先般、働き方改革法のなかで、高度プロフェッショナル制度の導入が決まった。
数年前に廃案となったホワイトカラーエグゼンプション制度とほぼ同じもの。
ネーミングの変更は官僚の悪知恵の産物。
中身は同じでパッケージを変えただけの代物。
年収1075万円を超える専門職を対象に、労基法の時間規制を外す、つまり有能な高給取りサラリーマンには、残業手当という制度はなじまないから残業手当は支払わないという制度だ。
こうした法案が、ネーミングを変えてどさくさのうちに通ってしまう。現在の国会ではよくあること。まっとうな議論は避けられ、数と雰囲気で簡単に通ってしまう。
すでに裁量労働制や変形労働時間制によって、雇用者が法定残業代を支払わなくてもすむ制度が先行しているが、いずれも労基法の法意を捻じ曲げるもの。
高プロと云いながら、近い将来には年収限度が引き下げられ、対象職種が拡大するのは目に見えている。今や労基法は換骨奪胎法ともいえるのではないか。
国立を除く公立の教員の場合、あらかじめ給与の4%が上乗せされ、残業代は支払わないという制度が1971年から導入されている。これはよくよく眺めてみると高プロ(中プロ?)の先取り法であることがわかる。
この4%の名前が教職調整額。ネーミングのおかしさはあまり指摘されない。何が調整されているのか意味不明である。
この1月に出された中教審働き方部会の答申では、この制度、「堅持」との方針が盛られている。「4%」という数字すら検討しないのである。
私立高校などでは、同様の制度を導入しているが、4%は6%や8%あるいは12%としているところもある。労働実態からすれば、4%が現実の労働と引き比べた時、ほとんど意味をなさないことは明らかだから、こうした措置も出てくる。
ともあれ、意味をなさない教職調整額だが、給特法の正式名称もまた意味不明である。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」。
特別措置法とは何か?
一般には「緊急事態などに際して現行の法制度では対応できない場合に、集中的に対処する目的で特別に制定される法律」とされている。基本的には「期間や目的などを限って対応するために特別につくられる法律」のことで、イラク復興支援特別措置法や福島復興特別再生措置法などがそれにあたる。
この法律成立から48年が経つ。「特別措置」が半世紀近くも続いているのは明らかにおかしい。
さて5月10日、大学修学支援法が参議院を通過、成立した。
いわゆる高等教育無償化法である。
このネーミングも詳細を見てみるとかなり怪しいことがわかる。
実は「無償化」でも何でもない。中身は住民税非課税世帯などの低所得世帯の学生に対して入学金・授業料の減免措置と給付型の奨学金を支給するというものだ。
この法律のおかしなところは、今まで減免を受けていた学生が支給を打ち切られるという事態が生じること。文部大臣も「そういうこともある」などとしている。どこが無償化法か。
さらに無償でもないのに、資格だけはうるさい。
ただじゃ金は出さないぞ、だ。
高校卒業後2年までに入学した者と限るなどという用件がある。おかしな話である。生涯学習をうたってきた自民党の文教政策とも矛盾する。
さらにおかしいのはこの制度、学生個人に対しての支援ではなく、入学する大学に対してさまざまな条件が付いているところ。「無償化」という実態とは違う名前を付けて「良いこと」をしていると見せかけて、実は大学そのものに規制をかけようとしている。いわゆる「実践的教育」を行っている大学だけにこの制度が適用されるというのである。
具体的には実務経験のある教員の授業が1割以上あることや外部人材を入れている大学などの諸条件があり、これらを満たした大学を「確認大学」と認定して、学費を支援するというのである。
それで合点がいった。
昨年、大学から私のような一コマしか持たない非常勤講師に対してさえ、実務経験云々の「調査」があった。「確認大学」云々とは書いてなかったが、つまりこの制度の適用を受けようとする大学側のアクションだったことが、今にしてわかる。
「高等教育無償化法」、実は低所得者層の子弟を人質にした大学改悪法でもあるのだ。
確認大学で輩出される学生は、誰が望んだどのような人材か。そこに学問の自由や大学の自治はあるのか。
法案名が法の本質をあらわしているとは限らない。法案名には、政治家と官僚の悪知恵と隠れている。