男にもつ、人間が人間にもつ幻想のようなものがこわされていくが、それでも二人の間に熾火のように残り惹かれ合うものがある。震災、原発事故、新型コロナなど人知を超えたものに翻弄される人間からよけいなものをみんな取り去ったら・・・。こういうかたちでの表現があるのだなと思った。

見ている方の想像力を刺激し、高めてくれる。映画としてとってもいい作品だと思った。

監督の荒井晴彦若松プロの助監督出身。最近は『幼な子われらに生まれ』『さよなら歌舞伎町』『この国の空』『海を感じるとき』『大鹿村騒動記』、古くは『遠雷』『不連続殺人事件』ほか日活ロマンポルノを含めてたくさん見てきたが、間違いなくこれが彼の代表作品の中でずぬけていると思う。長い間映画をつくってきて今が一番いいってすごいことだと思う。

 

『ぼくたちの家族』(2014年/117分/日本/監督:石井裕也/出演:長塚京三原田美枝子妻夫木聡池松壮亮)★★

 

キャストがよいのと、映画ドットコムもyahoo映画もどちらも3.8と3.85という高ポイントだったので選んだが、私としては外れ。家族のきずながテーマなのだろうが、ディテールが杜撰でテーマに迫りきっていないと思った。池松壮亮はじめ役者はみないいのに、何か伝わってこないのは脚本のせい、演出のせいでは?

 

ヒトラーの忘れもの』(2015年/101分/デンマーク・ドイツ合作/原題:Under sandet デンマーク語で「砂の下」/監督:マーチン・ピータ・サンフリト /出演:ローラン・モラー ルイス・ホフマン/2016年日本公開)★★★★

 

終戦直後のデンマークを舞台に、地雷撤去を強制される敗残ドイツ軍の少年兵たちの過酷な運命を、史実に基づいて描いた。第2次世界大戦後、デンマークの海岸沿いに残された無数の地雷を撤去するため、元ナチス・ドイツの少年兵たちが連れて来られる。彼らを指揮するデンマーク人軍曹はナチスに激しい憎しみを抱きながらも、無垢な少年たちが次々と命を落とすのを見て良心の呵責にさいなまれるようになっていく。2015年・第28回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、軍曹役のローラン・モラーと少年兵役のルイス・ホフマンが最優秀男優賞を受賞した(映画祭上映時タイトル「地雷と少年兵」)。」(映画ドットコムから)

 

軍曹役のローラン・モラーの演技がすばらしい。シチュエーションは戦後だが、まごうことなき戦争映画。邦題『ヒトラーのわすれもの』は、情緒的に過ぎる。デンマーク語のタイトルが無機質で良い。ヒトラーが忘れたのは地雷ではなく、人々、とりわけ少年兵たちの心だ。

 

『帰郷』(2019年/119分/日本/監督:杉田成道/出演:仲代達也・常盤貴子中村敦夫)★★★

 

日本映画専門チャンネルの無料放送で見た。

とにかく仲代達也に限る。なんて役者だ。全編出ずっぱなし。

中村敦夫もよかった。素でテレビなんかに出てくると少し疲れた老人なのに、老人役で出てくるとしっかり脂ぎった悪役の老人。これも素晴らしい。

常盤貴子が小さいころ別れた娘という設定は、いくら江戸時代でも無理がある。祖父と孫ならわかるが。途中少し飽きてしまったが、最後までみたのは仲代達也の演技のすごさ。杉田監督は日本映画の名手、『北の国から』の監督。

後半に至るまで琵琶の音が効果的に使われている。仲代達也の感情の揺れが琵琶とうまく絡まっている。後半、突然ピアノの音になり、最後はモーツアルト『レクイエム』の冒頭が流れたのはしらけた。