東京新聞の海洋放出報道に疑義あり。

昨日の東京新聞夕刊に、今中哲二氏の原発処理水放出についての論考が掲載された。

 

今中氏は、「薄めても放射性物質がなくなるわけではな」く、「漁業者をはじめとする多くの団体や地元議会の反対派無視された。」と、今回の事態を明確に評価、批判する。「2015年に福島県漁協連合会に対して政府・東電は、関係者の理解なしにいかなる処分を行わないと文書で回答している」にもかかわらず、岸田首相に「漁業者との信頼は深まっている」「風評被害対策をしっかりやります」と言われると、「かつて『最後は金目でしょ』とうそぶいた大臣を思い出す」と痛烈に皮肉る。

 

今中氏の主張は明快だ。

「第一原発からこれ以上余計な放射性物質を環境に放出すべきはない。放射性排水は大きなタンクで貯留するか固化するかして、東電の責任で長期保存すべきだ」

 

タンクの設置場所は、約10キロ㍍離れた場所に廃炉の決まった第二原発があるじゃないかという。

ALPSで除去できないトリチウム半減期は12年、10倍の120年が経てば千分の1になる、もう120年たてば百万分の1の自然界レベルになる。

 

素人が考えても第一原発内の敷地にはまだ余裕がある。専門家の今中氏も

「第一原発敷地内でもタンクの増設はまだまだ可能だ」と言う。

 

今中氏の結論は次のようだ。

「政府・東電がやるべきは、まずは海洋放出を中止して関係者の意見を聞き、同時に地下水の流入を防ぐ頑丈な遮水壁を、壊れた原子炉の周りに設置して根本的な流入防止対策を進めることだ。」

こうすることで、デブリに触れて汚染された水が、壊れた格納容器から建屋の地下に流れ込み、外から入ってくる地下水と合流して増える汚染水をコントロールできるということだ。

 

明快だと思う。

私の疑問は、汚染水を少なくし、海洋放出をしないで済む方法が提案されているにもかかわらず、何ゆえに政府は前のめりに海洋放出をしようとするのかということ。

 

そしてもう一つ「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とした約束を政府が明らかに反故にしていることに対し、メディアは何ゆえにきちんと反対の論陣を張らないのかということだ。

 

東京新聞は3・11以後、福島に拠点を置き、先進的な報道を進めてきた。にもかかわらず、放出反対を打ち出していない。今中氏の論考を掲載するという形で「反対であるかのような」姿勢であるやに見えるが、先日の大臣の「汚染水」発言においては、

IAEAの定めた国際基準をクリアしているという点から、海洋放出致し方なしとの姿勢に見える。残念である。

 

IAEAが、国際的に公平な機関でないことは、東京新聞が今まで指摘してきたところだ。

巨額の拠出金のうち日本が占める割合は10%以上。15年度で加盟国中2位。

20年度の外務省の拠出金の総額は63億円。外務省以外でも本年度予算で、原子力規制庁が2億9千万円、文科省が8千万円、経済産業省が4億4千万円、環境庁までもが3千万円を拠出している。合わせて各省庁から多数の人員派遣も行なっている。

全て東京新聞の記事によるが、海水で希釈して海洋放出は日本はじめ加盟国には原発推進の国々が多いわけで、「推進」にとっては海洋放出は何と言っても「安上がり」の方法だということだ。

今中哲二氏

目的は「廃炉と復興」というより、海洋放出を粛々と進めることで、国を挙げて原発新増設へ向けて原発新次元を現出させることだと言って良いのではないか。

中国からの「常軌を逸した」批判に対して、国際基準にのっとって放出して何が悪い?と開き直る政府。

こうした状況に対して、現在の東京新聞の報道を見ていると、社会の木鐸の役割を十分に果たしているとは言い難い。

他のメディア同様、海洋放出仕方なしに止まるのか、海洋放出中止すべしを打ち出すのか、旗幟鮮明にしてほしいと思う。