『大いなる不在』圧倒的な藤竜也の存在感。今年の邦画有数の一本だと思う。

2024年8月の映画寸評⑤

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば    ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

(62)『大いなる不在』(2023年製作/133分/G/日本/脚本:近浦啓 熊野桂太/監督:近浦啓/出演:藤竜也 森山未來 真木よう子 原日出子ほか/劇場公開日:2024年7月12日)     kiki   8月17日 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

長編デビュー作「コンプリシティ 優しい共犯」がトロント、ベルリン、釜山などの国際映画祭に招待され高い評価を得た近浦啓監督の第2作。森山未來が主演を務め、藤竜也と親子役で初共演を果たしたヒューマンサスペンス。

幼い頃に自分と母を捨てた父が事件を起こして警察に捕まった。知らせを受けて久しぶりに父である陽二のもとを訪ねることになった卓(たかし)は、認知症で別人のように変わり果てた父と再会する。さらに、卓にとっては義母になる、父の再婚相手である直美が行方をくらましていた。一体、彼らに何があったのか。卓は、父と義母の生活を調べ始める。父の家に残されていた大量の手紙やメモ、そして父を知る人たちから聞く話を通して、卓は次第に父の人生をたどっていくことになるが……。

主人公・卓を森山未來が演じ、父・陽二役は「コンプリシティ 優しい共犯」でも近浦監督とタッグを組んだ藤竜也が務めた。卓の理解者となる妻の夕希役は真木よう子、行方知れずの義母・直美役は原日出子。第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で藤竜也がシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞。

                 

久しぶりに深みのあるいい邦画を見た。

近浦監督、2作目とは信じられない。共同脚本も優れたもの。息子卓の演劇のリハーサルの映像と台詞がストーリーの流れを壊さずにイメージを膨らませている。そのせいで流れが単調にならず、時系列の入れ子状態も自然に入ってくる。入れ子状態が見る側に緊張感と集中をもたらし、台詞や動作の奥行きをつくつくり出している画像2

もちろん森山未來もいいけれど、何と言っても藤竜也だ。今まで何本も出演作を見てきたが、本作が図抜けてベストだと思う。妻や子に対しまともな向き合い方をせず、別の女性に思いをよせ、家庭を捨てた頑迷でかつ純粋な大学教授の役を見事に演じている。年を経て、まだら認知症の状態での不安な気持ちの演技は深い。性格が認知症によって際立つシーンはなんとも悲しいほど確信的でいい。認知症ギリギリ手前でのスピーチシーンはほとんどノーカットで10分ほども続く。このスピーチがまだらなのかそうでないのか見る方は息を呑んで見守る。81歳の演技、驚異的だ。

卓とその妻によって少しずつ明かされていく父親の人生。しかし、最後までその人生の輪郭はぼやけたままだし、ささやかな希望すらない。人はこうして老いていく。自分ではどうにもならない人生の末路。110番して「事件です!」と叫ぶ姿。

見ているのが辛いところもあったが、映画を見る愉しみも十分に。

まだまだいくつもの賞を受賞するのではないか。

北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」で特別生涯功労賞を受賞。その時の受賞スピーチがyoutubeにある。流暢な英語でのスピーチの中に、50年前『愛のコリーダ』がこの映画祭に呼ばれながら検閲の関係で上映されなかったことに触れている。

前作『コンプリシティ 優しい共犯』(2019年)も近浦・藤のコンビだった。3作目が楽しみだ

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