全国各地で「ウクライナを救え」という募金活動が活発だ。自治体が率先してウクライナの国旗を掲げたり、募金のお礼にとウクライナ国旗のシールを配っているところもある。募金をした人は眼鏡の蔓などにそれを貼り付けている。
国旗を模したウクライナ丼なるものを売り出し、募金を募る飲食店も。
「自分ができる方法でウクライナを支援したい」と店主。
ネットではウクライナ支援グッズが大量に売り出されている。
いやだなと思う。
これって「絆」がはやった震災の時と同じ構図だ。思考停止。想像力が欠如していると思う。
マスコミが流し続ける強大なロシアの攻撃、銃撃、砲撃のまえにおびえる人々や子どもたち、多くの避難する人々、銃をもって戦ってほしいと国民に呼びかけるゼレンスキー大統領・・・いま日本で国旗で括られるウクライナはこうして報道されるウクライナだ。そしてその報道はアメリカ+NATOの視点によるものがほとんどだ。
あたりまえだが、ウクライナはブルジョア国家である。そこには資本主義にかなった政権が樹立されており、国家としての体裁が整った体制があり、国会には政権を取り合う与野党がある。同時にロシアのようにオリガルヒも存在するし、統制された強大な軍部や地下活動を続ける諜報組織もある。もちろん政権にまつろう富裕層も形成されている。これらいわゆる国家の支配層がウクライナにも存在し、その中心人物のひとりがゼレンスキー大統領だ。
ポピュリストと言われるゼレンスキー大統領の支持率は、ロシアの侵攻前は41%、侵攻後は91%。国民の先頭に立って逃げずに戦う大統領という図が世界中に発信されて、今や彼は世界で最も人気のある大統領だ。俳優、コメディアンでもある彼は見かけもいい。略軍装のTシャツもよく似合う。ピン芸人として絶大な人気を誇った経歴からすれば、テレビカメラの前で演じることは彼の最も得意とするところ。
しかし侵攻前は41%。今の岸田首相より低い。これがゼレンスキー大統領に対する国民の評価だった。国内政治が人々に受け入れられていたと言い難い政治家だった。
その彼がロシア侵攻を前に国民を鼓舞し、世界に向けて発信、いくつもの国の国会でオンラインで演説し、武器の供与を頼み、願わくば一緒に闘ってくれと言う。
そうした彼の姿と逃げ惑う多くの避難民の姿がセットとなり、ウクライナの国旗にまとめられ「ウクライナがんばれ」となっているのが今の日本。
一方、ロシアの国旗は忌避され、ロシア料理の店やロシアに関わる企業は敬遠される。
ロシアの中で政権に対し、戦争をやめろと闘っている多くの人たちがいる。1万数千人を超える人々が拘束されても、なお闘い続けている人々がいる。
その人たちを応援するのに、ロシア国旗は使わない。
どんな時でも、政権と民衆は別ものだということだ。大事なことは民衆同士が連帯することだ。
戦場で命を落とすという点では、ロシア兵もウクライナ兵も同じ。
報道される「ロシア兵も数千人が死亡」という報道を、ロシアも攻めあぐんでいるんだなとスポーツを見ているように受け止めていないだろうか。
戦争はスポーツに似ているが、スポーツでは人は死なない。
戦争では、片方に肩入れして「がんばれ」と言っているうちに、多くの人々が命を失くす。
戦争の当事者となったとき、「がんばれ」と言えるか。
東京大空襲を生きのびた方々が、ウクライナの人々の恐怖を我がことのように感じている。逃げて、自分を命を守って、と言う。
戦場の恐怖やにおいや空気が私にはわからない。でも想像はできる。
だからウクライナの国旗を身に着けない。ウクライナがんばれ、とも言いたくない。