セリフが少なくて長回しのカメラ、映画の中に流れる空気が穏やかで静かなところがとってもいいと思った。無味無臭のようでいて、気がつくと“ああ、いい匂いだったねえ”という感じ。

 

 

 

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遅まきながら『四月の永い夢』(日本・2017年・93分・監督中川龍太郎・主演朝倉あき)をみた。
 セリフが少なくて長回しのカメラ、映画の中に流れる空気が穏やかで静かなところがとってもいいと思った。無味無臭のようでいて、気がつくと“ああ、いい匂いだったねえ”という感じ。
 主演の朝倉あきという人、初めてみたのだが、魅力的な役者だと思った。表情だけでなく声そのものもいいし、声を発するタイミングもいい。

 監督の演出は、出来上がりがさらっとしている分、たぶんかなりねちっこいと思うのだが、それによく応えられるセンスに優れたものがあるのだろうと思った。

 彼女を中心に出演者が皆で見せてくれるセリフのないところでの感情の流れ、滞り、動きがとっても自然で、素晴らしい映画だと思った。いい映画はなるべくネタバレをしたくないので詳しくは書かないが、さまざまな伏線を言葉より映像に語らせようとしているのがいいなと思った。こういう雰囲気の映画は久しぶりだった。中川監督の映画をもっとみてみたい。

 ただあえて難をつけてみれば、物語の根幹部分、主人公の“初海”が、付き合っていた彼の死のどこにどう拘っているのか、周縁部分はほぼ語られているのに、中心部分がどうしても抜け落ちているように感じられた。彼の手紙の中に何か決定的なものがほしいというのではなく、ふたりの“すれ違い”、初海の”拘り”が私には今一つ伝わってこなかった。まれにみるいい映画であると思うのだけれど、そこがうまく落ちないと終始一貫して積み上げられた宝石のような断片が輝いてこないように思えた。それがこの監督の手法だと言われればそれまでなのだが、それにしてもその部分の”示唆”が私には足りないと感じられた。そのせいか後半少し漫然としたものを感じたのも事実だ。受け取る側のセンスの問題だろうと言われれば、それまでなのだが。

 もう一つだけ。初美の教え子でジャズ歌手を標榜する楓役の川崎ゆり子という人のこと。演出のうまさでもあると思うのだけれど、若い女性教師に対する中学時代の教え子(初海は蕎麦屋でアルバイトをして暮らしているが、3年前までは元中学の音楽の教師、彼の死をきっかけにやめ、楓はその頃の教え子という設定)の一種独特の軽さというか、セリフ回しも含めてあっけらかんとした演技がとっても自然でリアルなのに驚いた。劇中で歌うたのだけれど、これもいい。

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右が朝倉あき、左が川崎ゆり子

 それに比べると、三浦貴大や高橋惠子や志賀廣太郎は、設定もセリフも少しはまりすぎている感じがした。