『私の叔父さん』絶妙な佳品。 『春江水暖』実在する家族のドキュメンタリー見ているよう。 『記憶の技法』タイトルに惹かれてしまった。

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14日(火)

久しぶりの映画へ。時間がかかっても、にぎやかな横浜近辺に足を向けたくない。

そうすると、駅前の109シネマズか小田急沿線の新百合ヶ丘か本厚木のkikiということになる。

 

kikiから毎月送られて来るラインアップを見ながら、考えあぐねる。

イラン映画を2本続けてみるか、それとも邦画、中国映画、デンマーク映画と3本はしごするか。

 

イラン映画も捨てがたいが、今日は後者に決定。本厚木に行く方法は3つ。バスで小田急鶴間駅、バスで東急田園都市線南町田グランベリーパーク駅、バスで相模鉄道瀬谷駅。歩けるのは南町田。 

 

瀬谷駅に出てみることにする。

瀬谷区民ではあるが、北の一番はずれ、100㍍も歩かずに町田市と大和市というところに住んでいるので、瀬谷区の中心、瀬谷駅三ツ境駅に出ることはほとんどない。区役所か図書館に用事があるときぐらいだ。

 

歩いて10分くらいのところに八幡神社前というバス停があって、ここを通る鶴間駅瀬谷駅のバスは1時間に多いときで7本、本数が多い。マークスプリングスー瀬谷駅の直通は朝と夕方は1時間に4本ほどあるが、日中はほぼ消えてしまう。

 

しかしうまくつながればこの直通瀬谷駅が一番近い。

 

8時08分発のバスに乗り、本厚木9時前。かなり早い。

歩いて5分でkiki.

ビルの9階。眺望の素晴らしい映画館。晴れていると大山・丹沢の山並みが近くに見える。

チケットを3枚買ってしまう。1席空きの販売だが満席になることはまずないのだが、今日は火曜日。ポイント2倍の日。7ポイントで招待券。

いつもはこの時間閑散としているのに、すこしにぎわっている。

 

1本目。

『記憶の技法』(2020年/105分/日本/監督:池田千尋/出演:石井杏奈・栗原五郎/2020年11月27日公開)

 

監督の池田千尋の映画は今まで一本だけ見たことがある。クリーピー偽りの隣人』(2016年)のみ。ホラーの原作を読んで見に行ったのだが、はずれだった。ホラーになっていなかった。今回はついタイトルに惹かれて選んでしまった。先は見えてるのにリズムが合わないというか、もたもたと感じてしまってつまらなかった。石井杏奈という役者も今一つ。栗原五郎は雰囲気があった。

 

食事をして2本目。

『春江水暖』(2019年/150分/中国/原題:春江水暖 Dwelling in the Fuchun Mountains(富春山居図)/監督:グー・シャオガン/日本公開2021年2月)

 

大河・富春江が流れる街・富陽の美しい自然を背景に、変わりゆく中国社会の中で懸命に生きる大家族の四季を描いた人間ドラマ。中国のグー・シャオガン監督の長編デビュー作で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。再開発のただ中にある杭州市の富陽地区。顧家の家長である年老いた母の誕生日を祝うため、4人の息子や親戚たちが集まる。しかし祝宴の最中に母が脳卒中で倒れ、命は取り留めたものの認知症が進み、介護が必要になってしまう。飲食店を営む長男、漁師の次男、ダウン症の息子を男手ひとつで育てる三男、気ままな独身生活を楽しむ四男ら、息子たちは思いがけず、それぞれの人生に直面することになる。日本でも2019年・第20回東京フィルメックスコンペティション部門で審査員特別賞を受賞。

 

食事のあとだったせいか、それとも独特の淡い画面のせいか、最初の20分ほど気を失っていた。

あらすじ通りの映画。

日本とは違う家族の風習、考え方、人間関係の濃厚さが物語の底にあって、しかし時代に合わせて変化せざるを得ない家族間の親密さと酷薄さ。差し込まれる再開発で変わり始める富陽地区の変化と重ね合わさりながら、慌てずにじっくりと描かれている。

 

つくりものなのに、感情表現がナマというかリアルでストレートなので、ついどこかに実在している家族のドキュメンタリーを見ているような気分にさせられた。人物造形がに優れているというか、並々ならぬ存在感、リアリティ。

150分。はじめは寝てしまったけれど、長いとは感じなかった。

 

3本目はデンマーク映画

『私の叔父さん』(2019年/110分/デンマーク/原題:Onkel/監督:フラレ・ピーターゼン/出演:イェデ・スナゴ― ペーダ・ハンセン・テューセン/日本公開2021年1月29日)

 

 傑作だと思う。

セリフが極端に少ない。最初のセリフが出るまで10数分かかったか。音楽も、ほとんどはいらない。半分過ぎてから思い出したように、しかし絶妙のタイミングで入る。そしてまた消える。エンドロールのも音楽はない。画面全体がやや薄暗いのは照明を使わずに自然光で撮っているからだろう。それと自然の風景を撮るときの明度が同じで、はっとするほど美しい。登場人物はほぼ4人。叔父と姪のかわす自然なほほえみ、ユーモアがグッとくる。

日常生活ってこういうものかな。

こんなふうに思いの強さを表現する映画はあまり見たことがない。

あらすじもラストひとつ前の衝撃的なシーンも何も書かない。

これぞ映画なんて言うつもりはないけど、そっとさし出された佳品。

ぜひ見てください。

原題のOnkelは、叔父さんのこと。英語のUncle、発音は何度聞いても再現できない。